ひとくちにTwitterといっても運用方法は様々
座談会に参加したのは、ハローキティをはじめ多くのキャラクターを生み出し、キャラクターごとに複数のTwitterアカウントを持つサンリオ。米国イリノイ州観光局の公式キャラクター「ビッグリンカーン」の日本展開を請け負うジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン(以下JWT)とフライシュマン・ヒラード・ジャパン(以下FHJ)、そしてSETSUKOというキャラクターを起用し、ブランドのTwitterアカウントを運用する化粧品会社コーセーの4社。
サンリオでは、マイメロディやシナモンなどキャラクターがツイートを行うキャラクターアカウントと、商品やショップの情報を発信する企業アカウントの2種類計8アカウントを運営しています。特にデビューしたての新しいキャラクターアカウントでは、そのキャラクターを生み出したデザイナー自身が投稿をするという運用スタイルをとっています。
一方、ビッグリンカーンは、米国イリノイ州観光局より依頼を受けた広告代理店とPR代理店によって立ち上げられたプロジェクト。したがってアカウントも2社が運営しています。そして、コーセーはブランドごとにTwitterアカウントを運営していますが、雪肌精公式ツイッターもその1つ。このアカウントは日々の運用を社内で行い、イベント告知などのツイートを代理店が行うという体制をとっています。
運用目的や運用体制が異なる3つの視点から、キャラクタープロモーションにおけるTwitter活用のポイントや対策を語っていただきました。
Twitterを通してキャラクターを育てる
編集部:そもそも、どのような経緯でキャラクターのTwitterアカウントを始めたのでしょうか?
サンリオ奥村:弊社では現在、沢山のキャラクターアカウントを運営しています。元々は4年前にウィッシュミーメル(@Wishmemell)というキャラクターのアカウントを開設したのがはじまりですね。それまで新キャラクターは、まず商品を販売することで人気を上げるというのがスタンダードな手法でした。ですが、今は口コミで人気が広がる時代。そこでウィッシュミーメルに関しては商品を作らずにネットでデビューさせて、先にメディアで人気を出そうとしたんです。
ネットの口コミであればユーザー参加型がいいだろうと考え、Twitterを選びました。設定としては、ウィッシュミーメルは最初「悩みがあって、恥ずかしくて外に出られない」ということにして姿さえも出さず、部屋に引きこもりながらブツブツとツイートするだけ(笑)。そのキャラクターを、ファンがツイートで勇気づけて、外に出してあげる、という形でプロモーションをしました。
サンリオ田口:サンリオというと、ハローキティやマイメロディ(@Melody_Mariland)、キキララで知られているリトルツインスターズ(@kikilala_sanrio)などのイメージが強いと思います。今年ハローキティはデビュー40周年でしたが、来年はマイメロディとキキララも40周年を迎えます。そういう意味ではファンの層も厚いベテランのキャラが既にいるわけですが、新しい市場の開発のために、毎年新しいキャラクターを出して、様々なチャレンジをしています。Twitterもその一環。今年とても話題になっている新キャラクター、ぐでたま(@gudetama_sanrio)とKIRIMIちゃん.(@kirimi_sanrio)も、商品先行ではなくネット上でキャラクターを立ち上げてきました。
サンリオ奥村:なかでもぐでたまは、去年開催した「食べキャラ総選挙」というイベントでデビューしたキャラクター。これは、ファンにも参加いただいてキャラクターを誕生させるという全く新しい手法だったので、特にユーザーのエンゲージメントを重視しました。また、ぐでたまは「だりぃ」などのちょっと後ろ向きなセリフが若い子に刺さっているのが特長です。だから、ぐでたま自身がメッセージをファンに発信してさらに共感してもらうという狙いもありました。
目的は「親しみベース」のマーケティング
コーセー小林:弊社では、化粧品ブランド雪肌精の公式Twitter(@kose_sekkisei)でSETSUKOというキャラクターを使っています。これまで化粧品会社といえば、有名な女優さんやモデルさんを起用して「こういう風になりたい」という女性の憧れをつくりだすマーケティングが主流でした。しかし3、4年前からソーシャルの時代がきているなかで、もう憧れだけで化粧品が売れる時代ではないのでは、と思ったのがそもそものきっかけです。何かユーザーと交流できるような、「親しみベース」のマーケティングがやりたいと会社に申請しました。
最初は会社から猛反対を受けましたね。今までキャラクターマーケティングを会社としてやったことがなかったし、しかもSETSUKOのビジュアルが“ブサかわ”だったので、これってどうなの?と(笑)。
JWT杉本:えっ、ではどうやってスタートにこぎつけたんですか?
