動画広告への対応は「収益向上チャンス」
動画広告の高い訴求力に期待し、さまざまな業種の広告主がその運用に関心を寄せている。この状況を受けて、配信システムやプレーヤーの環境整備も進む。また、実際に配信する先として、メディアサイドも動画広告枠の設定を急いでいる。メディアにとって現況は、自社の収益を引き上げる大きなチャンスだ。まさに、これから日本で拡大していく市場だけに、準備が後手になっていると感じている企業でも「十分に間に合う」とブライトコーブ セールスディレクターの北庄司英雄(きたしょうじ・ひでお)氏は語る。
メディアが動画広告の取り扱うにあたり、北庄司氏は次の3つが必要だと解説する。
1.動画広告テクノロジーの選定
2.動画コンテンツの制作
3.動画配信プレーヤー(プラットフォーム)
このうち、ブライトコーブが事業を展開するのは、3番目にあたる動画配信プレーヤーの部分だ。2004年にボストンで設立された同社は、動画配信プラットフォーム「Video Cloud」を主力とし、すでに全世界で6,300社のメディアやパブリッシャーに採用されている。日本では日本経済新聞や日本テレビといった各種メディアのほか、サントリー、資生堂などのメーカーや、通販や金融など幅広い業種で約300社が導入。最近話題になった、日本テレビの「番組見逃し視聴」もブライトコーブがサポートしている。
「高いCPAを狙える」動画広告とは?
「Video Cloud」のメインサービスは動画をアップロードし、クラウド側で変換・マルチデバイスに対応したコンテンツを配信すること。また、同時にアクセス分析や広告の挿入までをカバーしている。
「実は、広告ビジネスの展開には配信プレーヤーが最も大切」と北庄司氏は強調する。今、配信プレーヤーに求められる機能は非常に多岐に渡っている。まず、刻々と変化する生活者のメディア接触状況に対応して、スマートフォンやタブレットでの視聴をカバーすることが不可欠だ。通信速度やOSの自動判別も、なくてはならない。また、公開した動画はアクセスログを解析し、離脱率や視聴時間を分析してPDCAを回すことで、より良質なコンテンツ配信につなげられる。さらに、ユーザーが目にする部分も含めたプレーヤーのカスタマイズや、人気の高いライブイベント実施のフォローなども、ブライトコーブが提供する機能で好評だという。
現在、インストリーム(プリロール)、インディスプレイ、インリード、そしてコンテンツ・ブランディング型という4つの動画広告の種類が一般的だが、ブライトコーブでは主にインストリーム動画広告をサポートしている。このタイプの広告について、北庄司氏は「ユーザーが動画を見ようという姿勢になっているときに訴求できるのが利点。高いCPAを狙えるので、メディアサイドにはインストリーム動画広告枠の設置を薦めています」と語る。
動画広告をスムーズに導入するコツ
では、メディアサイドがスムーズに動画広告を導入するためには、具体的にどのようなことが重要だろうか?北庄司氏は3つのポイントがあるという。
1つ目は、管理画面上で配信設定などが簡単に行えること。動画のアップロードやエンコードをはじめ、さまざまな調整がひとつのブラウザ内で完結すると、作業的な負担を大幅に圧縮することができる。2つ目は、プラットフォームが多くのアドサーバーや、アドネットワークと統合されていることだ。管理画面上で各事業者のタグを設定するだけで、幅広く配信することができる。
そして3つ目は、動画広告の標準規格「VAST」「VPAID」へ対応していることだ。プラットフォームがVASTに対応していると広告の流通が活性化し、またVPAIDに対応していると、動画広告再生中にバナーを表示してマウスオーバーで商品を見せる、といったインタラクティブなやり取りが可能になる(VAST、VPAIDについての解説記事はこちら)。なお、「Video Cloud」ではいずれもカバーしている。
動画広告は売れるのか?
