その数字は多いのか少ないのか?
Webマーケティングを推進すると、数字についての質問を受けることが多くなる。
例えばページビュー数。「当社は10万ページビューあるのですが多いのでしょうか? 少ないのでしょうか?」というような質問だ。あるいは「Webからの問合せが20件あるのですが多いのでしょうか? 少ないのでしょうか?」という質問も多い。
他社の平均を知りたくなる気持ちは非常によくわかる。過去に充分なWebマーケティングの実績がない企業では、自社だけでは比較できるデータに乏しい。上司から説明を求められたときも、比較や根拠なしにはデータの説得力が出でない。やはり外部評価が欲しくなるものだ。
しかし、正直に言うと、Webマーケティングで得られる数字は単純に他社と比較をして良し悪しを判断できない。仮に他社よりも良かったとしても、その企業にとって本当にWebマーケティングを促進し続けるのが良いのかは判断が難しいのだ。
成果につながるも効果があったのかがわからない
H社からご質問があったときも同じような状況であった。もともとH社は、月間数件しかWeb経由の問い合わせ数がない状況だった。しかし、Webサイトのリニューアルプロジェクトを半年で完了させた結果、問合せ数や資料請求数の合計が30件にもなった。もともとの数からすれば10倍以上の成果である。
さらに成果を押し上げるために、リスティングの運用を実験的に行った。結果は1件あたりの獲得コストが30,000円程度であった。
すると、社内では「1件あたり30,000円」という価格をめぐっていろいろな意見が噴出する。法人部門からは商談の規模がそこそこあるのだからそんなに悪くないのではないかという意見がでたり、普段商品単価が数千円のBtoC部門からは圧倒的に費用が高いのではないかという意見がでる。
つまり、成果が得られたのにも関わらず効果が判断しずらいのだ。
BtoBにおけるWebマーケティング分析の難しさ
このような事態に陥る理由はBtoBならではの3つの分析の難しさが起因する。
Webサイト上のアクセスログだけのデータではすべての情報が完結できない
1つ目はWebサイト上のアクセスログだけのデータではすべての情報が完結できない点だ。【図1】は、集客からWebサイトに誘導し、サイト上でコンバージョンとなり、その後、人的な営業にて受注を向かえるまでの流れをデータの面から追った図である。
この一連の流れの中で、データ連携という点においてハードルが高いフェーズはコンバージョン後だ。コンバージョン後は、営業部門に顧客もデータも引き渡される。そのため、部門を越えてデータ取得を行なわなければならない。
大きな組織になればなるほど、それはとても難しい作業となる。さらに、Aというコンバージョンが、Aという商談として受注したのか、提案中なのか、失注したのかを顧客ごとに追いかけられなければWebマーケティングの効果を評価できない。つまり、部門を越えてデータを連携/連結しなければならず、それだけでも相当な苦労をするはずだ。
リードタイムが長い
2点目はリードタイムが長い点だ。すぐにWebサイトで商談がきまり、1か月以内に即決するような商品ならばよいかもしれないが、商材によっては6か月間商談に時間がかかったり、今期中では具体的な商談まで進まず1年越しで受注するような商材もある。
当たり前だが、商談~成約まで6か月間かかる商品は、6か月後にはじめて成果がわかり、精密な分析をするならそれ以降となる。
しかし、Webマーケティングの現場では来週どんな施策を打つべきか、来月どんな作戦を立てるべきかを求められる。リードタイムが長くなりがちなBtoBでは分析期間をどのように設定するのか、だけでも難題なのだ。
どこまでを成果とするのか
3つ目は、Webマーケティングの成果をどこまで含めるのか判断するのが難しいという点だ。
仮に、商談の金額規模で評価したとしても、次々に仕事をくれる可能性のある会社と、単発で終わる可能性の高い会社では同じ評価はできない。Webマーケティングの戦略として、すでに付き合いのある顧客層から新たな顧客層を狙うのが目標になる場合はなおさらだ。
一般的に、BtoCにおいて会員獲得やリードタイムが長い商材ではLTV(顧客生涯価値)を指標におき、顧客獲得単価を評価することが一般的だ。この点からBtoBでも顧客獲得単価を設定することが望ましい。ただし、商談によっては1案件で他の案件の数十倍の受注規模の案件があったり、1案件に留まらず拡販をしてくれるパートナーが見つかったりすることもある。単純に顧客生涯価値といっても、納得度の高い数値を導きだすのは容易ではない。
このような状況で、なるべく高い精度の分析を行なわなければならない。効果を判断するためには、まずは自社内のデータを洗い出すことが肝心なのだ。