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第106号(2024年10月号)
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カスタマージャーニーマップ作成・活用事例(AD)

カスタマージャーニー×NPSで“点”の改善から“継続的な関係性の構築”へ、らでぃっしゅぼーやの挑戦

 有機・低農薬野菜や無添加食品の会員制宅配事業を営む「らでぃっしゅぼーや」は、2017年3月にセールスフォース・ドットコムのワークショップに参加した。以降「カスタマージャーニーマップ」作りを通じて、デジタルとアナログ両面のマーケティングアプローチの最適化を図っている。取り組みの詳細を同社品質本部CS推進部に取材した。

 顧客視点を反映したマーケティングを実践するためには、チームメンバーで共有できる「カスマタージャーニー」作りが重要だ。しかし、実際にその作成・施策への落とし込みを実践する段階で、足踏みをしてしまう企業も少なくないのではないだろうか?

 セールスフォース・ドットコムとMarkeZineでは過去複数回「カスタマージャーニーマップ作成キット」を使ったワークショップを実施してきた。ワークショップに参加した企業は、その後、カスタマージャーニーマップをどのように活用しているのか? 参加企業の“その後”を紹介したい。

お客様の声に対する対策の優先順位、その根拠を明示したい

 らでぃっしゅぼーやは、有機・低農薬野菜などの会員制宅配事業を約30年続ける国内大手のリーディングカンパニーだ。

 同社CS推進部は、マーケティングの最適化や改善のために、顧客満足を図る指標の一つ「NPS(ネットプロモータースコア)」を2017年より導入することに決め準備を進めてきた。

 さらにNPSを効果的に活用するために、カスタマージャーニーマップ(以下、CJM)の構築を検討し、2017年3月にCS推進部から2名がCJMのワークショップに参加。その後、持ち帰った社内でも複数回に渡ってCJMのブラッシュアップを続け、社内全体で各部横断的にCJMの浸透を徹底したい狙いも持つ。

 そもそもCS推進部は、社内の「カスタマーサティスファクションマインド」の醸成と向上を図る部門。だからこそ、きちんとした根拠を示して顧客のニーズを社内の各部門に伝えたい。その他、会員の新規獲得向上とともに既存顧客のロイヤル化や離脱防止にも本腰を入れたい意図もある。

 「元々、社員や業務委託先からの提案を“気づきの声”として集約したり、お客様からのご意見やご要望について、毎週メールで全社的に配信したりしています。毎月1回開催しているCS委員会では社長や役員も参加して、お客様からのクレームやネガティブな生の声を実際に聞きます。お客様の声には敏感な会社なのです。

 さらに毎年一度、お客様に顧客満足度調査を実施しています。紙を用いており、実施から集計までに時間がかかっていました。顧客ニーズの可視化を短期的に集約して効果的に活かせて、利益にもつなげる具体策として、NPSやCJMを導入したわけです」(竹内氏)

らでぃっしゅぼーや株式会社 品質本部 CS推進部長 竹内 秀太郎氏
らでぃっしゅぼーや株式会社 品質本部 CS推進部長 竹内 秀太郎氏

 「たとえば、お客様からいただくご意見の内容一つとっても、声が少ないか多いかや、自分たちの主観で重要性を判断していたため、根拠としての弱さを痛感していました。もっと納得できる判断や根拠が示せれば、社内の各部門も提案を受け入れやくなると考えています」(北氏)

リスク要因も反映したカスタマージャーニー

 今回、取材にあたってワークショップで作ったCJMを見せてもらった。

 ペルソナは会員のボリューム層を意識して、住んでいる地域や年齢といった大枠を設定。さらに、料理好きだが外食も好き、園芸が趣味など中身も細かく想定されていた。

 ジャーニーは同社サービスへの「入会」に焦点を当て、「定期購入」をゴールに定めてCJMの作り込みを竹内氏、北氏の2名で進めた。

らでぃっしゅぼーやのCJM(イメージ)
らでぃっしゅぼーやのCJM(イメージ)

 「弊社のサービスはお客様が欲しいな、と思った時に都度ご購入いただくことも可能ですが、理想は定期購入をしていただき継続的な関係性を築くことです。らでぃっしゅぼーやの入口である “お試しセット”を経て、定期購入への申し込みをゴールに据えました。

 もちろん、お試しセットよりも前の段階で、有機野菜に興味を持たれるタイミングや、競合サービスとの比較なども想定しています。テレビや雑誌の“おいしい野菜特集”を見たり、職場の同僚や友だちと食材や夕食の話題で盛り上がったりするなど、具体的なシチュエーションを思い描くようにしました」(北氏)

 全体を通じて特徴的だったのは、リスク管理もきちんとCJMに反映した点だ。

 「たとえば、お試しセットを申し込まれたお客様が指定した時間帯に受け取れず、再配達で受け取り直した場合です。生鮮品だからこそ、受け取りまでに発生するラグはストレスを感じさせるでしょう。こうしたネガティブな感情もマップに書き込むようにしました」(竹内氏)

