メルカリ、マネーフォワードが考えるUXとは
まず、パネリストの手がけるサービスそれぞれについて紹介しよう。2013年7月にスタートした「メルカリ」は、日本最大のフリマアプリとして急速に人気を集めている。特徴は3分間で簡単に出品ができること。さらに、売れた商品の約半分が出品から24時間以内に成立しており「売れるのが早い」「出すとすぐ売れる」と顧客満足度も高いという。
決済は、出品者と購入者の間にメルカリが介在する「エスクローモデル」を採用しており、安心・安全を強みとしている。伊豫氏はその米国版「メルカリ」のプロダクトマネージャーとして、当然ながらUXにも大きく関わる。
細谷氏が所属する「マネーフォワード」は「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに掲げ、Fintechを中心とした事業を展開している。具体的なサービスとしては、個人向け自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」、ビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などがある。特に「マネーフォワード」は2,580以上の金融関連サービスが連携しており、400万人の利用者(2016年10月現在)でシェアNo.1。細谷氏は、自動家計簿・資産管理サービスの開発を担当し、現在はマネジメントやディレクションにも従事しているという。
それぞれ最先端のデジタルサービスに取り組む二人が考える「UX」とはどのようなものなのか。また、“ユーザー”とは誰か。以下より、ディスカッション形式でご紹介する。
UXは「モヤッとしている言葉」
入谷: UXという言葉は様々な意味があると思います。社内でどんなふうに使っていますか? また、どのようなシーンで使いますか?
細谷:プロダクトの場面で、画面に見えるUIや画面に表示される速度などについて語る時にも使いますが、サービス内だけではなく、利用の前にアプリを認知してもらうタイミングから“UX=ユーザー体験”は始まっていると考えています。つまり、知ってもらうための広告のクリエイティブの品質や印象、ダウンロードしてからの登録・ログインなど、そのすべてをUXと認識しています。
入谷:細谷さんはプロダクトのUXを統括する立場でありつつも、わりとマーケティング的というか、顧客獲得の部分までもUXとして捉えているわけですね。プロダクトとマーケティングの橋渡しが課題になる中で、それは大変興味深い事象です。メルカリではいかがですか?
伊豫:メルカリの中ではUXという言葉は、プロダクトの場面であまり使わないようにしています。というのも、おっしゃるようにUXは「モヤッとしている言葉」で、とても耳障りがいい。そのため、結局何を目指そうとしているのか、何をやりたいのか、共有できなくなってしまう恐れがあります。だから、「UXを測定する指標」も設定していません。しかし、利用者が「うれしい」「喜ぶ」などの“状態”を指して、「いいユーザー体験だよね」ということはあります。
細谷:確かに、日々の会話の中では使わないですね。そもそも何か機能を語る時に「UXがいいね」といっても何を褒めているのか、わかりません。なので、たとえば「このボタンは押しやすいね」など、より具体的に表現しています。そのすべてがUXという認識はしていますが。
入谷:お二人とも曖昧なまま「UX」といわないところが共通していますね。確かに、「UX」といった途端にかっこいいけれど、感情が抜け落ちているような、どうとでも取れるような感じがありますね。