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B2CのZOZOTOWNも、B2BのIBMも ―― これからの時代に必要なのは“B2I”マーケティング

 SNSの浸透で消費者の存在感がさらに大きくなり、企業と消費者の関係が変化してきた。そうした口コミや企業サイトを訪れた消費者の行動履歴を蓄えたビックデータを分析する技術は飛躍的に進歩してきている。企業と消費者の関係の変化、技術の進歩はこれからのマーケティングをどのように変えていき、企業のマーケティング責任者にはどのような要件が求められるようになるのだろうか。

「個」客ごとに最適化するスマーター・マーケティング

 「B2B、B2Cにかかわらず、これからのマーケティングで大切なのは“B2I”(Business to Individual【個々の】)。どうやって1個人にたどり着くかが重要になります」と日本アイ・ビー・エム株式会社 スマーター・コマース担当パートナーの浅野智也氏は説く。同氏は2006年から約3年ほどCRM領域の責任者を務め、その後、戦略コンサルティンググループへ異動。2012年夏からスマーターコマース事業の責任者を務めている人物だ。

日本アイ・ビー・エム株式会社  浅野智也氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
スマーター・コマース担当パートナー 浅野智也氏

 スマーターコマースへの取り組み例の1つとして挙げられたのは、成長著しいファッション通販サイトの「ZOZOTOWN」。顧客一人ひとり(=「個」 客)の生活に密着した最適なキャンペーンを展開するようになって、コンバージョン率(CVR)が6か月の間に10倍にまで向上した。

 「個」客の閲覧/購入履歴から好みを把握し、購入した商品の手入れ方法や、一緒にコーディネートしやすい関連商品の情報などを提供。購入後のフォローメールなど、それぞれの「個」客にとって最適なタイミング・内容でメールキャンペーンを実施するようにしたところ、顧客レスポンス率は3~5倍、メールのクリック率は5~10倍も増加している。

 実はIBM自身も、「個」客の反応・興味を見ながらマーケティングの打ち手を変えるように体制を構築し直した。結果、リードから受注に至る確率が約34倍と大幅に改善している。

製品起点から顧客起点へ、“第3世代”のIT活用が変化をもたらす

 以前から属性・行動によって顧客を分類していくセグメント・マーケティングの考え方は広まっていたが、ここにきて「個」客レベルにまで踏み込んでマーケティング施策を出し分けていくアプローチにあらためて注目が集まっている。一体なぜなのだろうか。

 背景には、企業と顧客との関係の変化がある。以前は企業から顧客への1wayのコミュニケーションしか選択肢がなかった。市場/サービス調査などはするが、製品ありき。製品起点でどの顧客をターゲットにすれば売れるのかと企業が考え、一方的に顧客へ働き掛ける関係だった。

 それが企業と顧客が同じ場(コミュニティ)を共有して、お互いにフィードバックし合う2wayのコミュニケーションが実現しはじめている。今、目の前にいる顧客が何を欲しているのかを突き止め、企業が顧客起点でデザインやターゲット等を考えるようになってきているのだ。

 それを可能にしたのは技術の進歩。SNSのようなコミュニティでの顧客の行動・発言や、企業サイトなどでの活動履歴をデータとして蓄積。そうして集めたビックデータを分析する技術が、ビジネスに役立てるのに十分なレベルにまで発達してきている。

 「ITの使い方が変わってきているのだと考えています。ITの第1世代はただデータを集めるだけの集計システム。それが第2世代でアプリケーションプログラムによって企業の業務を運用できるようになりました。そして今は第3世代。第2世代から進歩して、背景にあるビックデータを分析し、ITがビジネスリーダーに示唆を与えてくれる時代に突入してきました」(浅野氏。以下、同)

CMOに求められる5つの要件

 こうした環境の変化から、企業の最高マーケティング責任者(CMO)に求められる要件も変わってきたと浅野氏。顧客起点のマーケティングを推進するためには、次に挙げる5つの要件がCMOに必要だと指摘する。

  • 個のレベルで顧客を理解
  • パーソナライズされた顧客体験の提供
  • 企業行動とブランドイメージの一致
  • 投資対効果(ROI)の説明責任
  • マーケティング領域へのテクノロジーの活用

有用な知見を拾えるようになったからこそ、「個のレベルで顧客を理解」

 「個のレベルで顧客を理解」することについて、浅野氏は次のように説明している。

 「『個』客は、自分から口に出さなくても企業が自分の思考を理解し、求めるものを提供してほしいと望んでいます。今なら、『個』客がインターネット上でどのような動きをしたのか、捉えられます。『個』客にアプローチするチャネルも、PCのほかにスマートフォンやタブレットなどから選ぶことができます。やろうと思えば『個』客ごとにオファーを出し分けることもできるようになっています」

 これまでも「個」客の購入履歴やコールセンターへの問い合わせ内容などを分析できはしたが、効率的に有用な知見を得ることは難しかった。現在はそうした「個」客の行動について相関性を探っていくことで「このタイプの『個』客は次にこういう行動をする」とニーズを予測することが可能。企業が次に採るべきアクションについても、最適なものを見つけ出すことができる。

「個」客を理解したら、最適な体験をパーソナライズして提供

 そうして「個」客の思考を理解した上で、「個」客体験をパーソナライズしていく必要がある。

 北米のテレビショッピング企業は、顧客像を詳細に作りこんだペルソナを作成。ある中年の女性が結婚記念日に子供たちからプレゼントをもらい、今度は子供の誕生日にプレゼントを贈ろうと考えた。

