証券業界が抱える共通の課題は「若年層の取り込み」
SBI証券は、300万超の口座を抱えるナンバー1ネット証券だ。日本株をはじめ、外国株、債券、投資信託など、総合的に商品を取り扱っている。野村證券や大和証券などに代表される対面証券(営業マンと個別に相談するタイプの証券会社)の顧客の中心はシニア層だが、SBI証券の顧客の6割は30~40代が占めている。
「30~40代の年齢層では一定の顧客を獲得できていることもあり、これからの課題は10~20代、及びシニア世代の顧客を獲得していくことです。若年層を取り込むための施策の一環として、LINEと組むことを決断しました」
20代をはじめとする若年層の口座獲得は、証券業界が抱える共通の課題だ。例えば、若年層の資産形成・運用を促す施策として、2014年1月にNISA(ニーサ:年間100万円までの投資から生じる譲渡益や配当は5年間非課税になる優遇制度)がスタートしたが、証券業界で実際に制度を活用しているのはシニア層が中心だという。
20代の8割が利用しているLINEを活用し、若年層の顧客を増やしたい
スマートフォンシフトが進むに伴い、SBI証券はスマートフォン対応を強化している。スマートフォンウェブサイトの拡充に加えて、アプリの機能強化や商品別アプリの開発を進めている。同社の株取引におけるスマートフォン利用状況は、2015年1月時点で全体の3割近くを占めており、この割合は徐々に増えているという。SBI証券が提供するアプリ「HYPER 株アプリ」は約60万ダウンロード(2015年2月時点)。アプリでの閲覧・取引量も増加傾向にあるというが、LINEの施策とはどのように住み分けているのだろうか。
「当社アプリは既存顧客向けに証券取引をしていただくためのサービスになります。それに対し、LINEは新規の顧客獲得、特に20代をターゲットとしたサービスになります。先ほど申し上げたように、弊社のメインの顧客層は30~40代です。20代の顧客は10%未満であり、その比率を高めていきたいのです」
同社はこれまで、新規顧客を獲得するために、主にアフィリエイトを中心に施策を実施してきた。そこから一定数の顧客を安定して獲得しているものの、新しい顧客層へのアプローチは難しいのではないかと感じているという。
「株取引を始めてみようと思い立っても、実際に始めるまでは、ニュースや友人からの情報など、様々なものに気持ちが左右されるでしょう。そもそも若い世代では金融離れが進み、証券会社側からメッセージを伝えるということ自体が難しい状況の中、弊社はネット証券ということもあり、より声を伝えにくい環境にあります。いわばお客様を待つということが主でした。この状況を打開するために、弊社の声が伝えやすく、また20代の8割が利用しているというLINEのプラットフォームを活用することで、若年層の顧客を増やすことができればと思いました。このような発想から、LINEのプロジェクトはスタートしました」