コーセー小林:どんなキャラクターにするのか消費者に決めてもらいましょう、と会社に提案しました。SETSUKOとシュッとした感じの美人キャラクターを用意して、どちらが雪肌精のPRに相応しいか、Facebookでユーザー選挙をしたんです。そうしたらSETSUKOがダントツで勝った。それで会社も納得してくれて、まずはFacebookからスタートしたんです。
それから2年くらいFacebookを運営したのすが、公式情報を流すだけにとどまってしまっている感じがしました。当初やりたいと思っていた「親しみマーケティング」、つまりユーザーとの会話ができていなかったんです。そんなときにTwitterさんからお声がけいただいて、ちょうどいいなと思って開設しました。そもそも私たちは普段マーケティング畑にいて、お客様と直接触れ合う機会がない。でもTwitterであれば実際にお客様が悩んでいることに対して提案ができ、実際に商品を購入していただけたり、感想もツイートしてもらえたりと、営業の立場にもなれる。これも大きな利点ですね。ですから、現在はFacebookとTwitterで使い分けをしています。
また、丁度その頃雪肌精のCMをリニューアルしたタイミングでした。Twitter上でもCMに関する好意的なツイートが増えていたので、アドでそういったユーザーをターゲティングして、フォロー&リツイートキャンペーンを実施しました。テレビとの相性といった所でも面白いと思います。
雪肌精の日やけ止めがリニューアル発売!新垣結衣さんのCMがスタートしました!これを記念してこのアカウントをフォロー&リツイートで抽選で5名様に日やけ止めジェルをプレゼント★2/28まで受付!http://t.co/PSwsLLLAJ8 pic.twitter.com/vjBF1TXCp5
— 雪肌精公式ツイッター (@kose_sekkisei) 2014, 2月 17
始まったばかりのプロモーション
サンリオ奥村:ビッグリンカーンさんは、KIRIMIちゃん.やぐでたま同様に、最近のキャラクターというイメージがあります。いつ頃から活動されているんですか?
JWT杉本:ビッグリンカーン(@The_Big_Lincoln)は今年の8月に活動をスタートしたキャラクターです。そもそも我々は、クライアントの米国イリノイ州観光局から依頼を受けて、イリノイ州への観光誘致をミッションに活動しています。大々的なマス展開の予算はない中で、どのような展開にするのか悩んだときに思いついたのがキャラクターでした。
イリノイ州出身で日本でも有名な人物に、米国の第16代大統領エイブラハム・リンカーンがいます。彼をプロモーションに活用しようと考えました。そして既に本国ではミニ・エイブ(リンカーンの米国での愛称はエイブ)というキャラクターがいるんです。それを日本向けに、「ビッグリンカーン」というキャラにして、今のゆるキャラブームの波に乗ろうとスタートしました。
FHJ井土:Twitterなら、キャラクター自身やイリノイ州の魅力を気軽に発信できて、さらにユーザーの反応もリアルに確認できる。同じようにアカウントを持つ全国のキャラクターと交流できるのも魅力だと思っています。
反応を引き出すキーワードは「親近感と意外性」
編集部:ツイート内容や数値目標などは、どのように設定しているのでしょうか。
サンリオ奥村:ぐでたまの場合は、数値目標を特に設定してないです。最初は商品も何もない状態だったので、とにかく知ってもらおうというところからスタートしました。フォロワーは順調に増えて、現時点で20万人以上です。弊社のTwitterアカウントでは個人的なリプライなどは基本的にしないようにしているので、この結果はかなり良いかと。
このキャラの場合は、毎日イラストとシンプルな一言を添えてツイートしています。その言葉に若干風刺が効いていて、それがユーザーの共感を呼ぶんです。例えば月曜日の朝だと「やだ、行きたくない」、夕方になると「もう帰りたい」とか。そういった、ユーザーから見て「わかるわかる!」ということをツイートすると、リツイートが1万を超えたりします。あとは、時事ネタを盛り込むのもいいですね。
あー…なんか言おうと思ったんだけど……月曜じゃん?ダルいじゃん?今度でいい? pic.twitter.com/5COn5Ob0cZ
— ぐでたま【公式】 (@gudetama_sanrio) 2014, 9月 29
サンリオ田口:一方で、キキララやマイメロディは方針が異なります。世界観がしっかりしているので、逸脱できない難しさがあるんですね。いかに世界観を守りつつ、来年の40周年につながる広がりをつくるかというのがテーマになっています。キャラクターによっても踏み出せる範囲が異なっているわけです。
