ウェブ解析の5つのステップ
「7割の企業がウェブ解析を導入・あるいは検討」(インプレス刊・インターネット白書2009)という状況の中、ウェブ解析は導入から“いかに活用するか”への成熟期に入りつつある。同社ではウェブ解析データ活用は、次の5つのレベルがあるとしている。
- レベル1…計測
- レベル2…改善
- レベル3…自動化
- レベル4…拡張
- レベル5…革新
レベル1はデータを取得して何が起きているかを把握する“計測”、レベル2はウェブ解析データを活用してPDCAサイクルを確立する“改善”、レベル3は、解析データとその他のマーケティングツールをシステム的に連携して行う改善行動の“自動化”、レベル4はオンライン以外の顧客接点で得られるデータと融合させて分析する“拡張”、レベル5は、ビジネス効率を最適化して新たな価値や業務プロセスを創造する“革新”。現在多くの企業が、レベル1の計測~レベル2の改善段階ではないかと推測される。では、次のステップへ進むためには、どのような活用法が考えられるだろうか。
自動入札ツールへの活用
リスティング広告(検索連動型広告)市場は活況であるがゆえに広告費そのものが高くなり、絶え間なく入札を行わなければならない運用面でもコストがかかるため、以前のような効果を出しにくくなっているという声も聞く。その打開策の1つが、自動入札ツールによるコスト効率アップだ。
自動入札ツールは、何らかの指標・ロジックに基づいて自動的に入札額や掲載順位を調整するもの。ビジネスに合致する指標を元に自動入札のルールを組んでいくべきだ。このルール作りには、広告費に対する売上や、新規の訪問者数、などのウェブ解析データが役立つ。
オムニチュアのウェブ解析ツールSiteCatalyst(サイトカタリスト)と入札管理ツールSearchCenter(サーチセンター)を利用する、ホビー系ECサイトのハピネット・オンラインでは、広告費用対効果などのウェブ解析データと広告運用データを分析し、自動入札を行った結果、オーバーチュアの広告費用対効果が174%から266%へ、Goolgeアドワーズも197%から237%へと大幅にアップしている。
サイト内検索への活用
サイト内部の施策の1つとして挙げられるのがサイト来訪者が利用するサイト内検索機能の最適化だ。サイト内検索は、頻繁に使われる機能の1つで、これをウェブ解析に基づいて最適化することで、サイトの収益アップが期待できる。
サイト内検索への施策として、“0件検索”への対応が考えられる。検索結果がないときは、利用者としてはかなり意欲を削がれる場面のため、適切な対処によりサイトからの離脱を防ぐことができる。まずウェブ解析データを使って0件検索が発生しているキーワードを把握できれば、その後コンテンツを用意するなどの対策を考えられるだろう。
たとえ0件であったとしても、類義語や関連ディレクトリの案内、「こんなものをお探しですか?」といった問いかけ、おすすめ商品の案内などの対応も有効だ。加えて、カテゴリやブランド、金額で絞込むなどの“絞込み検索”の条件を、訪問者がよく利用するものを元に最適化する施策もある。例えば、冷蔵庫を買う人がカテゴリで絞り込む際にいちばんコンバージョンしているのであれば、カテゴリの絞込みは目立つ場所に配置するといった改善だ。
サイト内検索の結果ページそのものも最適化できる箇所と言える。検索結果が発売日や価格、登録日付順に並ぶのではなく、ウェブ解析結果からアクセス順や売れている順、または利益率順に並べ変えることでビジネス上の効果を狙える可能性が高まる。オムニチュアに対して行った取材では、某EC企業がサイト内検索の最適化実施後の四半期で売上げ50%向上を達成した例もあるとした。
ターゲティングへの活用
ウェブ解析データを応用することで、訪問者の属性や行動にあわせてターゲティングしたコンテンツを提供することができる。ターゲティングを行うためのセグメンテーションに活用できるウェブ解析データは、属性データと行動データの2種類があり、属性は、個人や法人、男性や女性、新規顧客か既存顧客か、などさまざまだ。行動データはほぼウェブ解析で捉えられるため、キャンペーンや検索ワードなど、何をきっかけに訪問したのか、どのページを遷移したのかなどでセグメントしていく。
