大日本印刷のマーケティング支援、ダイレクトメール時代からの実績が強み
印刷業界に留まらず、多くの人がその名を知る、大日本印刷。売上高は優に1兆円を超え、日本を代表する総合印刷会社だ。
社名のとおり「印刷業」のイメージが強い大日本印刷だが、包装材や液晶ディスプレイなど事業を多角化。2015年にはデジタルマーケティング事業の一環として、新たなDMP(データマネジメントプラットフォーム)サービスをリリースした。「diip」と名付けたそのDMPは、すでにEC事業者や、実店舗を展開する小売企業にも採用されている。
実は大日本印刷は、十数年に渡りデータを扱ってきたプロフェッショナルでもある。印刷業とDMP。一見無関係のようにも見える両者だが、共通点は「顧客情報」だ。
「お客様から印刷の依頼を受ける際、印刷データそのもの以外にも、郵送先の住所をはじめとしたさまざまな顧客データをお預かりすることが多くありました。これらを活用した新規事業は、以前から多く立ち上げていますが、『diip』もその系譜上にあるといえます」
そう語るのは、情報イノベーション事業部 小路朋之氏。diipの普及と運用の旗振り役だ。
2000年頃からデータ分析を開始 満を持してDMPサービスを開始
データのみならず、インターネットにかかわるビジネスの歴史も古い。2000年初頭にはデータセンターを設立してサーバホスティング事業を開始し、その他にもECサイト構築・運営システムサービスや、電子書籍の「honto」といったサービスも立ち上げている。
「当社の強みを活かしつつも、従来の紙媒体だけにとらわれないビジネスを行う部署ができたのが、2000年頃です。その頃からデジタルデバイス、要は雑誌やチラシなど以外でもお客様に情報を届ける方法を考え始め、複数の事業も立ち上げています。
同時並行的に顧客データの分析も続けてはいたのですが、ここ数年でマーケティングオートメーションやCRM、ビッグデータといったキーワードが次々に現れ、マーケティングの形が変わってきました。こうした時代背景の中で、2014年から本格的に検討を始めたのがDMPとしての『diip』です」
消費者が情報を取捨選択する時代 diipのキーワードは「お客様起点」
「情報革命」ともいわれるインターネットの出現で、世の中に流通するデータ総量は爆発的に増加した。そして消費者は、スマートフォンのようなデジタルデバイスを駆使し、あふれる情報を自ら取捨選択のうえ、吟味するようになってきている。
「消費者の変化により、企業のマーケティングも変化せざるを得なくなってきています。企業が、自分たちの都合で、自分たちが提供できるエリアだけに情報を配るという従来のマーケティング手法は、もはや成り立たない。こうした理由から、diipのキーワードを『お客様起点』に設定しました」
テクノロジーの進化により、消費者に情報を届ける手段は増加したが、一方でデータ分析や自動化により、最適な手段を選びやすくもなっている。LINEのプッシュ通知が最適な層もいれば、紙のダイレクトメールがもっとも響く場合もある。
diipおよび大日本印刷のデジタルマーケティング事業拡大は、ダイレクトメールやチラシの印刷・発送業務など本業である印刷業に対し、ポジティブな影響を与えることも当然踏まえて行われているのだ。
「実店舗」も含めた本当のマーケティングオートメーションへ
それでは、大日本印刷が提供するdiipとはどのような製品なのか。小路氏は「ひとことで言うなら、マーケティングオートメーションとキャンペーンマネジメントを組み合わせ、その中心に分析機能を持っているもの」と語る。
実際diipは、ウェブログ、ID-POSデータや会員データ、ポイント利用データなどの分析・活用など大日本印刷が得意とする領域に加え、IoTデータ、それに実店舗の行動ログの分析などを含んだ、総合的なマーケティングプラットフォームだ。
そもそも、通販業者が顧客にダイレクトメールを送付するなど、マーケティングオートメーションの概念自体は「十数年前からある」と小路氏は語る。しかし、その頃には取得できていなかったデータの代表格が、実店舗のものであるという。
「これまで、一般的な流通小売業者が把握できていたお客様の行動パターンは、POSとポイントカードのデータによるものでしょう。これらを分析することで、お客様がいつ、どこで、何の商品を購入したかは把握できるようになりました。これをもとに、次に買う可能性の高い商品を導き出すことは可能になりましたが、今となってはそれだけでは十分なマーケティングとはいえません」
レコメンドだけでは不十分。IoTで「買いたい」意思も把握
過去の購買履歴を分析し、商品をレコメンドするのは一般的なマーケティング手法であり、今でも広く使われている。しかし小路氏は、「それでは不十分だ」と語る。
「購入する前のお客様の思考、いわば『買いたい』という意思は、実店舗ではなかなか把握できませんでした。その点diipでは、『moptar』という動線分析のツールと連動し、実店舗上でどの商品に興味を抱き、売り場でどの程度時間を費やして、最終的に買ったのかどうかまで把握できるようになっています。それまでウェブサイト上でしかできなかったことが、実店舗でも可能になったのです」
diipが目指すところは、オンライン・オフラインを問わない「顧客の行動パターンの把握」であり、IoTも含めたビッグデータでそれを解析することだ。ウェブと実店舗、双方の行動パターンを把握できれば、「この人はウェブで買う傾向がある」や、「必ず実店舗で見てから購入する」といった「個人単位」でのマーケティングが実現するのである。
「それこそが我々の考えるオムニチャネルであり、実店舗の動線分析まで含めたマーケティングオートメーションの流れを作っているのは、まだ日本で当社しかないのではと思っています」
diipはその他にも、豊富なテンプレートからくる直感的でわかりやすい分析機能や、高度なキャンペーン管理機能、データ連携が容易になるコンバータ機能など、デジタルマーケティングに必要な多くの要素を備えており、それらの開発やサポートが純国産であることも大きな強みである。
組織を変えよ オムニチャネルマーケティング成功に必要な覚悟
大日本印刷では、印刷業などで培った知見、顧客とのリレーション、diipの豊富な機能などを軸に、デジタルマーケティング事業をさらに拡大していく予定だ。「DNPオムニチャネル対応データマネジメントプラットフォームdiip」としているサービス名称も、3月を目処に「DNPデジタルマーケティングプラットフォームdiip」と変更する予定もあるそうだ。
最後に、企業が「お客様起点」でのオムニチャネルなマーケティングを成功させる秘訣について聞いた。
「デジタルマーケティングの世界は、企業主体からお客様主体に考えかたを変える必要があります。たしかにパワーを要しますが、スマートフォンという地殻変動が起きている今、『たいへんだ』などと言っていられる状況ではありません。
お客様起点のマーケティングを実現するには、オンライン・オフライン問わず多様な情報が必要なわけですが、企業によっては、これらが各部門に分かれていることがありますよね。このデータはEC部門の範疇で、これはセキュリティの部門に話を通さないといけないなど。そこがすべて横串、一気通貫でなければ、デジタルマーケティングは成功しません」
小路氏は、長年のマーケティング支援で培った企業の上層部への人脈を活かし、diipの導入を考えているクライアントにも、まず「縦割り組織では、デジタルマーケティングは成功しない」、「組織を変える覚悟をしてください」と伝えているそうだ。顧客の嗜好を捉えるための企業側の変化は、もはや待ったなしの状況といえるのかもしれない。