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カスタマージャーニーマップ作成・活用事例(AD)

コールセンターこそCX向上の鍵を握る!損害保険ジャパン日本興亜の奮闘とカスタマージャーニーマップ活用

 ビジネスを顧客視点から見つめ直す有効な手段として活用される「カスタマージャーニーマップ」。今回は導入の成果を学びに、国内最大手の保険会社、損害保険ジャパン日本興亜株式会社のもとを訪ねた。同社カスタマーコミュニケーション企画部は、ファクトベースでのカスタマージャーニーマップ作りを通して社内意識を高めたという。導入を牽引した2名のキーパーソンに話を聞いた。

 顧客視点を反映したマーケティングを実践するためには、チームメンバーで共有できる「カスマタージャーニー」作りが重要だ。しかし、実際にその作成・施策への落とし込みを実践する段階で、足踏みをしてしまう企業も少なくないのではないだろうか?

 セールスフォース・ドットコムとMarkeZineでは過去複数回「カスタマージャーニーマップ作成キット」を使ったワークショップを実施してきた。ワークショップに参加した企業は、その後、カスタマージャーニーマップをどのように活用しているのか? これから3回に渡って参加企業の“その後”を紹介したい。

ペルソナ不在、ファクトベースのカスタマージャーニー

 損害保険ジャパン日本興亜株式会社(以下、損保ジャパン日本興亜)は、国内外に多数の拠点を構える代理店型保険会社だ。同社のカスタマーコミュニケーション企画部(以下、CC企画部)は、顧客のジャーニー(体験プロセス)を可視化し、社内共有化するためのカスタマージャーニーマップ(以下、CJM)を作成。課題の解決を進めている。

 同社のCJMが一線を画している点は、そのアプローチ方法だ。

 まずは参考に、セールスフォース・ドットコムが提唱するCJMの作成方法を紹介したい。設定したテーマとペルソナに基づき、チーム内でペルソナのジャーニーについてブレストや議論を重ねて、ワークシートにまとめていく(流れの詳細はこちらの記事が扱っている)。

セールスフォース・ドットコムからはCJM作成のプロセスが全て、一つのパッケージにまとまったツールが提供されている。
セールスフォース・ドットコムからはCJM作成のプロセスが全て、
一つのパッケージにまとまったツールが提供されている。

 つまり、ペルソナを想定して段階ごとにジャーニーを描き、最終的なゴールを描くプロセスで仮説を構築していく。一方、損保ジャパン日本興亜の場合はペルソナを用いず、実際に顧客に起きた事柄(ファクト)をベースに、顧客の行動を逆算しながらジャーニーを描いているのだ。

 なぜ、損保ジャパン日本興亜CC企画部はこのようなアプローチを試みたのか。詳しい話を同部の坂上宗久氏および河原聖也氏に聞いた。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社 カスマターコミュニケーション企画部  企画グループ 特命課長 坂上宗久氏(左)、同グループ 副長 河原聖也氏(右)
損害保険ジャパン日本興亜株式会社 カスマターコミュニケーション企画部 企画グループ
特命課長 坂上宗久氏(左)、 副長 河原聖也氏(右)

普段考えない「保険」のお困りをなくして差し上げたい

 CC企画部は、非対面チャネルであるカスタマーセンター機能を所管し、電話やWebなどを通じ、さまざまな相談を承る窓口として体制強化している。「CXの向上」を最重要視し、業務応対品質の向上と、業績貢献の両立が課題である。

  「CC企画部は社員124名および、750名を超える派遣スタッフで構成されています。特にコールセンターはお客さまの声に直接耳を傾けられる部門ですが、その声をきちんと活かせなければ、コストセンターとしか見られません。私たちの問題意識は“お客さまと直接の接点を持つ立場として、いかにマーケティングセンターになれるかなのです」(坂上氏)

