「動画でリッチ体験」だけではもったいない。動画で集客面でも上積みを
Googleでは数年前から、画像や動画、地図、ニュースなども検索結果ページに表示するようになっている。例えば「動画SEO」と検索すると、YouTubeにアップされている動画がファーストビューで表示される。
何年か前から「動画を使ったSEOをしよう」と提案する企業も現れているが、動画SEOにもそろそろ本格的に取り組むべき時なのかもしれない。というのも、ここ1~2年で動画のトラフィックが急増。2010年には全体の51%を占めるようになっているのだ。
「全体の51%のトラフィック」と言われても、「YouTubeなどの動画共有サイトのトラフィックが大部分を占めているんだろう」と思う人も居るかもしれない。
だが、動画共有サイトのトラフィックはそのうちの半分程度。残り半分は企業サイトに掲載された動画が生んだトラフィックなのだ。
動画先進国のアメリカでは、動画は「差別化のためのコンテンツ」ではなく、競合他社に差を付けられないために「必須のコンテンツ」。
日本でも自社サイトやランディングページでの滞在時間/コンバージョン率などを向上させるため、動画を導入する企業が増えてきているので、制作済みの動画コンテンツ数も当然多くなってきている。
つまり、動画の視聴が一般ユーザーにも浸透し、企業側も動画コンテンツを持つようになった今こそ、日本でも動画を使ってユーザー体験をリッチにするだけではなく、動画を使った検索エンジンなどからの集客を意識してみても良いのではないか、ということ。どうすれば動画SEOで集客できるのか。
アメリカで成功している企業の事例を取り上げながら、動画SEOを推進する勘所を紹介していこう。
動画SEOに果敢に取り組むニッチ企業
SaaS(Software as a Service)型の動画配信プラットフォーム「Brightcove 5」を提供するブライトコーブ株式会社のマーケティング&プロダクトマネジメント シニアディレクターである須賀正明氏(写真左)によると、同社顧客の中で動画SEOの成功事例として挙げられるのはOpto 22というメーカー。
工場のオートメーション化、遠隔制御、プロセス制御といったところにかかわる硬派な製品を開発・製造している。
非常に専門的な製品群を扱っているだけに、どんな製品か、導入のメリットは何か、といった情報を文章と画像だけで伝えるのは難しい。そこでまずは自社製品を分かりやすく伝えるために動画を導入。
女性が製品を説明する動画を用意しつつ、LinkedIn、Facebook、Twitter、RSSなどとも連係させて潜在顧客の囲い込みを図った。
しかし、専門的過ぎる製品群のため、そもそも自社サイトに人が集まらない。リスティング広告で集めようとしても「遠隔制御」「プロセス制御」といったワードの検索ボリュームは極わずか。集客しようとしても数が取れない状況だった。
「そもそもキーワードのボリュームが無いのでどうしたらいいのか、というところで行き着いたのが動画です。中でもYouTubeに動画をアップするのが一番効果的でした」と須賀氏はOpto 22の置かれていた状況を説明する。
工場関連のワードでGoogle検索した時、YouTubeにアップした自社動画が表示されるよう、動画のタイトルやタグ、説明文をチューニング。リスティング広告だけではなく、検索結果ページの動画欄でも自社コンテンツが表示されるようにして、画面内の占有率を高めようとしたのだ。
Opto 22の取り組みで特筆すべきなのは、自社製品と直接的な関係のあるワードだけでなく、リスティング広告の出稿がブロックされそうな関係性の薄い企業名や業種名、地名などでも自社動画が表示されるように工夫しているところ。
例えば、アメリカの大手通信事業者に自社製品が導入されたことがあるのなら、その通信事業者の社名の検索結果ページでも自社動画を表示させようとした。
「プレスリリースした導入事例を覚えていて、導入先の企業名で検索されることもあると考えての対策です」(須賀氏)
導入実績のある企業名と同様に、導入実績のある業種名、導入企業の工場が存在する地名などでも上位表示を狙うことで、ロングテールからの獲得も増やしていったのだ。
