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デジタルマーケティングで変わる「おもてなし」

デジタルの「おもてなし」にデータは必須、その活用を実現するために企業が突破すべき壁とは?

個人情報の扱いに厳しいEUから学べること

深田:データの活用では、個人が積極的にデータを許諾してくれるよう消費者側の啓蒙も鍵ですね。欧州などでは個人情報に厳しいといいますが、いかがでしょうか。

大山:米国は自由化が進んだからこそ自主規制の方向になりましたが、逆にEUの場合は非常に厳しいルールがある中で、各国がデータをどう活用していくかを考えています。アプローチが違うんです。

 例えばEUでは、データの越境ができません。ですから、スイスで許諾を得た匿名の個人データを他国では使えない。そのため、Oracle DMPでは国をまたいで広告配信しないように制限ができるようになっています。EUでは他にも、広告配信をする企業がCookieを使う場合は、統一されたフォーマットでプライバシーポリシーのページを作成し、ユーザーが確認できるようにする必要がありますね。

深田:欧州では、個人が企業からの情報の追跡をチェックできるツールである「Ghostery」を一般ユーザーが日常的に活用するなど、進んでいますよね。日本と比べると生活者のリテラシーにも差がありそうです。

大山:個人情報の取り扱いが厳しい国は、それだけ一般の人の関心も高いですし、一般的な新聞もWebメディアもプライバシー保護などのテーマを日常的に取り上げていると聞いています。メディアによる啓蒙の成果で、消費者が自己防衛するようになっているのではないでしょうか。

深田:日本の場合、消費者が「メディアやブランドは変なことはしないだろう」という信頼を持っていて、メディアやブランド側もそれを理解した上で事業を営んでいる実情がありますよね。日本の商習慣にある暗黙の了解がテクノロジーの普及を阻むことがあるのかもしれません。

大山:海外のイベントではデジタル詐欺のトピックが必ずと言っていいほど取り上げられますが、日本ではほとんどないですよね。日本の場合は、ブランドを損なうようなことはしない保守的なところがあって、ある程度守られてきたと思います。

 一方で、ガチガチにしたプライバシーポリシーだと、新しいテクノロジーの設計思想に適応できなくて、プロジェクトに躓き、期待する効果がなかなか出せないことがあります。例えばオラクルのようなBtoBの企業では、提供する製品の多様化が進み、1営業あたりが扱う製品数と営業目標が上昇し、営業の効率化を図るために確度の高いリードが必要になります。そこで、新規の見込み客だけでなく、過去に別部門の製品を購入いただいた既存客に対しても部門を跨いだ製品を提案し、1企業あたりの購入額を増やしていくビジネスゴールに対して、MAでニーズの喚起や興味関心度のモニタリングをしていきましょうとなるわけです。

 そこで、見込み客データを一元管理してタイムリーでパーソナルなメールを配信していきましょう、という段階でパーミッションの権限の問題が浮上することがあります。例えば同一企業内でも、A部門がイベントの展示ブースで個人情報のパーミッションを得た見込み客X社担当には、送付したメールの開封やサイトの閲覧情報よりB部門の製品に興味があることがわかっても、パーミッションの範囲が企業単位ではなく部門単位の場合、B部門ではX社担当にはメール配信できないという問題が発生するのです。

 以前から日本では部門の縦割り文化により、組織横断的なデータ活用の壁が課題として挙げられていました。DMPやMAなどデータ重視の新しいテクノロジーの恩恵を受けるためには、プライバシーポリシーのようなルールの改定だけでなく、データドリブンな会社にするために組織体制まで見直す必要があります。

 これまでは、日本のIT業界はカスタマイズの文化で各企業の独自の業態にツールを合わせてきたので、クラウド時代にツールを活用しきれず本来の良さを享受しきれていない側面がありました。でも、世の中が変わって消費者の生活も変わる中で、新しく出現し速いスピードで発展しているマーケティングの思想を企業が学び変わっていかなければ、新しい時代に勝ち残れないですよね。

深田:組織自体の発想を変える啓蒙まで、大山さんに期待されているのですね。それは大変でしょう。

大山:容易ではありませんね(笑)。ですが1年の時間とコストをかけて試行錯誤した結果、「組織が変わらないと結果がでない」という結論に達したとしたら、その1年の時間がもったいないですよね。クラウドの時代、1年あれば、目に見える結果を出さなくてはいけません。これだけDMPやMAといった新しいテクノロジーが注目されている背景には、売上の向上を阻む課題の顕在化があります。それなのに、長年の組織体制や商習慣が邪魔をして、自分たちがなりたい姿になれないのはもったいない。

深田:情報を扱うに当たって、日本には様々な課題がありそうですね。ドライブのポイントはどこでしょうか。広告主側のリテラシーなのか、メディア側なのか、消費者なのか。

大山:すべて大切です。しかし、一度に変えられないので、できるところから手をつけている状況です。Oracle DMPが持つサードパーティのマーケットプレイスという発想はユニークです。広告主のニーズはありますので、いま声をかけているメディアが参加し、1社でも2社でも成功する広告主がでてくれば少しずつ状況が変わっていくと思います。また、日本のグローバル企業では、成熟している米国市場でテストをするために、米国支社から取り組みを始めて、様子見をするケースも出てきています。

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トップダウンの啓蒙で強い日本経済へ

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この記事の著者

深田 浩嗣(フカダ コウジ)

15年にわたりモバイル領域でのデジタルマーケティングを提供しECを中心に200社以上のWebサイト立ち上げ・改善を実施。2014年、株式会社Sprocketを設立、Web接客手法でコンバージョンを最適化するツール「Sprocket(スプロケット)」を開発・販売する。短期的なCVRの向上にとどまらず、中長期的なLTVの向上を...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

深谷 歩(フカヤ アユミ)

株式会社 深谷歩事務所 代表取締役
ソーシャルメディアやブロクを活用したコンテンツマーケティング支援を行う。Webメディア、雑誌の執筆に加え、講演活動、動画制作も行う。またフェレット用品を扱うオンラインショップ「Ferretoys」も運営。深谷歩事務所公式サイトhttp://officefukaya.com

著書に 『小さなお店のLINE@集客・販促ガイド』(翔泳社)/ 『SNS活用→集客のオキテ』(ソシム)
『小さな会社のFacebookページ制作・運用ガイド』(翔泳社)/ 『小さな会社のFacebookページ集客・販促ガイド』(翔泳社)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2016/01/26 11:00 https://markezine.jp/article/detail/23685

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