動画広告市場は拡大傾向、3年後には5倍の640億円まで伸長か
2013年時点の国内のネット動画広告市場規模は、132億円。それが2017年には、約5倍の640億円にまで伸張すると見られている(出典:シードプランニング)。「いくつかの要因がありますが、パブリッシャーが動画広告を始めるにあたって、事業採算性が立ちやすい環境になってきていることも大きいでしょう」と、チューブモーグル執行役員の松矢順一氏は語る。
同社は2007年に米国にて創業。2011年にDSP事業を主力とする現在のビジネスモデルを確立し、同社が提供する「TubeMogul Platform」は、米国最大級の動画広告専門DSP・RTBプラットフォームに成長している。現在は、東京を含めて世界10拠点で動画DSP市場を牽引し、調査分析や各種ターゲティング、効果測定まで含めた運用もサポート。日本ではすでに150以上のブランドや広告主に活用され、業種も多岐に渡っている。
日本のネット広告市場では、多くの人が感じているように「昨年の夏ごろから動画広告ににわかに注目が集まってきた」と松矢氏は話す。その要因として、インフラ環境やメディア環境の変化とともにブランドリフトへの効果を挙げる。例えば、平成25年の総務省のメディア環境接触に関するデータを見ると、属性によってテレビとネットの接触傾向がかなり異なっている。「広告主がメディアプランを計画する際に、ネットに改めて注目している状況があります」と松矢氏。
高まる「動画広告によるブランドリフト効果」への期待
ネットでの動画視聴に障壁が少なくなった今、まるでテレビCMのように、単純想起からブランド好意度の向上まで、動画広告に期待できる効果の幅が広がっている。「動画広告とテレビCMとの連動によって、ポイントが上がるという調査結果も出ています。こういった部分も期待が高まる要因だと考えています」松矢氏は話す。
加えて、ネット広告のさまざまなフォーマットの中で、態度変容を起こしやすいのが動画広告だと捉えられ始めたことも大きい。先の話にも関連するが、松矢氏によると米国内の調査(出典:TubeMogul/Dynamic logic joint research)で「ブランドリフトを最も起こしやすいものが動画広告」だと示されており、その点を魅力に感じられることが多いという。
一方、動画広告の普及が進んでいる米国では、2013年時点ですでに同市場は4,000億円もの規模になっている(出典:eMarketer)。「2015年には、テレビ広告の約10%にあたる約7,000億円にまで伸びると予測されています」と松矢氏。このような米国の状況と、前述した日本市場での期待を受けて、配信プラットフォームをはじめとする各種ツールも改善が重ねられ、広告主が出稿しやすく、パブリッシャーが参入しやすい環境が整った。それが、冒頭で紹介した伸長予測に反映されていると言えるだろう。こうした盛り上がりを受けて、チューブモーグルでは、すでに米国で導入済みのビューアビリティーの把握(国内未導入)や、国内のマーケティング、データマネジメント、クリエイティブパートナー企業との連携にも注力している。
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動画広告の種類とKPI
では、現在どのような動画広告の種類が利用されているのだろうか。松矢氏は各種類の利用件数を踏まえて、次のような図を提示する。
「リーチが広くインベントリー(在庫)の数が多いのは、底辺に据えたインバナー広告です。おそらく数年はこの形だと思います。一方、当社で主に提供しているのは、上部のインタラクティブプリロールとプリロール広告です。もちろん他の3つにも対応はしていますが、やはりテレビCMに近い効果を見込むなら、プリロール広告や、さらにその中でユーザーの関心に合わせてほかの要素を見せられるインタラクティブプリロール広告を強く推薦しています」
合わせて、各広告でKPIとしてよく使用される効果測定指標も提示された。プリロール広告の場合はテレビCMに最も近い広告として「最後まで閲覧されたか」が効果を大きく左右するので、完全視聴率を追う場合が多い。実際の購買や来店誘引などのアクションは、バナー広告では指標に取ることが難しい面もあるが、インタラクティブプリロール広告なら指標とすることが十分に可能だという。
動画素材は「テレビCM流用」から「オンライン専用」へ
