今では受験シーズンの定番、キットカットの転換
では「買っている人の買っている理由」探索によって成功したケースには、どんなものがあるでしょうか。その代表的な例としては、まずは「キットカット」があげられます。当初は商品特有の「パキッ」とした食感を前面に押し出したコミュニケーションプランを、手を替え品を替え展開し、マーケットにポジションを築いてきました。
その戦略で市場の天井が見え始めた時、転機となった戦略は「なぜパキッとした食感が受け入れられないのか=受け入れてもらうにはどうしたよいのか」という「買わない人のボトルネック解消」ではなく「買っている人の買っている理由」の発掘でした。
それがご存知「キットカット=キット勝つと=キット勝つ」という受験のゲン担ぎとして、キットカットを選んでもらおうというキャンペーンです。
これは九州地方の人が受験のゲン担ぎで「キットカット=きっと勝つと」という方言の語呂合わせでお守りとして持っているという「買っている理由」を発掘し、それをブランド全体の戦略に転嫁し、成功を収めたケースです。それに続く「キット想い、とどく」というバレンタイン専用商品でも、女子中高生が「キットカット」を“はんぶんこ”して恋愛の告白シーンに使用しているという「買っている人の買っている」理由を活かした商品開発により、成功を収めています。
ユーザーの使い方に着目をしたサーモス
もう1社、代表的な事例があります。それが、サーモス社です。サーモス社は断熱技術をはじめとしたさまざまな技術により、食品の保冷・保温容器のリーディングメーカー。彼らのヒット商品に、スープ専用ジャーである「真空断熱フードコンテナー」があります。
この製品は日本人の弁当スタイルに合わせ、温かいスープを持ち歩けるようにしたものです。その保温機能の高さから堅調な売上を獲得していますが、飛躍のきっかけとなったのは、「買っている人の買っている理由」でした。
本来、この商品は「調理済みの食事を保温するためのもの」でした。ですが、ユーザーの間で「朝、食材と熱湯を容器に入れて携帯すれば、ランチタイムには熱々の食べごろの料理に仕上がっている」という使い方が口コミで広がっていることを、サーモス社の社員が発見したのです。
多くの購入者が買う理由にした「余熱を利用して料理を仕上げる保温調理」はサーモス社の定義した使い方とは異なるものの、同社は新たな使い方にユーザーが反応を示していることを大事にし、商品を「お昼までに、勝手に“保温調理”をして、ホカホカのお弁当を作ってくれているもの」へと変更。その認識をもってもらえるようマーケティング活動を続けることで、売上を急拡大させました。
さらに驚くべきは、このマーケティング活動を開始してから1年以内に出版された「保温力を活用したレシピ本」が10冊を超えるなど、1つのライフスタイルを創造する状況に発展したことです。
確かに新規需要であるノンユーザー(買っていない人)の獲得のために、彼らの声に耳を傾けることも重要です。ですが、今までCRM観点でしか活用されてこなかった「ユーザー(買っている人)の買っている理由」に着目し、潜在ユーザーが自社商品を「買ってみたくなるストーリー」に昇華させることで、新たな需要拡大の機会が創出できるのではないでしょうか。
次回は「“買ってくれる本人”から評価されれば売れる」というセオリーからの脱却です。ぜひご覧ください。