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いいリサーチってどんなリサーチ? 業界最大手インテージの石渡さんに訊いてみた

 今や顧客や生活者の行動・気持ちを知るために欠かせなくなったリサーチ。マーケティングにおいて重要な手段の一つですが、目的のないリサーチをしたり擬似相関に引っかかったりすれば本末転倒。リサーチのいろはを学べる入門書『デジタル時代の基礎知識 『リサーチ』』(翔泳社)の著者、インテージの石渡佑矢さんに、リサーチの重要性や要点についてうかがいました。

リサーチの全体像を把握しておきたい方に

――石渡さんは現在インテージで広報統括マネージャーを務められていますが、これまではリサーチを中心としたマーケティングに携わっていたとお聞きしました。初めに、自己紹介をお願いできますか?

石渡:インテージは3社目で、大学を卒業してすぐは輸入車の販売店で営業をしていました。ショールームに来店されるお客様と接する中で、ものが売れていく過程や「なぜこの人はこれを選ぶのか」という心理に興味を持つようになったんです。その後、マーケティングリサーチの世界を知り、調査会社に転職しました。

 従業員数の少ない調査会社でしたので、関わる仕事の幅はとても広く、様々なリサーチ手法のあらゆる工程に携わることができました。規模の大きな会社は分業であることが多く、仕事の上流から下流まで一貫して関わることは難しいという側面があります。20代の頃にリサーチ全般の基本的なノウハウやデータの扱い方、様々な業界のマーケティング課題に触れることができたことは、とてもよい経験をさせていただいたと感じています。

 インテージに移ってからは、前職と同じくお客様企業のマーケティング支援に携わり、その後は自社のマーケティングや広報の仕事をするようになりました。インテージは1960年に日本で初めての本格的なマーケティングリサーチ会社として設立され、おかげさまで国内トップのシェアを有しています。

 お客様企業のマーケティングを支援できる領域は年々広がってきているのですが、BtoB企業であるがゆえに一般的な認知度が低く、まだまだお伝えできていないことが多いという反省があります。私たちが支援できることをしっかりお伝えし、様々な業界の企業がリサーチやデータに基づくマーケティングを実現いただくことで、生活者の暮らしが豊かになればと思っています。

――ということは、これまでの経験が本書『デジタル時代の基礎知識 『リサーチ』』に詰め込まれているということですね。

石渡:そうですね。前職も合わせて、お客様企業のマーケティング支援を7年ほど行ってきました。また一方で、自社のマーケティングや広報の業務も経験しています。それにより、リサーチを必要としている方々がどういうところで悩んでいるのか、身をもって知ることができるようになってきました。本書では両方の経験をもとに、リサーチについて解説しています。

――本書はどういった方に向けた内容なのでしょうか。

石渡:本書は入門書なので、マーケティングやリサーチの部門に配属されたばかりの方が主な対象ですが、実際にはかなり幅広い読者を想定しています。というのも、顧客やターゲットとなる生活者のことを知らなくていい部門はもはや存在しないからです。

 自分はリサーチとは関係ない、と思っているような方でも、実はリサーチの手法や考え方を身につけることで、自分の仕事に新しい価値をつけ加えることができるようになります。自分が担当している商品やサイト、施策をもっとよくしたい、あるいは顧客になってもらいたい生活者にきちんと情報や商品を届けたいと考えている方には、リサーチが役に立ちますね。

 本書では統計の詳細な手法や理論は紹介しておらず、リサーチの概要と主な手法、リサーチ結果を活用する方法について一連の流れで解説しています。ですので、「リサーチとはどういうもので、何に役立つのか」という全体像をまず把握しておきたい方にはちょうどいいレベルになっています。

石渡佑矢さん

石渡佑矢さん:インテージ 広報統括マネージャー

PDCA全体においてリサーチの重要性が増している

――では、改めてリサーチについてうかがいます。そもそもリサーチとはどういうもので、どんな役割があるのでしょうか。

石渡:リサーチはあくまで「知るための手段」ですが、その領域はどんどん拡大しています。パネル調査やインターネット調査、グループインタビューなど、サンプリング調査といわれるリサーチが主流ですが、2010年くらいからビッグデータが注目されるようになってきました。

