将来の顧客になりうる層をネット上で見出したい
MarkeZine編集部(以下、MZ):バナー広告や記事広告は、かつては広告単位でCPAやCVRを指標に評価されてきました。ですが今、ユーザー単位でみると、刈り取りよりも手前の段階にも有効な評価軸があるのでは、という議論が起こっています。
今回は、世田谷自然食品がAll Aboutに記事広告を出稿し、株式会社ロックオンがカスタマージャーニー分析などを担当した事例を紹介いただきます。まずは世田谷自然食品の鎌さんから、自社の現状と課題をお話しいただけますか?
鎌:当社は健康食品やサプリメントを扱う通販専業企業で、主な顧客層はかなり高めです。そのため、広告出稿のボリュームは新聞やテレビが中心ですが、近年はマス広告からの電話注文以外にECへの流入も増えている傾向が見られます。
ECにおける課題は、大きく2つあります。ひとつは今お話ししたマス広告からの流入を増やすこと。こちらは試行錯誤を重ね、ターゲットや有効な手法がかなり見えてきました。もうひとつは、ネットならではの顧客を発掘することです。潜在ユーザーはどのような人なのかを把握し、アプローチしたいのですが、こちらはなかなか難しい状況です。
MZ:マス広告では接触しない人に認知を図りつつ、新たなターゲット層を見つけたい、と。
鎌:そうですね。今すぐは購買につながらなくても、将来的に顧客になりうるユーザーを見出すことは急務だと考えています。
最終的なCVに記事広告はどう影響しているのか
MZ:記事広告は、よく出稿されるのですか?
鎌:いえ、ネットへの出稿はほとんどがバナー広告で、通常はCPAやCVRで直接効果をみています。ただ、それだけでは先ほどの2つ目の課題の解決につながりません。その折に、以前から広告効果測定や分析面でサポートいただいている株式会社ロックオンさんから、コンテンツマーケティングを通したオーディエンス分析と、コンバージョンより手前の効果を可視化するという提案を受けたのです。
MZ:なるほど。たしかに、コンテンツマーケティングだと直接のコンバージョンというより、認知や態度変容に効果がありそうです。All Aboutとしては、どのような意図で今回の企画に加わられたのでしょうか?
叶内:当社は幅広いジャンルで約900人の専門ガイドが記事を執筆していて、これまでに17万本ほど記事をアップしています。そのノウハウを元に、私の所属する商品企画部にて記事広告を企画しています。
私たちの課題は、まさにおっしゃる通り、記事広告の効果の可視化です。広告主はブランド企業が中心でダイレクト系が少ないため、そもそもコンバージョン目的の出稿はあまりないのですが、記事に接触した人が最終的にコンバージョンするまでの過程では、どこかに何らかの影響を与えているはずです。それを明らかにしたいと、ずっと思っていました。
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記事広告の接触ユーザーは外部サイトの広告効果増
MZ:All Aboutとしても、記事広告の価値を数値化したいという考えがあったのですね。ちなみに、広告主からもそうしたニーズはあるのでしょうか?
叶内:ありますね。以前はPVや送客数を効果指標にしていましたが、最近では読了率や滞在時間がスタンダードになりつつあります。今回のようなコンバージョンまでの間接効果の可視化も、メディアとしては勇気のいる決断ですが、向き合わざるを得ないと思っています。
MZ:なるほど。では、実際の出稿内容と分析について、株式会社ロックオンの足立さんからうかがえますか?
足立:今回は、青汁の記事広告を「健康維持」と「美容食」の切り口で2パターン制作してもらい、閲覧したユーザーを施策単位ではなくジャーニー単位で分析しました。評価期間は、1カ月半としました。
コンテンツの評価について、個人的にはポイントが3つあると考えています。施策軸の指標・人軸の指標・統計指標の3つです。それぞれ補足させていただくと、日常的に計測、活用されている“施策”ごとの指標としてコンテンツ単位のPV数やCV数等がよく利用されます。
一方“人”軸では、たとえば“コンテンツを見た人達“は何人(UU)いて、そのうち新規UUは何人で、その後どんな行動をとっているのか? CVしやすくなっているか(CVRの比較)、CVはしていないが、広告クリックや自然検索するようになった人達はどれだけいるのか(平均クリック数・SU数の比較)、それはどんな人(性別・年齢etc.……)なのか? といったカスタマーのプロファイル分析、ジャーニー・フロー単位の分析から得られる指標が目的に応じて用いられます。
そして最後に、コンテンツに限らないマーケティング施策の変数が複合的に関与しあっているという前提に立った時に、それらの関係性を定量化できる統計手法を用いた指標です。このうち今回は2つ目の人軸でのカスタマージャーニー分析と、3つ目の因子分析という統計手法を用いた評価を重視し、それぞれ私と松本が担当しました。
MZ:端的に、どういったことが分かりましたか?