メディアサイドからよく聞かれる声として、第一に挙げられるのが「動画広告は売れるのか」というものだ。これに対して北庄司氏は、「これから爆発的に売れると見ている」と語る。事実、米国ではすでに4,000億円超の市場へと成長している。対して日本は132億円。ネット広告全体に占める動画広告の割合も、米国が10%であるのに対し、日本ではまだ1.4%とわずかだ。十分な伸びしろがあると言える。
それでは、今後どのような成長を見せるのだろうか。北庄司氏は動画広告に関するカオスマップの2012年版と2014年版を比較し、デマンドサイドのプラットフォームの増加を指摘する。広告主のニーズの高まりを受けて、代理店や事業者、動画クリエイティブの検証などを手がけるプレーヤーは拡充している。一方で、パブリッシャー側のプレーヤーは微増傾向だ。
「端的に言えば広告の在庫が足りない状況。広告主は十分に機が熟しているので、メディアサイドには、できる限りの動画広告を用意していただきたいです。配信環境が整っても、配信先のメディア在庫が増えなければ市場は伸び悩んでしまいます」と北庄司氏は強調する。
事例に見る「収益化成功の秘訣」
動画広告市場の活性化には、モバイル環境での動画視聴が伸びているという背景もある。モバイルデバイスと動画は非常に親和性が高い。3分以上の長いコンテンツでも、モバイルでなら視聴される傾向がある。
例えば天候情報を提供する「Weather.com」では、スマートフォンでのアクセスがPCの1.5倍になっているという。以前はスマートフォンでの広告対応が遅れ、機会損失が出てしまっていた。だが、今はモバイルのインストリーム動画広告を設置して収益をカバーできるようになった。「モバイルデバイスが明らかに一般的になってきている今、マルチスクリーンへの万全な対応が、今後の収益化には何より欠かせない。だから、それをカバーする配信プラットフォームを選ぶことが重要になります」北庄司氏は述べる。
さらに今、動画広告の展開先はWebサイトだけでなくアプリへも広がっている。例えば、MTVを傘下に持つ米国のメディアグループ「VIACOM」では、MTVやアニメコンテンツなどを自社開発のアプリで提供。その中で展開する動画広告のプラットフォームとして「VIDEOCLOUD」を導入し、アプリならではのユーザーの使い勝手やメディアの意図を追求しながら、動画広告での収益確保を実現している。
「コンテンツ収集施策」は米国に学べ
「動画広告は売れるのか」という声と並んで聞かれるのが、「そもそもコンテンツがない」という悩みだという。これに関連した最近の動きとして、日本にもWeb動画専門のエージェンシーが登場したことが挙げられる。「自社内にスタジオを構築してコンテンツを生成する企業もありますが、外注する障壁も低くなっています。場合によっては、つくるより集めたほうが早い」と北庄司氏は見解を述べた。
実際に、メディアがコンテンツを集める流れが、米国ではすでにビジネス化しており、「コンテンツエクスチェンジ」として取引されているという。有名な例として米国の大手インターネットサービス会社の「AOL」がある。同社はコンテンツエクスチェンジを通して大量に動画広告の在庫を有し、収益化につなげている。「こうした動きが日本でも活発になれば、在庫も増え、かつ良質なコンテンツの提供にもつながります」と北庄司氏は語る。
「コンテンツがない」ことを解決するもうひとつの提案として、米国で広がりつつあるライブイベントの開催がある。実施後はアーカイブ化できるので、コンテンツを蓄積できる。エクストリーム系スポーツをスポンサードしている「Red Bull TV」などが、この方法で結果を出しているという。
「異業種参入で盛り上がる」動画広告
さらに動画広告の広がりは、異業種のメディア参入をも可能にしている。人気ゲームアプリ「ANGRY BIRDS」はアプリ内に「ANGRY BIRDS TOONS」と題したアニメチャンネルを設置し、インストリーム広告で収益化を図っている。また、ポーカーの試合を生中継する英国のサイト「PokerStars」は、プレーヤー自体をさまざまなメディアに配布し、リーチを最大化しながら広告在庫を増やしている。
「日本では、メディア企業の取り組みが目立ちますが、これまでまったく動画自体の取り扱いがなかった企業が動画提供と広告配信に着手した例も出ています」と北庄司氏。
ブライトコーブでは引き続き、プラットフォームの機能や付帯サービスの拡充を進めていくという。一気に盛り上がる動画広告市場。乗り遅れる前に、この追い風を味方につけるのが得策だ。