エイチームがTwitterをフル活用した理由とは?
今回ご紹介する事例は、エイチームが2016年6月9日にリリースしたスマートフォンゲームアプリ「ヴァルキリーコネクト」のTwitterプロモーション施策だ。エイチームは同ゲームのプロモーション施策において、従来よりもTwitterに分配する予算を増やし、認知拡大と新規獲得の両軸で施策を展開した。
「ゲームアプリでのTwitter活用はもはや必須」と語るのは、同社のスマートフォンゲームアプリを展開するエンターテインメント事業において、マーケティング部門を統括する柴田氏だ。
「これまでの実績で、Twitter経由の事前登録ユーザーは、長く遊んでくれて、課金率も良いなど、相性が良いことがわかりました。そこで、Twitterを中心に事前登録のプロモーションを実施した結果、合計で25万人の事前登録を実現しました。リリース後もApp Storeのセールスランキングで3位を獲得するなど好調な立ち上がりになりました。しかも、今回はインセンティブをあまり使わなかったので、施策として良い事例になったと思います」(柴田氏)
インフルエンサーの活用で、ゲームをしない層にアプローチ
具体的に事前登録のためには、何を行ったのか。リリース前の5月20日頃から事前登録のために3種類の施策を行った。
- リツイートキャンペーン
- 動画の第三者ツイート
- プロモツイートによるweb誘導
リツイートキャンペーン
公式アカウントのツイートをリツイートした利用者から抽選で、100名に1万円のアマゾンギフト券をプレゼントした。総額100万円というキャッチーさから、コア層以外にも広く拡散させることに成功した。なお、インセンティブを活用した施策はこのキャンペーンだけだという。
動画の第三者ツイート
ゲーマーに人気のあるインフルエンサーと、メインターゲットターゲットである20代前半のユーザーに支持が多いインフルエンサーに、それぞれゲーム実況等の動画を作成してもらい、第三者ツイートを行うことで、ゲーム好きだけでなくインフルエンサーのファンである利用者へゲームの存在を知らしめた。
●第三者ツイート
ユーザーに大きな影響力を持つインフルエンサーのツイートをプロモツイート(広告ツイート)として配信するサービス。通常のツイートはフォロワーにしか配信されないが、このツイートは、アカウントのフォロワー以外にも、ターゲティングした任意のアカウントに配信することができる。もちろん、第三者ツイート配信がされたツイートには「プロモーション」表記が入る。
★その他の第三者ツイート配信の事例記事はこちら。King Japan×エウレカ、エイチーム
プロモツイートによるweb誘導
Twitterのwebサイト誘導を目的としたプロモツイートを使い、アプリの事前登録サイトに直接誘導した。
テレビCMより費用も準備期間も抑えて、認知率1.5倍を実現
「リリースした後は、新規獲得と認知拡大の目的別にプロモーションを行いました」と柴田氏。それぞれ、何をしたのか見ていこう。
新規獲得:ファミ通App×Twitter「Amplify」を活用
通常のTwitter MAP(モバイルアプリプロモーション)による獲得に加えて、Twitterの動画広告メニュー「Amplify」と、ファミ通Appがコラボレーションした商品を活用。ファミ通Appが制作したTwitter専用のゲーム解説動画を配信した。
「この取り組みは非常に良い成果が出ました。ゲームとゲームプレーヤーを知り尽くしたファミ通Appさんにコンテンツを作っていただくことで、ゲームに特に興味のある利用者にアプローチができました。そのため、Amplify経由で利用を開始した層のゲーム課金率や継続率はとても高い」(柴田氏)
●Twitter Amplify
Twitterの動画広告商品。スポーツのハイライト動画など注目度の高いコンテンツの前後に動画広告を挿入できる。
●モバイルアプリプロモーション
通常のツイートと異なり、ツイート内にボタンを設置し、利用者をアプリストアに直接誘導ができるサービス。通常のプロモ商品と同様に、趣味や興味関心といったインタレストグラフに基づいたターゲティングが可能。
認知拡大:プロモビデオを活用
ゲーム内容や、タイトルロゴを訴求したクリエイティブを制作。20〜30代のゲームアプリを利用する層をターゲティングして配信した。結果、調査では施策前に比べて認知率が1ヶ月で1.5倍ほど上昇したことがわかった。
アプリのプロモーションにおいてTwitterを活用する際は、認知拡大よりも新規獲得に活用することが多いのではないだろうか。なぜ、今回、Twitterで認知拡大施策を展開したのか。
「認知拡大といえば、テレビなどのオフライン施策と考えられがちです。もちろん効果は大きいですが、オフライン施策は制作などに長い準備期間がかかりますし、柔軟な対応が難しい。その点、認知から素早くリーチを広げたい場合は、やはりweb施策はスピーディーです。そのため、Twitterを活用することに決めました」(柴田氏)
実際に、テレビCMであれば企画から実施まで約3~4ヶ月かかるところを、今回は2週間ほどで行ったという。
