おもてなしの“ジェネレーションタイムバリュー”
調査の中で印象的だったのは、前提としている関係性の長さが非常に長いことです。茶道にしても、花街にしても、祖父・父・子・孫、といった代々の関係性を受け継いでいる面があります。ライフタイムバリューどころか、ジェネレーションタイムバリューとでもいうべきでしょうか。

関係性を長期的に考えるということは、逆に言えば短期的な関係性は重視しないということでもあります。京都でよくいう「一見さんお断り」という言葉があり、特に花街では紹介を受けないと入れないという仕組みが現在でも厳格に残っています。これも実は長期的な関係を前提としている代わりに、入り口をとても狭くしているのです。そういう関係を築ける人・築くつもりの人とだけお付き合いします、というスタンスを象徴しています。率直に言えば短期的な儲けは重視されていません。
その一方で、一旦関係性の輪の中に入ると、非常に家族的な側面があります。ビジネスとしてのサービス提供者・顧客という関係というよりは、もっと対等な、長い目で見て相手のためになる対応を心がけるという意識が感じられます。上位顧客が駆け出しの舞妓さんを指導することもありますし、女将さんが若い顧客を丁寧に面倒を見るということもあります。「頑張って育ってから返してくれたらいいよ」、もしくは本当の家族のように「育っていくのを見ている事自体が楽しい」といった感覚さえサービス提供者・顧客の双方にあるのかもしれません。
サービス提供側からの指導という観点
顧客との関係性を長く捉えるということは、その顧客のことをよく理解できるということにもなります。年齢、出身、職業、家族構成、といったデモグラフィック的なことはもちろん、サービス利用中にどんな振る舞いをしたか、何を好んだか、話したのか、といったことが事細かに蓄積されていっています。もちろんデジタルに残されているわけではありません。それに基づいて対応の内容を変えたり、準備の内容を変えたりといったことが行われています。

こう書くと月並みに聞こえるかもしれません。しかし私が特に面白いと感じたのは、誤解を恐れずに言えば、顧客を値踏みするような側面がある所です。つまり、ある内容のサービスは、それを理解できる顧客にしか提供しないといったようなことです。値踏みというと聞こえが悪いですが、サービス提供側も人間ですから、よくわかってくれる人には嬉しくなって色々と提供したくなるということもあるのだろうと思います。例えば茶道であれば使う道具には中には国宝級のものも存在しますが、誰にでもそういうものを使うわけではありません。
こうした側面から、サービス提供者からの指導という観点が存在し得るのです。長期的な関係が大切になってくるのは、言ってみればこのような奥深さが存在しているからとも言えるでしょう。