 ビッグデータ自体はマーケティングやリサーチのために集めた情報ではないんですが、そのようなデータを活用することでビジネスの発展に役立てられるのではないか、と様々な業界で試行錯誤が続いています。たとえば、行動を追跡できるログはネットがなかった時代には存在しなかったデータです。自動的に集まるデータをどのように活用していくかという視点は、従来のリサーチとの大きな違いです。

 本書ではマーケティングを「買ってもらう仕組み作り」と説明していますが、それに役立つ情報提供や意思決定を助けることがリサーチの重要な役割です。

――従来のリサーチは、どちらかというと特定の商品について反響や反応を知るための手段だった印象があります。

石渡:たしかに、効果測定におけるリサーチの役割は大きいです。取り組みが成功したのか失敗したのか、その成功・失敗の理由はどこにあったのかを知ることで次につながります。

 ですが、リサーチが役立つ場面は効果測定に留まりません。生活者の価値観や嗜好の多様化が進む中、リサーチはプランニングにも欠かせなくなりました。どのような生活者にどういった情報を届ければいいのか、あるいは顧客にどのような商品が求められているのか、生活者がどのような価値観を持っていてどういう行動を取っているのか。そうした情報を知るには、もはやリサーチが不可欠です。

 マーケティングのスピードが早まるにつれて、リサーチとアクションの境も曖昧になってきました。たとえば、位置情報のデータを活用して生活者の行動圏を知り、プロモーション施策を実行するような場合や、Webサイトのアクセスログをもとに一人ひとりに合ったオンライン広告やお勧め商品を表示する場合です。

 正確な情報をもとに、いかに素早くPDCAを回し続けられるかが競争優位の源泉になりつつあり、PDCAすべてのフェーズにおいてリサーチの重要性が増していると言えます。

 インテージは単なるリサーチ会社ではなく、「マーケティングPDCAに伴走できる企業」という方向に転換しつつあります。リサーチが果たす役割の拡大に伴って、これまでリサーチ会社と呼ばれてきた企業を中心に意識の変化が進んでいるように感じます。

いいリサーチは意思決定やアクションにつながる

――実際にリサーチを行うときに大事なことは何でしょうか。

石渡リサーチが何につながるのかを明確にしておくことですね。リサーチはインプットなので、だからこそアウトプットをどうするかが不明瞭だと、結果を活用することはできません。リサーチ自体が目的になってしまうと本末転倒です。

――いいリサーチとダメなリサーチの違いは何ですか?

石渡:マーケティングに役立つかどうかです。よりよい意思決定をする、アクションに結びつく、そういった次につながるリサーチがいいリサーチですね。

――バイアスに誘導されたり、擬似相関に引っかかったりすると、いいリサーチだと思って意思決定しても、実は……という可能性もありますよね。それはどう避ければいいのでしょうか。

石渡:注意点は話し尽くせないほどありますが、たとえばビッグデータを分析するとき、その分析結果は必ずしも市場全体を表しているとは限りません。

 当たり前の話ですが、ソーシャルメディアデータにSNS非利用者の情報は含まれておらず、ECの購買データにリアル店舗での購買データは含まれていません。ビッグデータは実は分断されたデータなのだと認識しておく必要があります。だからこそ、様々なデータとデータをつなぎ合わせ、全体像を把握できるようにすることが重要なのです。

 インテージでは、全体の縮図になるように設計されたサンプリングデータを用いて、ビッグデータを価値あるデータに転換する「データアクティベーション」という取り組みを進めています。ビッグデータという言葉の響きから、何でもわかる、というイメージを持たれる方が多いですが、現実は異なります。データからわかることとわからないことを意識する必要があるでしょう。

――マーケティングに関しては、成果が出るならリサーチ結果が相関関係か因果関係かはあまり重要ではないと言われることもあります。

石渡:検証できるかどうか、再現性があるかどうかが大事だと思います。単発の施策でいい成果が出ても、PDCAを回せないと当たるか当たらないかの博打を続けるしかありません。きちんとリサーチをして、うまくいった理由やダメだった原因を探り、成果を上げる方法の再現性を高めなければなりません。

