成功・失敗事例から、マーケティングオートメーションのコツを探る
2005年設立のアクティブコアは、プライベートDMPを提供している。ウェブの行動履歴や顧客データ、POSデータ、営業のログなどを格納し、それを分析してオートメーションでレコメンドするところまでオールインワンで行えることが特徴だ。
「当社の製品は全て一つの管理画面で操作できることをポリシーに、クラウドで提供しています。現在は、ブランド企業・ECサイト・人材サイト・大学など、様々な業種の200社以上のクライアント様に導入いただいております。その中から、本日はお客様の成功と失敗事例をご紹介することで、顧客視点でのマーケティングオートメーションを成功させるためのコツを考えていきたいと思います」(山田氏)
顧客の可視化によってアプローチを変えた、カメラのキタムラ
1つめの事例はカメラのキタムラだ。同社では以前、受注データや会員データ、ウェブのアクセスデータなどの各データソースやシステムが分散していた。そのため、データ分析とはいってもエクセルでデータを結合するなどして導き出した結果だった。当然、分析は推測の域を出ず、顧客の声も姿も見えにくい。そのため、アクティブコアのプライベートDMPを導入し、全てのデータを統合することにした。
「データを統合すれば、どこから来たお客様がどのページを見て、どの商品を購入したのか。そのお客様は、どの年代で、他にどのような行動をとったのかがわかるようになる。お客様の顔が見えてくるのです」(山田氏)
データ統合後は、例えば同じ機種の商品でもデザインによって客層が全く異なることがわかったという。具体例として山田氏はPENTAXのミラーレス一眼カメラをあげる。通常バージョンは40代のユーザーが多いのに対して、アニメ『エヴァンゲリオン』モデルでは圧倒的に10代が多いことがわかった。年齢や嗜好の違いがわかれば、カメラとの併売商品としておすすめする商品も変わってくるだろう。つまり、実店舗では当たり前のように行ってきたアプローチをデジタルでも実現が可能になるわけだ。
また導入以前は、すべてのユーザーに同じ内容のメールを配信していた。限られたデジタル施策への予算のなかでは、メールでコンバージョンを高める方法が有効だと考えられる。しかし、配信数が多すぎるため効果も減少傾向にあり、スパム化する恐れもあった。そのため、DMPからきめ細かい条件をもとにターゲットを抽出することが求められていた。
「現在では、随時発行のフォローメールとセグメントメールマガジン、月3回発行のパーソナライズされたメールマガジン3種類を、アクティブコアマーケティングクラウドでオートメーション化して配信しています」と山田氏。
成果の程はどうか。フォローメールの自動配信については次の3種のタイミングで配信した。
- 商品発送から5日後に着荷確認および初期不良確認とあわせてパーソナルレコメンド→CV率3%
- 商品ページ閲覧後、購入しなかったユーザーへアイテムリマインド→CV率5%
- 最終商品購入日から90日間経過したユーザーへパーソナルレコメンド→メール内のクリック率13%、CV率6%
価格.comからの流入での平均CV率4.5%を基準としたとき、(1)は追加購入には結びつきにくいことがわかった。一方、(2)の閲覧履歴から送るリマインドは効果が高く、特に高額な商品ほど購入までに迷いが出るためメールが最後のひと押しになった。また、(3)ではアクションをしなければ離脱する顧客に、購入済み商品を軸にしたアプローチを行ったことで、再来訪につなげることができた。現在、3種のメールから得られる売上は、月間1,500万円以上だという。
さらに、ターゲット抽出メルマガについても事例が紹介された。以前、あるメーカーの交換レンズの卸価格が一斉値上げされる際に、そのメーカーの製品を過去に購入したユーザーへ、値上げ前の購買を促すメールを配信することにした。ターゲットを抽出してみると、年齢は40代以上が63%を占めており、販売チャネルはお客様相談室経由の電話注文が25%と意外なシェアを占めていることがわかった。さらに複数回購入履歴がある人が83%以上で、購入回数10回以上が約30%だった。
そこで、メールの内容を“買い替えませんか”という単なる呼びかけにとどめず、紹介商品をハイアマチュア向けにしたり、電話注文ができることをアピールしたりした。結果、メールのクリック率は38%となり、ECの平均セッション数は2.5回という結果が出た。
「ターゲットを可視化することで、年齢が高くリピート購入につながる優良顧客であることを理解できました。そのうえで施策を練ったことで、サイトに集客することができました。次回は、サイトに来たけれど未購入だったお客様に対し、最適なアプローチを打つこともできるでしょう」(山田氏)
続いて山田氏は異なるターゲットメールの例を取り上げ、ターゲットの抽出条件の重要性を説くとともに、「良い結果が出たとしても、妙なデータが出たときは原因をきちんと見るべきだ」と注意を促した。
あるメーカーのカメラの買い替えを促す施策を行った際、ターゲットを抽出すると、60代が主となる構成だった。メールの結果は、通常のセール告知では平均13%のクリック率のところ、約21%と伸長し、CV率も4%という好成績を残した。
しかし、気になる点が1つ見つかった。ボリュームゾーンが60代にもかかわらず、モバイルからのアクセスが多かったのだ。違和感を感じ調べるとその多くが転売目的の業者だと判明した。以降、そのようなユーザーは除外するようになったという。
「同社の取り組みからは、やみくもにメールを送るのではなく、まずターゲットがどういう人かを調べてから、メールの内容を変えてアプローチする。そして結果のデータを見て改善するという姿が見えます。一見当たり前のことですが、実践できている企業は意外と少なく非常に良いアプローチです」(山田氏)
顧客ステータスにきめ細かくあわせた施策で継続的にアプローチ
