AIチャットボットをごみ分別のデータベース検索に
――最初にそれぞれのお仕事内容について教えてください。
江口:我々が所属する3R推進課は、ごみの3R(Reduce、Reuse、Recycle)を進めていく組織です。広報や啓発の視点から、ごみを減らし、物を大事にし、繰り返し使ってもらうことを、様々な場面で市民の皆様に呼びかけていくことを仕事としています。
小林:私が所属しているイノベーション統括部は、研究開発の部署の一つです。しかし、技術の研究開発というよりも顧客視点での技術を活用した新規ビジネスの創出を行う組織であり、横浜市が採用したプログラミングなしでチャットボットを作成できるサービス「Repl-AI」も開発しています。
横浜市と接点ができたのは、イノベーション統括部の中の企業連携担当を通じてでした。イノベーション統括部が持つ技術の紹介を兼ねて、横浜市に対していくつかの提案をしたところ、チャットボットの技術が使えそうとなったのです。
――横浜市がチャットボットを選んだのはなぜですか。
江口:横浜市には、民間事業者との連携を仲介する「共創フロント」という窓口があります。NTTドコモとの接点は、2016年8月にその窓口を通してAI活用に関する提案を頂いたのが最初になります。
Repl-AIと何を組み合わせればいいかを考えた結果、ごみ分別辞書「MIctionary(ミクショナリー)」に登録されている20,000語超のデータベースと連携させればうまく使えるかもしれないとなり、活用に向けた取り組みに着手しました。
宗像:MIctionaryは、横浜市の資源循環局が採用しているごみの分別方法を検索できるシステムです。一般的な検索システムなので、登録している用語にヒットしないと機械的な回答しか返せません。言葉の揺らぎに弱く、間に「・」があるだけで、検索0件になってしまうこともありました。
今までのMIctionaryの弱い点
- 表記ゆれの吸収が苦手
- 検索結果に不要な情報まで表示される
- 検索疲れを起こしやすい(検索ボックスに入力 → 目的の情報を検索結果からスクロールして探す → ページ遷移してコンテンツを読む)
江口:たとえば「ラック」と入力すると46件の結果が出ますが、この中には「ブラック」「スラックス」「リラックス」のように、一部の文字列が一致する結果も含まれていました。ユーザーにとっては、探している「棚」の分別方法を46件の中から探さないといけないのは不便です。柔軟な用語での検索に対応する仕組みを模索していたので、ドコモさんからの提案は渡りに船でした。
「やれるものはやろう」の組織風土が背中を押した
――ユーザーから見て違和感のある回答に対し、チャットボットが有効と考えたのでしょうか。
江口:その通りです。いかに簡単に、わかりやすくごみの分別に協力して頂ける形を作れるかと考えたことが大きいです。横浜市は毎年約14万人の転入者がいます。
市には大学が28もあり、若い世代の転入者が多いという特徴があります。ごみの分別のルールは、自治体によって違うので、転入者には分別ルールを理解して頂かないといけませんが、若い人たちはごみの分別を家の中で意識していないことも多いのです。
また、横浜市では、ごみ集積場所できちんと分別されていないごみは、啓発のためにシールを貼って残していくようにしています。結果、家の前や歩道にごみが残ることになり、地域としてはごみの取り残しに対して、皆が分別するよう、わかりやすく、しっかり広報などをしてほしいといった意見を頂いていたので、地域の「お困りごと」の解決に役立つのではないかとも思いました。
小林:チャットボットの活用例で多いのはゲームやFAQで、検索の代替としての活用は珍しいと思います。また、私自身が少し前は横浜市に住んでいて、取り残しで注意をされたことがあり、「自分ごと」として横浜市の悩みを実感できたこともありました。自治体がチャットボットを活用することも珍しいと思います。
江口:チャットボットには可能性を感じました。市民サービスの向上につながるため、取り組みへの行動は早かったのです。
「旦那」の捨て方にまで回答を用意
――チャットボット導入の成果について、利用者の声や改善の数字などを交えて教えてください。
江口:使っている人からは「使いやすい」「おもしろい」と言われますね。市民がよく知るマスコットキャラクターの「イーオ」が、LINEのようにカジュアルな会話の形式で答えるユーザーインターフェースを採用しています。昨年の夏、おもしろいと話題になったのは、「旦那」と入力した時の回答でした。
宗像:MIctionaryの運用では、どんな言葉が検索されたかを定期的に調べ、0件検索になった言葉の中から、誤って入力したと考えられるものを除き、「ICレコーダー」のように新規登録が必要なものを拾うようにしていました。このようにして、チャットボットの性能を向上させていきました。
検索からチャットボットになったことで改善された点
- 表記ゆれへの対応