足立:まず、記事広告はやはり直接的には期間中のコンバージョンに大きく影響してはいませんでした。“施策”軸でみても効果がなかったというはっきりとした結果です。逆に目覚ましかったのは、CVしていないユーザーのジャーニーを分析したところ記事広告を閲覧していったん離脱したユーザーも、相当数がその後にバナーやリスティング広告を通してLPに流入していたことです。
記事広告を閲覧したユーザーを100としたとき、記事に記載のリンクからLPへ飛んだ人が約60%、All Aboutを離れて外部サイト経由でLPへ飛んだ人が約40%という内訳になりました。
新規ユーザーとの接触から育成の状況が明らかに
MZ:ユーザーごとにジャーニー単位で分析していくと、コンテンツに接触したユーザーは、直接LPに飛ばなかったとしても、All Aboutを離脱した後に外部サイトで見た広告をクリックしやすくなっていた……ということですね。
足立:ええ。そのように理解しています。実際に深掘りして、記事閲覧した人としてない人のその後の動きを見てみると“閲覧して広告クリックをした人”の方が“閲覧しなかった人”より同期間で約1.5倍広告をクリックしているという計測結果になりました。
記事内のリンクをクリックしなかったユーザー達が、他の広告からこれだけ流入していることに、記事が貢献していることは明らかだと感じており、今までの直接的な流入だけでは、この約40%は見えなかった数値ですので、これは非常に大きな気付きでした。
また、アドエビスのオーディエンス分析機能「オーディエンスエビス」を使って、数名のユーザーを細かく追ったところ、ユーザーが商品を認知し関心を持っていく様子も推測できました。
「老後」や「健康」といった広いキーワードで情報を探している中で、今回の青汁の記事に接触し、別サイトの健康系の記事も閲覧してから、最終的に世田谷自然食品のリターゲティング広告をクリックしたり「世田谷自然食品 青汁」で検索したりしている状況をみると、この流れは少し大げさな表現ではありますが、デジタルマーケティングによる “育成”といえるのではないかと考えています。
MZ:なるほど。この結果を受けて、鎌さんはいかがですか?
鎌:できれば直接的なコンバージョンもほしかったので、その部分では十分な数値だったとはいえませんが、出稿した媒体の外のユーザー行動まで把握して効果をみる、という包括的な考え方ができるようになったことは収穫でした。
今回は外部サイト経由の効果が約40%でしたが、これが記事の内容や商材との相性によってどう増減するか、次のフェーズとして試してみたいですね。
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因子分析により記事広告の指標を3つに集約
MZ:カスタマージャーニー分析を密に行うと、コンバージョンの手前に広告がどう影響しているか、ここまで細かく分かるのですね。
足立:ええ。「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じで、コンバージョンから逆算してプランニングすれば、より潜在層の獲得を増やしたり、それにつながる指標を見つけることができると思います。
購入などの直接的なコンバージョンだけでなく、例えばブランディングであっても得たい結果、商品理解や好意度等を設定して逆算することで、得たい結果につながる中間指標を見つけていくことができると考えています。
MZ:もうひとつ、因子分析という分析も行ったとのことですが、こちらを担当した松本さんから簡単に内容を紹介いただけますか?
松本:因子分析とは、たくさんある要素を、相関性からいくつかにまとめて分析する手法です。今回は、PVから読了率まで20ほどの効果測定指標のうち8つを、因子分析によって「キニナル因子」「ヨンデル因子」「モウイイ因子」の3つにまとめて、効果を把握しやすくしました。これについてはAll Aboutのコンテンツマーケティングに特化した情報サイト「Content Dig」に詳細を寄稿しています(記事詳細)。
MZ:たしかに、どの指標をどの程度重視すべきかが分からないという声はよく聞きます。こういった分析が可能になると、メディア側も効果を提示しやすくなりますね。
叶内:そうですね、コンテンツの改善策も考えやすくなるので、ありがたいです。記事広告の切り口の検証にも使えると思います。
コンテンツ評価から新たな訴求の切り口を発見
MZ:今回のようなコンテンツの価値の可視化に対して、広告主として鎌さんはどんな手応えがありましたか? 今後の展望も含めてお聞かせください。
鎌:今回も1カ月半の検証期間を取りましたが、通販では基本的にユーザーのLTVが重要な指標になるので、長期的な視点で顧客との接点を考える過程でこうした見直しをして、配信面やターゲットユーザーを最適化していくプロセスは非常にいいと思っています。
今後もネットで将来の新規顧客を探りつつ、直接的にはマス広告からの獲得がメインなので、テレビCMからのネット流入やその後の行動をさらに包括的に把握して、施策の改善ができるといいですね。
足立:まさに広告主のそうした声を反映して、テレビCMの効果も紐付けて検証できるアドエビスの機能バージョンアップ版をリリース予定です(参考情報)。ターゲットによってはまだまだテレビCM起点のビジネスモデルも多いので、テレビによってWebコンバージョンが何件発生しているかがテレビ“枠”単位で瞬時に分かるようにしていきます。
テレビCMの効果を測定!TVエビスの詳細は<こちら>
松本:このような分析機能の課題も、今回の企画を通して分かったことのひとつです。よりユーザー行動に寄り添って細かくジャーニーを追えれば、長期の顧客育成施策も充実させられると思います。
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