「テレビCMで認知率を同じだけ伸長させた場合を考えると、テレビの6割ほどのコストに抑えることができました。認知率を50%や、それ以上に広く大きく伸ばしたい場合は、マスを主軸に広告を流す方が効果的だとは思います。ですが今回のように、初動で成果を出したい場合は、webの方が向いていますし、費用対効果も良いと感じました」(柴田氏)
次はクリエイティブにも力を入れたい
新規獲得と認知拡大では、動画広告のクリエイティブも変えたという。前者の場合、ゲームタイトルはあまり必要無く、単純に“このゲームをやりたい”と思わせるものにした。対して、後者ではゲーム画面とタイトルがしっかり結びつくように、ロゴ等のイメージが頭に残るようなクリエイティブにした。
「動画の制作にかける時間が少なかったことは反省点ですね。予算的にはweb動画への配分も増えてきているので、制作に1~2ヶ月は要するテレビCM同様に、Twitterでの動画クリエイティブも高い品質・レベルにしていく必要があると考えています」(柴田氏)
クリエイティブの質を高めつつ、webのメリットであるスピードを維持するためにはどうすれば良いだろうか。Twitterの両氏はこう語る。
「経験上、毎回新しいクリエイティブを作る必要はなく、動画が1本あればそれを少し編集したり、順序を変えたりするだけでも成果がぐんと上がることも多いです。そうすれば、時間やコストの節約になるでしょう」(庄司氏)
「Twitterユーザー、およびTwitterの動画フォーマットに合わせて最適化したクリエイティブを作ることがポイントです。当社にはTwitterで反応の良かった動画は何か、といった情報があります。見てもらいやすいクリエイティブの知見を提供させていただけるかと思います」(瀬尾氏)
成功の秘訣は「新規獲得と認知拡大で施策をわける」こと
エイチームの施策が成功したカギは何か。Twitterの活用を認知拡大と新規獲得という二つの目的で明確に使い分けた点が大きい、と庄司氏は語る。
「Twitterでも、ブランディングに特化したプロダクトとインストールを生み出すプロダクトは分かれており、本来ならばそれを使い分けることが重要です。ですが、残念ながら二つの目的を一度に解決したい、とご相談を受けることが少なくありません。今回はエイチームさんがその点を理解されていたことは非常に大きいと思います」(庄司氏)
一施策に獲得と認知を求めて、どっちつかずになり動けなくなるケースが多い。その点、エイチームのように明確に切り分けてチャレンジすることで、逆に効率良く成功につながるわけだ。
この獲得と認知の切り分けについて、柴田氏はエイチームの方針を次のように語る。
「新規獲得は、“獲得単価やROIを考えるとこれくらい投資ができるかな”というのが経験からわかっているので、そこをしっかり進めています。認知拡大については過去の自社や他社のゲームの認知度を調べて、“これくらいの認知度があればこれくらいの規模感に出来るのでは”という仮説が立てられるので、今回のゲームが目指す規模感に対して、認知度をどれくらい上げるべきかを決めて動いていました。
そのため、認知は認知だけの数字に切り分けて、とにかく何%上げるということに特化していたので施策を進めやすかったですね。認知施策に売上の目標までくっつけると、進みませんから」(柴田氏)
ハイスピードで挑戦ができる秘訣とは?
エイチームのチャレンジ精神も成功の要因だと瀬尾氏は語る。
「まだまだ“認知拡大=テレビを含むオフライン施策”という考え方が根強く、またwebを活用した認知拡大の先行事例は多くありません。そのような現状で、お客様と一緒に認知拡大に挑戦できたことは、当社にとって大変良い機会となりました」(瀬尾氏)
こういったチャレンジができる背景には、エイチームの社内文化も大きく影響しているようだ。
「まず、何事にも目的を明確にしていることと、組織がみんな横並びで風通しの良い環境である点が大きいと思います。ゲーム制作でいうと、プロデューサーの権限が強くて、マーケターはその意向に従う、という組織体も珍しくありません。一方、当社は制作とマーケティング部門が一緒に相談をしながら進めています。ですから、お互いの意向を汲みながら、新しいことにも挑戦できますし、意思決定も早い。おかげさまでマーケティング部門の幅が大きく、マーケティング部門の人手がいつもたりません!! 新しい発想をお持ちのマーケターお待ちしています(笑)」(柴田氏)
事実、エイチームからのレスポンスは非常に早く、プロジェクトの進行も円滑だと瀬尾・庄司両氏は語る。
PDCAを回し、事業全体をサポートしたい
今後について柴田氏は、認知拡大施策は引き続き動画の質を高めながら展開し、新規獲得においては他メディアとも協力しながら施策を進めたいと語る。対してTwitterは中長期でサポートをしてゆく姿勢だ。
「施策を打つだけでなく、きちんと善し悪しを検証してPDCAを回すことにも注力していきたいですね。また、一つのゲームタイトルだけでなく、エイチームさんの事業全体を横断的にどうサポートできるか、中長期の目線で一緒に走って行ければと思います」(瀬尾氏)
先行事例ばかりを気にする企業も多いなか、ハイスピードでチャレンジを続けるエイチームとTwitterが次回はどのような施策を展開するのか。両者の取り組みに引き続き注目したい。