ミッション:紙メディアコンテンツを電子書籍としてプロデュース
iPadやキンドルなどの登場に象徴されるように、紙コンテンツのデジタル利用の環境が急ピッチで整い、今後の需要が大いに期待されている。特にコミック王国といわれる日本では、その潤沢なコンテンツをデジタル化し、配信するサービスが急成長しつつある。その牽引役として、延べ40万人が利用し、世界最大規模のコミック蔵書を誇るのが、イーブックイニシアティブジャパンが展開する電子書籍ダウンロードサービスの「eBookJapan」だ。
eBookJapanでダウンロードできるのは、一部を除き、紙メディア出版社から発表された作品となっている。その紙からデジタルへの橋渡し役として重要な役割を担うのが、今回紹介する足立圭吾さんら「編集部」である。しかし、一般的な出版社などの編集者の仕事とは少々異なるようだ。
「既存の作品をデジタル化するために、一番はじめのハードルは『版権』の取得です。出版社の版権担当者、作者のプロダクション、もしくは作者本人などが版権を保有しているのですが、そうした方々にデジタルブックの価値を紹介し、作品をデジタル化する了解を得る必要があります。ただ、やはり紙を相手にしてこられた作家さんは、まだまだデジタル化することに躊躇されることが多いんです。ですから、デジタルブックが決して紙のライバルになるわけではないこと、著作権が侵害されない工夫がなされていることなどを、ていねいに誠実に説明するようにしています」
一方、出版社の場合、デジタル化対応の窓口が設置されているなど、その有用性や可能性が理解されつつあるという。まだ数は少ないものの、出版社側からのデジタル化への打診も増えてきたという。しかし、必ずしもスムーズに交渉がまとまるわけではない。
「出版社の方が一番気にされるのは、まずはタイミングですね。映画やゲームなど、コミックが様々なメディアと連動することがごく当たり前になってきた今、デジタルブックもその一環としてみられます。ですから、出版社としては映画化されるなどのタイミングにデジタル化を合わせたい。そうしたタイミングを逃さずに提案することが欠かせません」
それでも、希望するリスト通りにデジタル化が進まない場合もある。また、人気の作家や作品の場合、仕入れ率アップを要求されることもある。しかし、できるだけ誰もが参加できるフラットな場づくりのためには、デジタルブックの売上そのものが指標となり、できるだけ公平な条件であることが望ましい。さらに、売れる作品だけを集めるばかりでなく、デジタルという利点を生かして、ロングテール型のビジネスも展開しているという。
「人気作品だけでなく、その作家の別の作品やテイストの似た作品なども読まれています。過去の作品の見直しや、隠れた名作が脚光を浴びるといった相乗効果につながっていけばいいなと思います」
そうした隠れた作品への気づきを促すような試みや工夫が、eBookJapanには随所に施されている。たとえば、おすすめのタイトルをまとめた「中吊り」というバナー群や、編集者のおすすめ、もちろん関連作品といった「レコメンド」も怠らない。こうした販売企画や特集なども足立さんの仕事の1つである。
「“中吊り”やおすすめなどの企画をし、ラフを書いて、『プロモーション部』に作成してもらっています。その後も、デザインなどに対する確認や、著作権などについて、編集部がコントロールし、常に工程についてもチェックを行っています。やはり作品を知っているのは、作家や出版社の意図を知る編集部なので、企画や見せ方を決定し、その後の制作工程でもマネジメントをしていく、そんな代理人的な立場で関わることになりますね」
こうして企画されたタイトルのコンテンツは、まずプロモーション部で登録を行ない、その後、制作部でデジタルデータの作成に入る。作成されたデータはサイト運営部でサイトに登録され、表示されるようになるという流れだ。編集部はサイトへの最終アップまで、作者の代理人として問題がないかを意識し、問題があれば緊急に対応することになる。
「紙の作品は、作家以外に表紙のデザイナーさんが著作者になることもあり、複雑な権利体系になっています。それらについて実際の過程で調整すべきことが生じた際には、至急対応するのも私たちの仕事なんです」
著作権や版権など、権利関係はとてもナーバスなことが多い。足立さん自身もそこに一番神経を遣うという。その一方で、実際に作家に会うことで漫画が誕生した裏話を聞けたり、「漫画好き」には役得と思えるようなことも多い。
「好きでなくてもできると思いますが、好きなら楽しめる仕事ですね。たとえば、権利関係が厳格とはいえ、ただそれを守ればいいというものではなく、作家や出版社、編集者の思いがちゃんと反映されているか、それを意識することが重要でしょう。漫画好きならそうしたこだわりも理解することができる。とはいえ、個人的に好きなものばかり扱っていればいいというものでもないので、それがなかなかきついところでもありますが(笑)」
そんな足立さんの1日はどのようなスケジュールになっているのだろう。(次ページへ続く)