 「期待を膨らませて箱を開けたら、一部野菜が傷んでいてコールセンターに連絡が入る、といった接点も考えられます。こうしたCJM作りを通して、お客様の想像(期待)とギャップが生じる場面が、定期購入への障壁であることを浮き彫りにできました」(北氏)

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お客様との直接接点“配送クルー”の重要性

 竹内氏と北氏は次に、ワークショップに参加できなかったCS推進部内のメンバーを加えて、改めてCJMのブラッシュアップに取り掛かった。新たに加わったのは配送の現場を経験してきた人物。そのため、顧客と直接対面する場面での強化された視点を加えることができた。

 らでぃっしゅぼーや株式会社 品質本部 CS推進部 CS推進課長 北 週作氏
らでぃっしゅぼーや株式会社 品質本部 CS推進部 CS推進課長 北 週作氏

 「当社の配送は宅配便の他に、都市部を中心に“らでぃっしゅぼーや専用車エリア”という、配送スタッフ(らでぃっしゅクルー)がお客様に商品を渡す仕組みも用意しています。実際にお会いできる“実面率”は約4割で、毎週来てくれるお兄さんのような存在を目指しています。この接点の重要性は、一度目のCJMでは反映しきれていませんでした」(北氏)

 実は、NPSの調査以前から、らでぃっしゅクルーの経験や待遇のレベルといった個人差にスポットを当てた改善を進めている。

 「“宅配クライシス”といわれている昨今、クルーとお客様との接点が重要かつ強みだからこそ、経験年数が浅くても一定以上の接遇ができる環境作りのため、“クールマイスター制度”と称して配送品質を上げようとしているのですが、社内的に多少不安な面がありました」(竹内氏)

NPSにジャーニーマップの要素を加える

 ペルソナに沿ってCJMを作り、そこに顧客満足度や実際の声を照らし合わせることで、CS推進部がクリアにしたいことは何か? 竹内氏は次のように語る。

 「私たちは、ご提供している野菜や果物はどこにも負けない良いものだと、強い自負を持っています。一方で、スーパーマーケットも宅配事業に参入し競争は激化しています。そのなかで勝ち続けるためには、常に今を改める必要があります。なぜそこを改善するのか、なぜそこから始めるのか各部署が納得できる根拠が必要です」(竹内氏)

 同社では2017年10月に3万人を対象にしたNPS調査を実施した。調査では各項目について好意度および、その理由を尋ねていく。この質問項目にCJMによって洗い出せた要素を反映することで、顧客が何を重要視しているのかを把握した。

 「NPSの結果では、らでぃっしゅぼーやの魅力第一位は商品そのもの、次に配送クルーの対応と続きました。この結果から、商品そのものは当たり前なのですが、次に配送クルーの対応と来ていたのでデータとしてクルーが弊社の強みだと証明できたわけです。配送クルーは単なる運び屋ではなく販促の側面もありますし、何より対面によるお客様とのコミュニケーションの要でもあります。CJMで立てた仮説の正しさをNPSで証明できたことは、大きな一歩です」(竹内氏)

 配送クルーの対応の例として、竹内氏はあるエピソードを紹介してくれた。

 「“お客様のうれしい声”というのを毎週集計しているのですが、長野県の郷土野菜“松本一本ねぎ”へのうれしい声が杉並区に集中していました。これは何かの間違いじゃないかと調べたら、実は長野県出身の配送クルーが自分の担当エリアのお客様のお届け伝票に手書きでおすすめとして記入していたことがわかりました。私がこれ、すごいんじゃないかと言ったら、社内では当たり前の雰囲気もあったんです」(竹内氏)

 配送クルーからのメッセージ「私の郷土 長野産松本一本ネギがあります。お鍋に最適です。ネギが主役はれますw」とある。
配送クルーからのメッセージ、
「私の郷土 長野産松本一本ネギがあります。お鍋に最適です。ネギが主役はれますw」とある。

 今後は配送クルーだけを切り出して、改めてNPSができないかなど、深く詳細に見ていく試みも検討中だという。

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ジャーニーマップが4分類のペルソナをあぶり出す

 NPSやCJMの導入で得た知見で、新たな(デジタル)施策を模索しており、社内横断的に対応できることに挑みたい考えだ。

 「弊社のデジタル施策は“まだまだ”の状態ですが、昨年夏からようやくマーケティングオートメーション(MA)を本格的に取り入れたり、オンラインアンケートツールを使って顧客への調査を行ったりして、お客様を知るためのアプローチ頻度や精度を高める工夫を行っています」(竹内氏)