次に、配信する動画素材について、松矢氏は「最近はオンライン広告専用の動画を用意するケースが増えてきている」と話す。動画素材には主に、(1)テレビCMを流用したもの、(2)オンライン専用の動画、(3)インバナー用の動画の3種類があるが、(1)から(2)への移行が目立っている。
「ブランディングよりもリーチを重視するときに使われるインバナー系を除けば、昨年までは圧倒的にテレビCM流用のケースが多かったのですが、今年はそれを逆転する勢いでオンライン専用動画への注目が高まっています。やはり、オンラインでのブランドリフトや態度変容を求めるなら、それに適したクリエイティブが重要だと考える広告主が増えている表れだと思います」と松矢氏は見解を示す。
すでに日本でも、プリロール広告やインタラクティブプリロール広告に、オンライン専用の動画を適用したキャンペーンで成果を上げている事例がある。ブランドリフト効果だけでなく、例えば視聴を通してクーポンを配布し、店舗へ送客するというO2Oにも活用されている。
しかしプリロールや、インタラクティブプリロール広告は在庫がまだ少ない。そのため、チューブモーグルでは現在その開発にも着手している。例えば、楽天の動画配信サイト「楽天SHOWTIME」内の、東北楽天ゴールデンイーグルスのライブ中継時や、ユナイテッド・シネマ グループの公式サイト上での予告編上映時などに、両社とそれぞれ協業して動画広告枠を設定。すでにセールスを開始している。
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海外最新事例に見る多機能な動画広告
現在チューブモーグルでは、前述に三角形の図で示したとおり、複数の広告を提供している。特にインタラクティブプリロール広告では海外実績としてIKEAやDior、BMWなどの大手企業の事例が続いている。
例えばIKEAでは、動画再生中に現れる商品紹介の枠にマウスオーバーすると、アプリが立ち上がり、その中で購買まで誘導することが可能だ。動画は一時停止となり、動画画面に戻るとまた続きが再生される。また、「ストアロケーター」という機能により、IP検索を使って近くの店舗情報が表示される。
一方BMWでは、商材の特徴からその場で購買につなげるというよりは、ブランディングを重視。関心があるユーザーにはより多くの動画を提供したり、歴史を紹介するなどコンテンツを厚くしている。先のストアロケーターはここでも採用され、近くのディーラーを表示する。
ほかにもチューブモーグルではプリロール広告やインバナー広告にも多数の事例を有しており、さらに今年はモバイルでのプリロール広告にも参入する予定だという。
「このような多彩な広告フォーマットは、当社の優位性として大きな点です。ほかにも、ブランドセーフティー機能やターゲティング機能、そしてキャンペーン評価も可能なレポーティング機能にも注力しています。特に今年になってからターゲティング配信には多くの問い合わせをいただいている状況です」と松矢氏は話す。
ブランドリフト向上の秘訣は「クリエイティブを含めたPDCA」
ターゲティングの部分では、「エリアターゲティングに関する相談も多い」と松矢氏。チューブモーグルではエリアのほか、オーディエンスターゲティング、ドメインターゲティング、時間帯指定配信やホワイトリスト・ブラックリストの設定も管理画面上で容易に設定できる。それが同社のプラットフォームが選ばれる要因のひとつになっているようだ。
ほかにも今、広告主の引き合いが強い機能としては、先に紹介したような動画広告内で商品や店舗情報を表示する「双方向性」や、バナー広告の枠内でアンケートを取るなどして効果を把握できる「広告効果検証」、さらに離脱率の計測による「クリエイティブテスト」などがある。
「クリエイティブを含めたPDCAを回すことで、ブランドリフトの向上が見込めます。また、テレビCMのクリエイティブテストとして使うこともできます」と松矢氏。
最後に松矢氏は、動画広告制作から効果測定までの流れをまとめ、「実はクリエイティブが最大の変数かもしれない」と指摘する。「クリエイティブ開発までの要件定義、コンセプト開発、KPI設定の3つが非常に重要です。そうした川上の設計から問い合わせを受けているので、運用全般をサポートできれば」と語り、講演を締めくくった。
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