続いて、BtoCの人材サイトの事例が紹介された。この企業では、会員訪問状況を可視化したところ、90日間サイトに訪問しないと休眠するというデータが得られた。また、業界の活況により会員数は増えているものの、求人を検討中フォルダに入れたまま応募しないユーザーも増加していた。この状況から課題を整理すると、顧客ステータスに合わせた施策立案とオファーが必要であることがわかった。
「このケースでは、会員登録・サイト閲覧・検討・応募後・休眠などの各顧客ステータスにあわせた施策立案と、継続的なアプローチをしたことが重要なポイントです」と山田氏。具体的な施策は次のとおりだ。
アクティブだがなかなか成約に至らない会員に対しては、共通点である“履歴書の記入量が圧倒的に少ない”ことを改善すべく、自己PR文字数50文字以下の会員を抽出し、コンサルティングメールを送った。「記入量が少ないとやる気が無いと思われ、企業から落とされがち。このメールを送った後、履歴書情報を更新したユーザーは、書類審査通過率がアップしました」(山田氏)
次に、求人数が少ないエリアの会員対策として第2エリアを設定。会員の居住県とは異なるものの駅から近くて通いやすい求人情報もオススメするようにした。「求人が少ないエリアは、ずっと同じランキングやレコメンドが表示されてしまうという課題がありました。そこで、例えば和歌山県在住の方に、大阪府で駅近の通いやすい情報をレコメンドするようにしました」(山田氏)
“かご落ち”のリマインドは求人応募でも効く
続けて、一度転職した後に再び転職活動を行うユーザーに対するアプローチを改善した。これまで成約をした会員には一律のメールマガジンを送付するだけだった。それがメールマガジンの解約につながり、サービスのリピート機会を損失していた。しかし、MA導入後は、会員が再びサイトに訪問した際に過去データとクッキーからユーザーを特定できるようにしたため、前回の訪問からの経過時間によって、アプローチを変えることが可能となった。
新規会員向けのステップメールでは、初回のサービス紹介メールで反応した場所に応じて、その後のレコメンド内容を変えるようにした。例えば職種が医師だとしたら、転職なのか、アルバイトなのか、はたまた後期研修医向けのコンテンツが良いのかなど、ユーザーに合わせたきめ細かなコンテンツを用意してフォローしている。
さらに、休眠会員の掘り起こしでは、サイトの訪問状況から休眠会員を特定し、パーソナルアプローチを行っている。前述のように、90日間以上サイトに訪問がない会員に対してメールで求人をレコメンドし、反応がなければ再度リマインドする。反応があればウェブサイト上でもレコメンドをし、そこで応募がなければ、サイトの履歴から求人をまたメールでレコメンドしている。
山田氏がとても効果があると力説したのが、いわゆる“かご落ち”のエントリーフォームフォローシナリオだ。
「例えばECでも、カートに入れて買わないユーザーがいると思いますが、ECでなくても“かご落ち”施策をやるべきです。このお客様の場合、通常のメール応募率は3.2%ですが、応募忘れをリマインドしただけで18.5%にも上がりました」(山田氏)
様々な施策を行った結果、MA導入後の3カ月で、会員数の増加と同時に求人応募数が4倍以上になったという。
ウェブの行動履歴を、営業へ活用してアポ率UP!
最後に、顧客情報とWeb上の行動履歴および、営業履歴をつなげたBtoBビジネス事例が紹介された。BtoBの場合は商談成立までに長い時間とステップを要することも珍しくない。イベントやセミナー、問い合わせなどからリードを獲得し、そこから営業担当が商談を重ねるといった具合だ。様々なチャンネルによるアプローチがなされ、場合によっては部門による隔たりがあるため、データがサイロ化されるケースも少なくない。紹介された企業も例に漏れなかった。
「そこで、同社は散在していたデータを集め、Webの行動履歴から受注と相関の高いアクションを洗い出すことにしました」(山田氏)
すると、サイトの中でも、“検討の方向け”“カタログダウンロード”“会社情報”“保守サービス”など特定のメニューを閲覧した履歴のあるユーザーが、受注につながりやすいことがわかった。このデータをふまえて、顧客のステータスに合わせてアプローチを自動化する際に、重要ページを閲覧したかどうかをトリガーの一つに組み込んだ。
さらにイベントやセミナーでのアンケートをデータ化して統合、スコアリングに基づくアタックリストの作成などを実施した。カスタマージャーニーとしては、まず展示会に参加したユーザーをメールで誘導し、メールアドレスをクッキーと紐づけておくことで会員登録無しでユーザーを特定する。その後、重要ページを見たユーザーをアタック候補にして、営業担当によるコミュニケーションを開始する。さらにアポを取り付けられなければ、ステップメールで対応する、という流れだ。これにより、アポ成立の確率が40%に上昇したという。
トライの継続が何よりも重要
企業マーケティングには不可欠なデータの分析、レコメンド、オートメーションまでをワンストップで実現することが重要であると山田氏は強調する。そして、「しかし最も重要なのは、システムやツールよりも、しっかりと分析→シナリオ作成→評価改善→メンテナンスというPDCAを回し、継続すること」だと述べ、運用が上手くいっているクライアントの共通項を次の通り紹介した。
- オファーする顧客を可視化、分析して施策を立案
- 最初は手動でトライして、結果が出た施策を自動化
- やりっぱなしではなく、 効果を可視化する仕組みを構築する
- トライを継続する
特に、トライの継続が重要だと山田氏。「スタートで上手くいかないから、途中でやめてしまうケースがあります。ですが、せっかく導入したのであれば、収益化させるまで継続することが重要です。当社は、そのお手伝いもさせていただきたいと思っています」とメッセージを伝え、セッションを終えた。