勝負を分けるのは、1万箇所を回す「巡回データ」という足腰
GENDAの現場で極めて重要なのが、無人筐体を巡回して景品を補充する「ラウンダー」の動線管理である。新管理システムへの移行に伴う現場の負荷で、2025年10月から11月にかけて、月間の巡回数が約4割低下した時期があった。IP景品は鮮度が命であり、ぬいぐるみの入れ替えが滞れば直ちに売上に響く。
そこで本部は「どの筐体に、いつ、何を補充するか」「最短の巡回ルートはどれか」を業務アプリで指示し、指示どおりに巡回したかをポイントで評価する仕組みに改めた。移行からわずか数ヵ月で、旧システム時の売上水準を上回る回復を見せている。
ここに、同社の本当の「飴玉」が見えてくる。GENDAが米国で手にしているのは、ぬいぐるみの販売そのものではなく、1万箇所超の補充タイミングをコントロールする「巡回データ」と、それを活用するビジネスの型だ。AI業務アプリ「Kiddleton Force(キドルトン・フォース)」と、顧客向けアプリに蓄積されるデータは、いずれ景品単体以上の経済的価値を持つ。
気を抜くと他国に出し抜かれる…IPビジネスは日本の専売特許ではない
こうした「棚」と「型」の勝負は、日本の専売特許ではない。たとえば、かつて「プリントシール機(プリクラ)」を生み出したのは日本だった。しかし現在、米国の街頭で急速に店舗を増やしているのは、韓国発のセルフ写真館「Life4Cuts(人生4カット)」である。2023年に米国1号店を開設。フランチャイズ展開に加え、韓国系スーパーなどに機材を供給するパートナー契約を結び、自販機を置くように「Shop-in-Shop」形式で拠点を広げている。提携設置を含め、全米で推定70箇所以上に上る。
日本のプリクラが美白や目元の強調といった「加工技術」を追求したのに対し、Life4Cutsは過度な補正を避け、自然な陰影やY2K風のレトロ感を4コマ形式で残すのが特徴だ。完全無人化・省人化のオペレーションで、1回の利用料は10ドル前後(約1,500円)に設定されている。
ここにもクレーンゲームと同じ「型」がある。無人の専用装置、手頃な単価、毎週入れ替わる「フレーム」というIP景品、SNSでの二次拡散。そして、他社店舗の一角に置いて拠点を広げる「棚」の押さえ方だ。唯一の違いは、「写真館という棚」を押さえたのが韓国企業だった点である。クレーンゲームの棚は日本が取り、写真館の棚は韓国が取った。
IPを売る「足腰」を持つ者と組めるか。日本企業への示唆
日本のアニメやキャラクターIPの海外展開を、単なる「物販」や「箱物のイートテインメント」という視点で捉えるのは避けたい。底値の床、既存小売の空き棚、M&Aによる拠点の量産、補充を最適化するAIシステム、現場の巡回という足腰とデータ、そしてこれら運営モデルそのもののパッケージ化。これらを「統合した型」として捉えるところに、日本ビジネスの価値がある。
IPを保有する立場であれば、こうした型を持つ床や棚の運営者と組むことが最初の選択肢となる。一方、IPを持たない立場であれば、自社のサービスや物販で「ここでしか手に入らない体験」の価値をいかに築き、守り育てるかが問われる。次にどの棚・床(紙芝居)を押さえ、そこにどんな飴玉を乗せるのか、先に手を打っておきたい。
「日本で人気のIPだから」という理由だけで売れるほど甘い市場ではない。現場とシステムという見えない技の蓄積があってこそ、IPは初めて海外で稼ぐ力に化けるのだろう。
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榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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