ワナメーカーの謎解きに挑む
―― マットさんは、イーベイ、グーグルを経て現在はマリンソフトウェアのCMOを務めていると聞きました。また、最初はエンジニアだったが、徐々にマーケティング領域の仕事に関わりはじめたそうですね。
そうです、はじめはエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。その後、マーケティング領域の仕事にも関わりはじめイーベイでは最終的にオンラインマーケティンググループの統括を務めました。グーグルではYouTube、DoubleClick、Googleアナリティクス、ディスプレイアドネットワークなどさまざまなプロダクトに関わりました。
―― デジタル広告を使うことが当たり前の時代になりました。マットさんは、まさにデジタル広告の普及、発展を肌で感じてきたのではと思います。
まさにそのとおりです。今日のようにデジタル広告が広く一般的に普及した大きな要因は、サーチマーケティングの登場にあると言えます。サーチマーケティングが普及したきっかけは、ざっくりいうと検索キーワード情報に基づき興味のある人に対して広告を掲載できるという点と、気軽に広告掲載が可能な入札システムを構築した点にあります。
―― その後、ソーシャルが爆発的に普及しました。
そうですね、ソーシャルが登場し最近ではディスプレイやビデオなどさまざまな形態のデジタル広告が登場し利用が進んでいる状況です。一方でデジタル広告の活用が進んだことで、マーケターはたくさんのデータを取得できるようになりました。そのため、いまのマーケターはデータを元に次のアクションを実行することが可能な時代となっています。これは広告、マーケティングの領域のおいては革新的な変化と言えるでしょう。
私は自分の仕事を「ワナメーカーの謎を解くこと」だと思っています。Wanamaker's創始者であり後に百貨店王と呼ばれたワナメーカー(July 11, 1838 – December 12, 1922)は「広告に使っているお金の半分は無駄になっている。問題は、どちらの半分かが分からないことだ」という言葉を残した人物です。彼がこの言葉を発してから長い年月が経ってますが、今でもこの謎は明かされていません。なぜなら謎を解く方法がなかったからです。
―― その謎を解くことができる時代になってきたと。
100%解くことは不可能だと思いますが、統計上の誤差内での可視化はできるのではないかと思います。具体的にはアトリビューション分析の見地から広告の可視化に取り組みはじめています。いわゆる各広告の貢献度の評価ですね。可視化するやり方はいくつかあるのですが、その一例を挙げてみましょう。
AさんとBさんがいます。Aさんはサーチ→ディスプレイ→ソーシャル→モバイルを経由して10ドルのモノを買いました。1ドル1ポイントとしAさんを10ポイントと評価します。一方、Bさんはというとソーシャルを経ずにサーチ→ディスプレイ→モバイルを経由して8ドルのモノを買いました。Bさんは8ポイントとなります。AさんとBさんの違いはソーシャルを経由しているか、いないか。つまりソーシャルが道順から欠けているから2ドル分の損失を生んだのではないかと仮説が立てられます。
これはほんの一例に過ぎませんが、こうしたサンプルはオンラインだからこそ大量に集めることができます。そしてサンプルが大量だからこそ、タッチポイントとしてのソーシャルの価値は平均何ドルなのか、といった試算が統計的な誤差のない範囲内で導きだすことが可能なのです。