 相関関係があるからといって、因果関係があるとは限りません。擬似相関にも注意が必要です。「犯罪者の98%はパンを食べている。パンは危険な食べ物なので、摂取を禁止しましょう」といったような小話がありますよね。このような結果を真に受けるとおかしな方向に進んでしまいます。

――こうやって聞くと笑い話として受け止められますが、実際に業務を行っている中でそうしたリサーチ結果が出たとしても、おかしいことに気づけるかどうかは不安がありそうです。

石渡:たしかに気づきにくい場面もあると思います。リサーチを進めていくとどうしても自社目線が強くなってきますし、リサーチ結果を客観的な目で見られなくなるリスクがあります。ですので、時には外部の目を積極的に取り入れて、客観的に検証したほうがいいですね。

 また、リサーチを行うときには、常に生活者の視点や立場を強く意識することが求められます。自分自身も生活者の一人ですので、日常的に自分の行動や意識を振り返ることをお勧めします。また、同業他社の意見を聞いたり、あるいは別の業界の事例を聞いたり、関連するセミナーを受講したりすることで、生活者やリサーチに対する視野を広げられます。

石渡佑矢さん

最初に何を知りたいのかを明確にしておく

――データはあるけれど活用できていない企業もあると思います。リサーチをして集まったデータを社内で活用するためにはどうすればいいのでしょうか。

石渡:どの企業でも、社内でデータが共有されていないことがしばしばあります。各部門が同じデータを用いて意思決定できるようになるとPDCAのスピードが増すだけでなく、横の連携も可能になりマーケティングの精度も高まります。だとすれば、各部門がそれぞれのデータを使うのではなく、全社的に同じデータを用いて共通指標とすることが大事ですね。

――自社ではリサーチを行わず、市販されている調査レポートを利用する場合もあると思います。しかし、往々にして購入したはいいもののどう利用すればいいのかわからず、ただ読んで終わりになりがちです。調査レポートを活用するにはどうしたらいいですか?

石渡:市販の調査レポートは業界全体の動向やマーケットシェアなど、俯瞰的に知るために役立つものが多いです。ただ、自社の課題をピンポイントで解決するためのデータが載っているような調査レポートはなかなかないので、その場合は個別にリサーチするしかありません。

 調査レポートを読む場合は、最初に自分たちが何を知りたいのかを明確にしておくべきです。それは読書にしても同じで、何を知りたいかがわかっていると読むべきポイントを把握しやすいですし、そこにかける時間や費用も納得しやすいですよね。知識としてしっかり身につく可能性も高まります。

 とりあえず必要そうだからという理由で購入すると、内容は理解したけれど、どう使えばいいのかわからない、という状態になってしまうと思います。

閃きを得るには人の行動を観察する

――これからリサーチに取り組もうという方は、まず何から行えばいいですか?

石渡データを見るだけでなく、実際に観察してみることが大事ですね。生活者が何を買っているのか、どんなパッケージの商品が並んでいるのか、店内のレイアウトはどうなっているのか、広告で何が訴求されているのか、SNSで何が話題になっているのか。今まで意識していなかった部分に目を向けて、考える時間を作ってみてください。

 実際に自分で動いて見聞きすることは、データを実感するためにとても有効です。数字を見ているだけでいいアイデアが浮かぶことは少ないんです。データを解釈して閃きを得るには、人の行動を観察したり誰かの話を聞いたり、現場を体感することが大切だと思います。

 また、最初からリサーチを行わないといけないと思い込むのではなく、まずは問題の構造や課題を整理することが大事ですね。自分が求めている情報がわかって初めて、どんなリサーチを行えばいいのかと手段を検討する段階に至ります

 本書はそうした考え方のフレームワークを提供する入門書なので、勘や経験論から抜け出したい方に、きちんとしたリサーチを始めるきっかけとして読んでもらえると嬉しいです。やはり生活者のことを知るのは楽しいですし、知ることでアクションにつなげることができ、成功すれば企業も生活者もベネフィットを受けられます。企業も生活者も幸せになるための手段の一つがリサーチだと言えますね。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/12/25 07:00 https://markezine.jp/article/detail/27487

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