ツールの敷居が下がってきた
押久保 昨年もおふたりには米国で開催された「Adobe Digital Marketing Summit」のあとに対談していただいたのですが、1年たって、アクセス解析、データ分析の状況がどう変わったのかをおうかがいできればと思います。まず、今年のサミットはいかがでしたか?
小川 私は今年で3回目なんですが、去年はツールを統合して、クリエイティブを含めてみんなでコラボレートし、施策や売上を達成していくことが必要だという総論を示すかたちでいったん終わっていました。今年は「Adobe Marketing Cloud」というツール群を用意して、コラボレーションする仕組みやツール間の連携を実現したというのが大きなトピックだったと思います。
今度はそのツールに対して、受け手側はどうするんだろうということ。アドビの製品群を全部入れられる会社であれば、入れたうえでどうコラボレートしていくのかという話ですし、Adobe Marketing Cloudの中のAdobe Analyticsしか入れられない会社の場合、お金がないとその世界は実現できないのかという話になる。
共通しているのは、ツールの有無や入れられるツールの量は会社によって違うけれども、ちゃんと分析して施策をまわして、それを評価して繰り返していくということ自体は、会社の大小にかかわらずやらなければいけないこと。言ってみれば、今はお金をかければやりたいことはやれる状況になってきた。
清水 ツールの敷居は下がってますよね。
小川 下がってますね。結果的にツールの値段も下がってますし。
清水 しかも幅広くツールが増えている。大規模なものもあれば小規模なものもあるし、ダッシュボードに特化したものや、データをかき集めるのに特化したものなど、小さい部品的なツールが増えてきている。
それらを組み合わせて、いろいろなデータソースからデータをかき集めて、顧客を理解するデータを作る。アグレッシブにデータを取ってきて粘土のように作りこんでいって、そこから意味を取る。そして意味を見出したあとで視覚的に表現し、しかるべき人に配信する。この一連のフローがいろんなツールでできるようになってきた。
ツールに対して受動的な日本企業
小川 どちらかというと、ツールよりも人材の問題であったり、その会社が成長するタイミングのなかで何が必要なのかという議論が必要なんだろうと。いま、自分たちがどういうステージにいて、何をしなければいけないのかがわかるフォーマットのようなものがあればいいなと思う。
清水 少し前にUSでmaturity model(※)の図を作るのが流行ってましたね。この段階にはこのツール、この段階にはこれとか。
小川 最初にそのコンサルティングが必要な気がするんです。全体をながめて、ここから攻めていきましょうと。
清水 USの場合は、企業側の要求や目的が明確なので、それに沿った良さそうなツールを自分で探してくる。日本の場合はわりと受動的で、提案を受けて良さそうなら入れる。こういうやり方は普及しやすい反面、受動的なままになってしまう気がする。うまくいかなかったときに「その提案メニューが悪かった」と批判しだすと、またそこでストップしてしまう。それでは活用が進まないので、受動的な意識を能動的に変えていくことが大事だと思う。
※ maturity model:企業におけるアナリティクスの成熟度を段階的に表した図。