- 検索結果の精度向上
- 検索疲れの抑制
「旦那」「過去」「黒歴史」などは、通常は回答を用意するべきものではありませんが、MIctionaryの以前の検索履歴にあったので、興味をもって頂くために回答を用意しました。
江口:一種の遊び心ですね。ごみでないものの回答は名言や、横浜に因んだものなどを用意しようと、課の職員全員で話し合って決めました。
でも、最初からウケを狙ってやったことではありません。ごみの分別が面倒な人はとても多いと思うので、チャットボットを使う中で「おもしろいな」「協力したいな」という感覚をもってもらえればうれしいです。
宗像:キャラクターの「イーオ」に投げられかけた質問数は、昨年の3月6日に開始してから今年の3月5日までの1年間で累計214万になりました。
多くのメディアで取り上げられてからアクセスが急増し、その後も順調です。職員も電話で案内を受けるときに使えますし、市民の皆様からも「わかりやすいので、もっと充実させてほしい」という声を頂いています。検索ツールとして浸透している印象です。
江口:データを見てみると、すべての質問中3割が受付時間外の時間帯からのアクセスであることもわかりました。チャットボットのおかげで、今まで案内ができていなかった時間帯に対応できるようになったことになります。
小林:横浜市のチャットボットは、我々のサービスの中でも、人気で1・2位を争うぐらいのものです。ログにも特徴があり、友達同士の話し合いのようになるのです。
「旦那の捨て方」の例にあったように、本当の問い合わせだけではなく、遊びの問い合わせにも対応できるので、利用率が高いのかもしれません。チャットボットの先進事例として、企業からの認知も高いです。事務的なものメインのものか、遊びメインのもののどちらかではなく、両方の要素があるのでユーザーが飽きないのかもしれません。
違う技術と組み合わせ、さらなる住民サービスの利便性向上へ
――いい成果が出ていますが、今後の計画をどう考えていますか。
江口:市民サービスや利便性の向上に向けて、「常に進化し続けるチャットボット」にしたいという夢があります。スマートスピーカーと連携させて検索ができれば、視覚障害の方にも対応ができますし、携帯電話の画像認識機能を使えたら、聴覚障害の方も使えるようになります。
今は分別だけですが、ごみ全般の問い合わせやその先の粗大ごみの申込みまでできれば、手続きの手間が省けるようになりますし、質問への回答だけでなく、行政から伝えたい情報の連絡もできるようになればと思います。
宗像:音声認識や画像認識は今後も充実していくと思いますが、画像を使った分別案内はすぐにでもやりたいですね。消火器一つを取っても、種類によっては違う案内をしないといけないことがあります。ユーザーが画像で「これは何?」と聞いた時にどう対応するかは相談しなければと思っています。
――NTTドコモとしては、このサービスを発展させる計画はどんなものをもっていますか。
小林:違う技術と組み合わせれば、今までと違ったチャットボットの使い方ができると思います。実はさっきの江口さんの話と近いことは既に考えています。チャットボットから画像認識の技術を呼び出せば、写真で案内ができるようになるでしょうし、翻訳技術を呼び出せば、外国人への案内もできるようになるでしょう。
まだ研究開発の段階ですが、どちらも裏側でテキストに変換し、データベースの内容と照合し、テキストで返すことができそうです。登録の手続きについても、組織の中の他のシステムと連携すれば、裏側で取得したデータを使って、より体験の利便性を上げることができるようになるはずです。
――マーケティング用語には「顧客体験の向上」というのがありますが、自治体の場合は、市民や住民が良い体験をすることなのですね。
江口:良い体験は地域の「お困りごと」の解決につながると思います。チャットボットのユーザーが増えれば、今まで電話応対に使っていた時間を他の住民サービス向上につなげられます。
我々が3Rを進めるために一番大事にしているのは、市民の皆様とのコミュニケーションです。顔と顔を合わせて、分別がなぜ必要か、どうして頂きたいかを伝えて、普段どんなことに困っているかを聞くようなコミュニケーションに職員の時間をもっと振り分けるようにしたいです。
小林:我々もいろいろな認識の技術をもっているので、画像認識の実証実験からやらせて頂ければと思います。
江口:横浜市の分別ルールは10分別15品目。この数が多いか少ないかはさておき、ごみを分けることへのストレスは減らすようにしていきたいです。横浜市には在住外国人が9万人いますし、ごみとは関係ありませんが、2019年のラグビーW杯や2020年のオリンピックとパラリンピックで、多くの外国人が来ることは確実です。その人たちのサービス向上になることについても、今後は取り組んでいきたいと思います。
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