絵本「えんとつ町のプペル」の売上が32万部を超えたワケ
本記事では、西野亮廣氏の書籍『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』を紹介します。
同書で主に語られているのは、西野氏が2016年の10月に刊行した絵本「えんとつ町のプペル」のプロデュースに関すること。絵本の作成段階から、広告、販売におけるまで、ことごとく出版業界の常識を覆し、売上は国内で32万部を突破させた、西野氏の戦略が惜しげもなく共有されています。
「えんとつ町のプペル」は、総勢33名のクリエイターによる共作で、販売前には全ページの無料公開が行われました。この無料公開は吉本興業の社長にも、出版元の幻冬舎 社長にも断らず、西野氏らがクーデター的に踏み切ったもの。作品の無料公開や著作権フリーなどは、売上を重ねるためのカラクリで、その周到さと実行力、論理性は壮快感すら覚えました。
その中でも興味深かった点は、オンラインとオフラインを活用した体験型マーケティングがうまく組み込まれていることです。たとえば、「体験×おみやげ」で絵本の拡販にアプローチした施策。ついつい財布の紐が緩んでしまうおみやげは、生活必需品と同じカテゴリーに含まれると主張する西野氏は、絵本を“おみやげ”として販売しています。
西野氏が絵本の個展を積極的に開催しているのもこのためで、個展の出口で絵本を販売したところ、飛ぶように売れたそうです。本の賞味期限は4ヵ月というのが出版業界の常ですが、個展のおみやげとして売っていく限り、この絵本は賞味期限から解放されます。絵本の刊行日を個展の開催時期に合わせるほど、西野氏はこの「体験×おみやげ」に重きを置いているのです。
またクラウドファンディングで1億円を調達したのも、ただ資金を集めるだけでなく、絵本制作の支援者を募るため。支援というかたちで制作に関わることで、絵本の刊行が自分ごととなることを狙っています。作り手はそのまま消費者になるという仮説をもとに仕掛けられたカラクリです。単なる「モノ消費からコト消費」ではなく「モノ消費からコト&モノ消費」というわけです。
ほとんどの娯楽がスマートフォンで事足りる時代。スマートフォンでカバーできない娯楽は「体験」しか残らないという西野氏の考えが、そのまま広告プロモーションに反映されていました。
西野氏の目標は“ウォルト・ディズニー”を倒すこと
もうひとつ、同書を読んで印象に残ったのは、現代だからこそ可能なマネタイズの方法です。クラウドファンディングを活用して色々な企画を実現してきた西野氏は、クラウドファンディングに必要なものは「信用」だと言います。
有名人だから、芸人さんだから成功したのだろう、と同書を読む前は考えていたのですが、それが間違いであることは読み始めてすぐにわかりました。クラウドファンディングをするつもりのない人でも、「信用」を第一に置く西野氏の考え方は、自己啓発的な意味合いではなくビジネスとして論理的な必需性を感じました。
そして西野氏が当面の目標として掲げているのが、ウォルト・ディズニーを倒すこと。「えんとつ町のプペル」は映画化も決定しており、その公開日をディズニー映画と同日にし、観客動員数と興行収入で勝負しようを計画しているのだそうです。同書では随所に暴露的な話が出てきて、さすが芸人さんだと笑ってしまう箇所もありました。おもしろく一気に読めるおすすめの書籍です。