セグメンテーションを使って何らかの対応をする簡単な考え方として、2つの属性を掛け合わせて傾向を見て、適切な対応するという手法がある。例えば、ある商品を購入している人に男性が多いなら、そのプロモーションは男性を意識したものにしたり、あるリスティング広告経由の訪問は、週末が多いのであれば週末にその広告の入札額を上げてより多くの顧客を呼び込むなどが考えられる。
メールマーケティングへの活用
ターゲティングしたコンテンツ施策は、サイト内だけではなく、eメールでの販促にも有効だ。商品を購入した人もいれば、同じ商品をカートに入れたまま離脱してしまう人もいる。こうした行動データをもとにセグメントしてメール配信システムにつなげる。例えば、iPodを買った人にはipodのケース、Nintendo DSを買った人には対応ゲームソフトというように関連性のある何かをプロモーションしていく。カートに入れて離脱してしまった人も、興味を持っている可能性が高いので『今週買うと10%オフ』などの割引や特典の情報を伝えることで、再訪問を促してコンバージョンを増やせる可能性がある。アメリカでは、ケーブルショッピングネットワークが、メールのターゲティングで四半期あたりの売上を200%強増やすことに成功した事例もあった。
オフラインデータとの統合
これまで説明した施策は、レベル2の「改善」やレベル3の「自動化」であったが、ここで紹介するオフラインデータの統合施策は、オンライン以外の顧客接点で取得したデータと統合すレベル4の「拡張」だ。
当然ながらビジネスにおけるデータは、Webだけから取得するわけではない。Eコマースサイトは、基本的にWebサイトで購入まで完結するので、何人来て、何を買って、いくら使ったというところまでは把握できるものの、キャンセルや返品、商品ごとの利益などの情報はウェブ解析データからは見えない。
リード獲得サイトの場合、サイトに訪問して資料請求や問い合わせした内容は取得できるが、その先にオフラインでの提案や購入がある。このように、ビジネス全体の情報を分析しないとWebの施策が成功したかどうかはわからない。このため、オフラインのデータとウェブ解析データを連結させることは非常に重要だ。
リード獲得サイトに関しては、通常キャンペーンを打ってリードを取るまではマーケターが担当し、その後の商談・成約は営業が担当するという、組織の分断がある場合が多い。双方のデータを関連付けることができれば、リード単価や商談獲得単価、成約獲得単価といった指標を設定でき、最終的にはキャンペーンの投資効果まで見ることができるようだ。
メールマーケティングへの活用がお勧め
ウェブ解析データの活用にはさまざまな手法がある。Webマーケティングを行い、ウェブ解析に基づく改善活動をはじめたばかりの企業が次のステップで行うべき施策とはどんなことだろう。
当然、成果のある施策は、業種や商材によって変わってくる。例えば旅行会社や中古車販売など、リスティング広告をよく利用する業種ならリスティングの管理を自動化するなど、現在行っている施策を主軸にステップアップさせやすいのではないだろうか。
サイト内検索の最適化やコンテンツのターゲティングは、ECサイトをはじめ、あらゆるサイトに応用できる手法と考えられるが、メディアの場合なら、訪問頻度向上のためのコンテンツ施策に注目すべきだろう。また、ウェブ解析によってより細かなターゲティングができるようになったことから、メールマーケティングのブームが再燃している。
オフラインデータとの統合は、組織をまたいで行わなければならない場合もあり、導入ハードルが高そうな印象を受けるが、ECサイトで商品ごとの利益額を追加入力するのはそれほど難しくなだろう。利益額はすぐに調べれば分かるだろうし、商品データのCSVに利益額の列を追加してアップロードすれば管理できるようになる。
リード獲得サイトの場合は、部門をまたいだ体制づくりが必要なため比較的難易度が高いと言える。容易なことではないが、組織全体で一丸となって推進していけば、レベル5の“革新”に到達できるだろう。ステップアップを試みるためのきっかけとして、お勧めなのはメールマーケティングへの活用だ。メールマーケティングは比較的歴史がある施策なので、認知が進んでいる組織も多いと予測される。メールが“革新”への突破口に近いのではないだろうか。
いずれにしても、ビジネスに取り組んでいる中で『ここは何とかしたい』と悩んでいる部分は必ずある。そこで「ウェブ解析データを使ってみよう」と考えてみてはどうだろう。