 CC企画部を駆り立たせるのは、保険という商品の特性にも関係がある。

 「保険は万が一を補う商品ですから、日々の生活の中で利用するシーンなんて、できれば考えたくないですよね。ですが、ライフシーンの何らかのきっかけで保険に向き合う必要が出てきます。本来積極的に関与しない商品ですが、きちんとベネフィットを提供できているか? そこを根本から見直すためにもCJM作りを活用してみました」

 こうして、坂上氏や河原氏が主導しながら、外部の勉強会にも積極的に参加。調査・研究を深めながら、2017年から本格的なCJM作りを開始した。

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入電=お客さまの困りごとと定義せよ

 損保ジャパン日本興亜の保険契約者数は国内最大規模の約2,000万人。そのうち、入電数は年間180万件を超える。CC企画部ではこの事象を「約1割の方が問合せをしてくるということは、保険に向き合った瞬間に問い合わせをせざるを得ない状況になってしまっているからだ」と切実に捉えることをスタートラインとした。

 「お問い合わせ=お客さまの困りごとである、という認識を持つことをコールセンター全体で共有しました。今まではAという問い合わせがあれば、効率的に相当する回答を返すことだけを良しとしていました。まず、そこから改めよう。なぜお客さまはAというお問い合わせをしたのかを敏感に察知し、徹底してその真因を掘り下げよう、と」(坂上氏)

  BtoBtoC モデルの同社において、CC企画部は顧客と直に接点を持つ限られた部門だ。顧客の声の徹底分析を成し遂げて、顧客一人ひとりの困りごとの根源を探し当て改善できれば、顧客の理解が進むと同時に、同様の問い合わせも解消できるはずだ。

 「何らかのきっかけや刺激を受けて不安やストレスを感じて検討した結果、それでも解決しない方たちが仕方なく電話をくださるわけです。コールセンターの応対者は球を打ち返すだけではなく、一人ひとりが“何があったのですか?”と考えるようにならないといけない。CX向上策推進を通じてこの意識改革・行動改革を実現したいのです」(坂上氏)

分析はお客さまになりきって

  「2016年9月ころは、懸命にペルソナを設けて、マーケティングファネルを念頭に置き、火災保険の問い合わせ電話をした人が、その後代理店経由で申し込むという、コンバージョン向上策のジャーニーなどを作成しました。しかし、やればやるほど、“嘘ジャーニー”の追究になってしまった。このペルソナのお客さま、当社に絶対アクセスしてこないよと(笑)」(坂上氏)

 というのも、分析する対象はマーケティングプロセスではない。しかも既に実際の問い合わせが存在する。ファクトを前に、「こうしたお客さまがいるだろう」と想像したペルソナの設定自体が、無理があると気づいたのだ。

 「保険という商品の特性を考慮すると、お客さま一人ひとりの保険契約は千差万別で、典型的な例が立てづらい。ペルソナの設定が保険という商品だと相性が良くないとわかったんです」(河原氏)

 そこで、CJM作りから何かを洗い出すのではなくて、実際のコールセンターへの問い合わせに基づいて、入電時の顧客の感情を想像しながら、問い合わせに至るまでのジャーニー、つまりファクトベース・逆算のCJM作りに行き着いた。

 そこで、重視したのが全国のコールセンターに集まった声の分析だ。コールセンターのAD(アドバイザー)やSV(スーパーバイザー)を中心に、顧客とのデプスインタビューを行い、日々の応対のスクリプトも徹底的に分析された。

 2017年2月には、秋田コールセンター室をモデルケースと定め、重点的にCX推進策(CJM作り)に注力した。

 「コールセンターの現場では日々お客さまに接することで、ちょっとした違和感や“この問い合わせが多い”といった暗黙知を蓄積しています。それらを、お客さまになりきって分析を進めることで徐々にお客さまの感情、当社が改善すべきスポット(ペインポイント)がつかめてきました。そして、それぞれの困りごと別にお客さまの行動や感情をCJMに落とし込んでいったのです」(坂上氏)

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「お客さま」を主語にした改善提案が可能に

 ここまでを総括すると、CC企画部が、数々の試行錯誤を通じて、顧客になりきり、顧客感情の可視化をファクトベースで徹底検証し、分析結果の裏づけとしてCJMに表現したといえる。