 さらに「らでぃっしゅぼーやの考え方」をユーザーに伝えることの必要性を社内に浸透させたいと竹内氏は語る。

 「作っているもの、お届けしているものへの自信があるからこそ、その自信も伝えることが大事だと思います。たとえば、当社では契約農家から直接仕入れた野菜をお届けする “ぱれっと”というセットを用意しています。野菜や果物の数量は指定できますが、収穫状況を優先するため、品目の指定まではできません。商品を選べない理由をきちんと伝えない限り、サービスの狙いはご理解いただけません。例えば連作障害といって、同じ野菜を作り続けると土地がいたんでしまうんです。対策としては、化学肥料を使用する・その野菜を作るのをしばらく休むなどがあります。後者の自然な対策法をとれば品目にもバラツキが生じるため、選べないわけです。こういった考えもお客様に最適な形でお届けしたいと考えています」(竹内氏)

 そこで全社的にCJMを作成する方向性へと舵が切られつつある。顕著な動きが、経営企画部が世代や家族構成、趣向などを加味して、ペルソナを構築したことだ。

 「世代が違えば、接点も変わりますし、家族構成も変わります。高校生がいるご家庭と幼稚園生や小学生を抱えるご家庭だと、同じ商品でも使い方が違ってきます。CJMの描き分けを通じて、世代別の仮説を見出し、具体的な商品開発や営業へと展開したいです」(北氏)

 <カスタマージャーニー研究プロジェクトメモ・その1>

 踏み込んだ次の一手を考える際には、世代別や条件別でCJMを描き分けることがおすすめだ。それぞれでフックとなる箇所が異なるので、CJMをよりスムーズで素直に作れるようになるはず。当然、施策へのフィードバックにも妥当性や正確性が高まってくる。

現状維持や不要な要素を指摘する自由

 最後に、今後CJMからどのようなデジタル施策につなげるかを尋ねたところ、意欲的な声が返ってきた。

 「MAを活用してデジタル施策を推進させたいですね。最終的には売上や利益増に結びつけるための取り組みでもあるので、各部門から最終的なアウトプットをイメージした提案が出てくるのが理想ですね。そのためにも、CS推進部が何も言わなくてもCJMやその考え方が全社に定着するよう進めていきたいと思います。

 加えて、新規獲得を考えて入会を重視しがちなので、その点も最適化できる方向へ持っていきたいと思います。ロイヤルカスタマーの離脱や退会の防止といった既存顧客対策ですね。たとえば、退会の予兆があるお客様には、らでぃっしゅクルーらが情報を共有して、配送時間や実面率を改善したり、声がけで工夫したり。こちらは他社がなかなかできないホスピタリティあふれる、アナログのアプローチも織り交ぜた改善策を実践したいです」(竹内氏)

 北氏はCJMで立てた仮説の正しさを確かめるために、デジタルを活用したい考えだ。

 「お客様への調査などで自動化が進めば、改善部分以外に現状維持でいい分野や、不要なアプローチもあぶり出せると思います。納得できる根拠とともに各部門に提案をすることで、“やるべきこと”により注力しやすい環境作りをCS推進部が牽引していきたいですね」(北氏)

 NPSとCJMとの連携から構築される仮説と対策、さらにその先にあるデジタルによる自動化は、ビジネス最適化の王道と重なる。同社が描く、今後に向けた意欲的なマーケティングへの姿勢や実行力は、「これから」を模索する多くの企業にとっても示唆に富んだものではないだろうか。

 <カスタマージャーニー研究プロジェクトメモ・その2>

 CJMを全社的に浸透させるためには、全社で共有できるデータ化をすすめたい。その際にペルソナごとにジャーニーマップを描き、顧客の声などで答え合わせをしたうえで、各ジャーニーに具体的な数字も落とし込むことで説得力をもったデータになる。

カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
MarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。
カスタマージャーニーマップ作成の事例はこちら
カスタマージャーニーマップを作成した上で、活用している事例はこちらでご覧いただけます。

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この記事の著者

加藤 希尊(カトウ ミコト)

チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO
広告代理店と広告主、BtoCとBtoB両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。WPPグループに12年勤務し、化粧品やITなど、14業種において100以上のマーケティング施策を展開。2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画し、日本におけるマーケティングオートメ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

遠藤 義浩(エンドウ ヨシヒロ)

 フリーランスの編集者/ライター。奈良県生まれ、東京都在住。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経てフリーに。Web、デジタルマーケティング分野の媒体での編集/執筆、オウンドメディアのコンテンツ制作などに携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高山 透(コウヤマ トオル)

フリーカメラマン。雑誌の撮影などを主にしています。

最近では、webの撮影も多くなってきました。日々の生活は、朝タブレット端末をながめながらコーヒーを飲み、のんびり1日が始まります。 休みの日は、新宿御苑に行ったり、子供と遊んで過ごしています。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/12/26 11:00 https://markezine.jp/article/detail/27429