例えばマイメロディはわりとやんちゃな設定にしているので、最近はやりの「壁ドン」などの思い切ったテーマにもチャレンジできる。でもキキララは、より世界観がつくりこまれているので冒険しづらいですね。それでも今年9月1日にローンチしたばかりで、既に9万人のフォロワーを獲得しました。こちらはこの世界観に癒されたいというファンが多いので、そこを守りつついろいろと試しているところです。
サンリオ奥村:私が担当するシナモン(@cinnamon_sanrio)というキャラクターは、7~8年前にブームが起きたキャラクター。その頃、小さかった子供が高校生になっているので、その子たちにもう一度シナモンに戻ってもらいたいという狙いでやっています。世界観は守りつつ、今の若い子が面白いと思うようなことを積極的に取り入れる。それが昔のファンの呼び戻しにつながっています。これは、知っているキャラが意外な面を見せるということが、ユーザーに驚きを与えるんだと感じています。
あとは、Vineでアップする動画は反応がいいですね。今までYouTubeのリンクを貼ってたんですが、なかなかそこから飛んでくれなくて。Vineはその点、ノーアクションで見られます。キャラクターがスカートを持ってくるくる回るようなシンプルな動画でも、「かわいい」と良い反応が返ってきます。
サンリオ田口:キャラクターの性格付けには、消費者の想いが加わっていますよね。その、消費者が「このキャラってこうだよね」って思っていることを良い意味でちょっとだけ裏切ってあげると、それが驚きになって拡散につながります。そういった意外性や刺激を提供していけるようにしたいです。
ツイート内容を段階的に変化
JWT杉本:ビッグリンカーンについても、数値目標は設定していません。クライアントからは全て任されているので、それはそれで厳しい状況なのかなとは思っていますが(笑)。8月にローンチしたばかりなので、とりあえず1年目は様子見で、2年目からKPIをつくっていく予定です。ツイート内容としては、大きく4項目を設定しています。
- 初来日したという設定なので、「そばを初めて食べた」など日本での経験や発見、歳時記
- 「今日はシカゴ・カブスで日本人が先発するらしい」といった、米国やイリノイ州に関すること
- リンカーンは米国で心の広い人格者(Big Heart)というイメージ。それがわかる「今日は道に迷った子供の案内をした」といったこと
- リンカーンが残している格言など、彼ならではのエピソード
FHJ井土:まずはビッグリンカーン自身を知ってもらうことが大切です。だから、できるだけ親近感が持てるような内容の発信を心がけています。月に30回ツイートするとして、内容4は一定量キープしつつ、初期は内容1を多めに、だんだん2と3を増やしていく予定です。
JWT杉本:また、定期ツイートの4項目とは別にもう1つ、ツイートすることがあります。それは動画の告知です。実はビッグリンカーンはYouTubeにもチャンネルを持っているんです。そこで動画が公開されたらTwitterでもツイートしています。
デパートに行ってみたら、大統領クラスの歓迎を受けた。 http://t.co/a4eIrwzKaC #ビッグリンカーン #イリノイ州 #デパート
— ビッグリンカーン (@The_Big_Lincoln) 2014, 9月 5
重要なのは数ではなく「深さ」
コーセー小林:SETSUKOに関しては、数値目標を設定していますが、数字ばかりを追っかけすぎないようにしています。私たちの目的はユーザーとの会話です。無理にフォロワーを増やさなくても、深い会話ができればいいと考えています。内容も、日常でツイートするものについては細かくは決めていません。ただ、「美肌は内からも。野菜もとらなきゃ」といったような、商品のメインユーザーである女性が共感できる内容を心がけています。
また、ハッシュタグを活用することもあります。11月第3日曜日は「家族の日」といって、内閣府が定めているんですが、家族や地域の大切さについて理解を深めてもらうための日です。一方、雪肌精は1985年発売の商品で、当初使っていただいた方がお母さんになって、今では娘さんが使ってくださっている場合もあるんです。家族の日キャンペーンで「母から娘へ受け継がれていくブランド」というアピールをしました。こういう使い方ができるのも、Twitterならではだと思います。
安心で信頼できるものを受け継いでほしい。 そんな想いで動画を作りました。#雪肌精 #家族の日 http://t.co/zMozaVzNIJ
— 雪肌精公式ツイッター (@kose_sekkisei) 2014, 10月 30
それと、1日1回は「雪肌精」というワードで検索をかけて、悩んでいる人がいたらこちらから語りかけるようにしています。あとは、夜10時以降のツイートはしない。なんというか、リアルでも夜遅くの連絡ってあまり嬉しくないことが多いと思います。インターネットでも、その感覚は意識していますね。
後編は各社が抱えている課題やその対策。そしてプロモーション施策をテーマに語ります。