 CJMは実在する顧客の困りごとそのものであり、可視化こそ「お客さまのことを一番よく知る部門になる」ための第一歩であるわけだ。

 こうした取り組みが、全国のコールセンターに波及。7月には全国のコールセンター内のCX担当者が一堂に会する会議を開催し、ファクトベースのCJM作りなど、ブレのないCX向上策推進を行った。

 「今秋時点で20件以上のCJM(=困りごとと、それにまつわる仮説)が完成しました。全国のコールセンターメンバーが力を結集してくれた結果です。各コールセンターにおける提言書作成はとても大変だったと思いますが、お客さまの真因を把握して、「お客さまのお困りごと(ペインポイント)」を明確に可視化することができたと思います。さらに“お客さまが●●●だから、XXXすることで課題解決でき、年間△△△円のコストを削減できる”などと、お客さまを主語として経済効果も示せる改善提案が可能になりました」(坂上氏)

 改善とは名ばかりで関連部署に面倒事を押し付けるような提案ではどの部署も動いてくれない。CC企画部に集まってくる顧客の困りごとをファクトベースのCJMによって可視化し、それに基づいた改善提案は提案された部署にとっても受け入れやすい。

お客さまのことを最も知っている部門として

 次の目標は、浮かび上がった課題をCC企画部が一丸となって改善提案先となる他部署に連携し、早期に解決の方向性を導出することだという。ここでポイントとなるのは、提案を受けた関連部に共感してもらうことが大前提であることだ。提案と改善を通して「自分たちが一番お客さまのことを知っている部門」として社内に認識してもらうことで、CC企画部がプロフィットセンターでありマーケティングセンターであることの体現となる。

 「単なる定量データの集計だけではダメなんです。定性データの定量化が必要です。その実践があってこそが、CXのための改善提案が出せるのであり、いつでも“一番お客さまのことを知っています”と言い切れる部門へと脱皮できるのです」(坂上氏)

今回の取り組みから得た知見
今回の取り組みから得た知見

 最後に両氏の立場からも、今後の課題や展望を語ってもらった。

 「まず私が直接担当している各種WebページやWeb完結型の海外旅行保険等から課題解消に向けた動きに着手しているところです。今後もCXの改善が経営に反映されることを示しながら、お客さまも担当部署も経営層も三方良しとなる関係性を作れるようにしたいです」(河原氏)

  「お客さまになりきった先に見えてくるCXの追究が、ブランディングにもつながります。今後もこのようなCX向上策の取り組みを継続していきたいと考えています」(坂上氏)

 カスタマージャーニー研究プロジェクトメモ

 カスタマージャーニーマップは、フレームワークを使って最適な顧客コミュニケーションとは何か? という仮説を構築していくプロセスです。今回の損保ジャパン日本興亜さんの例は、架空の顧客ペルソナをスタートにすることではなく、事実ベースで顧客の課題を落とし込んだアプローチ。お客さまになりきって描いたCJM=仮説は、現実の課題を解決する強力な武器になると言えるでしょう。
 損保ジャパン日本興亜さんのCJM活用方法は、示唆に富んだ好例として非常に参考になるのではないでしょうか。

カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
MarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。
カスタマージャーニーマップ作成の事例はこちら
カスタマージャーニーマップを作成した上で、活用している事例はこちらでご覧いただけます。

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この記事の著者

加藤 希尊(カトウ ミコト)

チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO
広告代理店と広告主、BtoCとBtoB両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。WPPグループに12年勤務し、化粧品やITなど、14業種において100以上のマーケティング施策を展開。2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画し、日本におけるマーケティングオートメ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

遠藤 義浩(エンドウ ヨシヒロ)

 フリーランスの編集者/ライター。奈良県生まれ、東京都在住。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経てフリーに。Web、デジタルマーケティング分野の媒体での編集/執筆、オウンドメディアのコンテンツ制作などに携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/11/24 11:00 https://markezine.jp/article/detail/27305