ロングテール狙いで多数の動画をYouTubeにアップ。反面、動画の管理が煩雑に
Opto 22はYouTubeにチャンネルを開設。会社紹介や製品説明、導入事例などの分かりやすい動画を載せて、各動画の最後に自社サイトのURL・問い合わせ先の電話番号などを掲載、興味を持ってくれたユーザーを自社サイトに誘導しようとした。
チャンネルに掲載しているのは、同社が制作した動画コンテンツの6割程度に当たる50本前後。YouTubeの仕様上、15分以上、あるいは2Gバイト以上の動画はそもそも載せられないが、製品導入済み企業向けのトレーニングといった深い内容の動画も除外し、軽めの動画でまずは認知を取ろうとした。
「YouTubeで認知を上げ、検索でもヒットするようにする、というのがOpto 22の戦略です。動画を視聴してくれたユーザー全員が来訪してくれるわけではないでしょうが、来訪してくれる人はそれなりに興味を持ってくれています。興味を持っている来訪者に自社サイトでさらに深い動画を見せることで問い合わせを入れてもらうことが、動画マーケティングの大きな流れになっています」(須賀氏)
Opto 22はさまざまなワードで検索結果に自社の動画が引っ掛かるよう、試行錯誤を重ねながら動画のタイトルやタグ、説明文をかなりこまめに修正してきた。それをYouTube上での動画50本分、さらに自社サイトで掲載する全動画分の修正を、別々に1本ずつ修正していると作業量は膨大になってしまう。
そんな作業の手間を軽減してくれるのがBrightcove 5が備えるYouTube Syncの機能。動画のタイトル・タグ・説明文などのメタデータをBrightcove上で一元管理し、自社サイトとYouTubeで掲載している動画の内容を同期させて自動更新できる。
「この動画は新規ユーザー向けなのでYouTubeにアップする。その動画は導入済みのユーザー向けなのでアップしない」といったルールを作成しておけば、条件を満たす動画だけをYouTubeと同期するように設定することも可能。不要になった動画はBrightcove上で指定すれば、自社サイト・YouTubeの双方から自動で削除される。
口コミが起こりにくい製品を扱うBtoB企業には動画SEOは一層重要
せっかく動画を制作したのなら、動画を使って集客も強化する。
Brightcoveには元々、TwitterやFacebookと連係して口コミを促進するような機能は備わっていたが、直近のアップデートでYouTube Syncなどの動画SEO関連の機能が新たに加わっている。近日中にもGoogleに動画サイトマップを自動送信する機能が追加され、「3回くらいのクリックでサイトマップが自動生成されるようになる」(須賀氏)という。
実装されれば、動画に出ている俳優などの肖像権の問題などからYouTubeに動画をアップできないという企業も、動画SEOに取り組みやすくなるだろう。
ちなみに動画サイトマップを送るか送らないかで、Googleにインデックスされる動画の本数はまったく違う。ブライトコーブの資料によると、動画サイトマップを送信する前まで176本しかインデックスされていなかったものが、導入後は約27倍の4824本も認識されるようになったそうだ。
「YouTubeは巨大なサイトで人もたくさん集まります。以前はただ動画を載せるだけでもそれなりにトラフィックが集まりましたが、今はアップするだけでは見てもらえません。タグを使ってYouTubeでの検索に引っ掛けようとする企業が現れ、続いてGoogleの検索結果にも反映されるようになりましたから、さらに検索対策をしようという流れが強まりました。BtoC企業なら動画で口コミを起こす仕掛けをやりやすいでしょうが、BtoB企業の場合は口コミが起こりにくい。その分、検索エンジン対策の重要性が大きくなっているのではないでしょうか」(須賀氏)
Brightcoveは今後も「動画で集客する」部分の機能開発に注力していく計画。YouTube Syncの機能を拡張し、既に備わっているPodcast、Facebook、Twitterなどとの連係機能についても強化していきたいと須賀氏は話している。