 そんなケースでは、どんなプレゼントがいいかと考え、候補の品物を検討し、購入に至り、購入後のフォローメールを送るまで、どのような体験を提供すれば最適なのか。一連のプロセスについて、入念に設計しているのだという。

 「思い返してみると、Amazonで初めてレコメンド機能が登場した時には、個人情報がどこまで取られているのだと気にする人がたくさんいました。その時にユーザーが感じた違和感や不安は、だんだんと薄れてきたのではないでしょうか。今では逆にレコメンド機能がないと『何でないのか』『使いにくいサイトだ』と思われかねません。

 マーケティングという行為は、定着すると自然なものだと受け入れられるようになり、消費者から『当たり前にあるもの』と理解されるようになります。『個』客体験のパーソナライズも同じです。知らないうちに、サービスの一部として認識されるようになっていくでしょう」

IBMが全世界1,700名以上のCMOに行った調査内の設問
「今後3年~5年間で顧客満足度向上のために必要な変革は?」の集計結果でも
「個々の顧客ニーズの理解向上」「市場ニーズへのレスポンスタイムの短縮」が上位に
(出典:IBM Global CMO Study)
IBMが全世界1,700名以上のCMOに行った調査内の設問「今後3年~5年間で顧客満足度向上のために必要な変革は?」の集計結果でも「個々の顧客ニーズの理解向上」「市場ニーズへのレスポンスタイムの短縮」が上位に(出典:IBM Global CMO Study)

“炎上”リスクに備えるため、「企業行動とブランドイメージの一致」を

 ブランドイメージを育てて守る仕事はこれまでマーケッターだけのものだったが、現在は別部署の社員1人の行動・発言であっても、ソーシャルで一気に拡散してしまう時代。CMOにはブランドイメージを損なう行動を全社員に取らせないようにする責任が生じてくる。

 消費者が自社で運用するFacebookページにネガティブな情報を書き込んでくる恐れだってある。実際、ある米国流通業の企業では、あるユーザーからのクレームが自社のECサイトに掲載されてしまった。そのユーザーは結婚記念日にプレゼントを贈ろうとしたのに、いつまで経っても届かない。「到着が遅い」とクレームを入れたのに、記念日の深夜になってもまだ到着しない。それで辛抱たまらずFacebookページにクレームを書き込んだのだ。

 「担当者一人ひとりがどんな行動をするかで、マーケッターが努力して構築してきたブランドイメージが一瞬で崩壊する恐れだってあります。社員にブランドイメージを守る意識が行き届いているか。マーケッターとほかの社員との意識の違いを埋めていくこともCMOの大切な役割と言えるでしょう」

世界中のCMOが重視する「ROIの説明責任」

 浅野氏が4点目に挙げたのは、「ROIの説明責任」。IBMが世界のCMO 1,700人以上に「マーケティング活動の成果を測定するために用いている(用いる予定の)、重要な評価指標」は何かと尋ねたところ、最も多い63%が「マーケティング費用対効果(ROI)」を選んだ。

出典:IBM Global CMO Study
出典:IBM Global CMO Study

 成果を数字に置き換えられるデジタルでキャンペーンを行う以上、ROIの説明責任は確実に求められ、CMOにとって避けては通れないものだと浅野氏は話している。

「マーケティング領域へのテクノロジーの活用」で、一連の要件を現実のものに

日本アイ・ビー・エム株式会社  浅野智也氏

 ここまでに挙げてきた4つの要件を満たしていくためには、マーケティング領域へのテクノロジーを活用することが重要。冒頭でも軽く紹介したが、IBM自身がマーケティング活動を顧客起点に切り替えることで、受注に至るまでの割合を劇的に改善させた。

 「マーケティングを自動化するため、統合マーケティング支援ソフトウェア『IBM Unica』を導入し、あるキャンペーンを実施しました。セミナーを開き、参加者にはアンケートを取り、レスポンスの有無を登録しました。アンケートに答えてくれたら、24時間以内にはお礼を伝えるとともにホワイトペーパーがダウンロードできるWebサイトのURLを連絡。実際に見ていただけたお客様だけにROI計測に使えるツールをご案内し、それも確認いただけたら訴求製品に関するデモビデオのリンクを貼ったメールを送りました。そうしてお客様の製品に対する興味度を調べながら、最終的にはIBMのコールセンターからオペレーターが電話。本当に興味があるお客様のところにのみ営業するようにしています」

 以前は約46万件のリードに対して受注にまでこぎ着けたのは8件だった。それが顧客起点に切り替えた後、約10万件のリードから61件もの契約を締結することに成功している。

 「顧客起点のマーケティングに対しては、ネット中心の新興企業様からも高い関心を感じますし、リアルでの販売チャネルが中心のブランド企業様からも『対応しないと顧客が奪われてしまう』という危機意識を感じます。

 顧客起点のマーケティングと言うとB2C企業向けとイメージされる方もいるでしょうが、当社の事例から分かるようにB2B企業にも必要なこと。B2C、B2Bの枠にとらわれず、“B2I”(Business to Individual)という考え方が必要なのです

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2013/01/31 19:17 https://markezine.jp/article/detail/16858