テレビのデータは圧倒的に少ない
――TVision Insights(以下、TVision)は2014年より始動したとうかがっていますが、リアルなテレビ視聴態勢をデータ化する価値に気づき、ビジネスとしたきっかけは何だったのでしょうか。
劉:私は2013年に渡米しMITに留学したのですが、その前はマッキンゼー・アンド・カンパニーで国内外の案件を広く担当し、その後上海でデジタル広告代理店を創業していました。
上海時代に、テレビCM予算を多く持っている大手クライントと仕事をする機会が多々ありました。デジタル広告にはデータを取得するための様々なツールがあり、データをもとにプランニングを提案していましたが、テレビには視聴率以外のデータがありませんでした。当時はどうすればその課題を解決できるのかわからず、悶々としていました。
そしてMITで、多くのエンジニアと知り合い、その課題はAIやコンピュータビジョンといった新しい技術を使うことで解決できるのではないかとわかったのです。そこでMITの友人に協力してもらい、弊社で今実際に使用しているシステムの原型を作ったことが始まりです。
TVisionのデータは、お茶の間のテレビの上部に取り付けたモーションセンサーカメラを通して、テレビの前の複数の視聴者の目線や表情を毎秒毎に測定し、テレビの前の誰がどのように反応したのかを、フルパッシブにデータを取得している。
劉:実際にプロトタイプの機械を友人宅に設置し、一方で従来型の計測機器も用意して比較したところ、取得できるデータが異なり、面白いなと。代理店時代のクライアントにその話をすると「それなら協賛するよ」という話になり、そこでこのデータの価値を確信し、これで起業しようと決めたのです。
それで郡谷(同社 代表取締役社長)と河村(同社 取締役/営業統括者)に声をかけて、日本にも会社を作ったのがこれまでの経緯ですね。今年から英国でも事業展開をしようと準備を進めています。
取得したデータは、2つの指標「VI値(ビューアビリティ・インデックス/滞在度)」「AI値(アテンション・インデックス/注視度)」に集約し、提供している。
――デジタルに比べて、テレビのデータは圧倒的に少ないですよね。そして視聴率という指標は、実はあいまいなものです。この状況は日本だけではなく、上海や米国でも、広告主にとって共通の課題なのでしょうか。
劉:そうだと思います。下の図は(1)広告が配信されて(AD IS SENT)、(2)到達して(AD IS DELIVERED)、(3)表示されて(OPPOTUNITY TO SEE IS ESTABLISHED)、(4)注目を浴びて(VIEWER PAYS ATTENTION)、(5)影響されて(VIEWER IS INFLUENCED)、(6)実際の購買に結びつく(VIEWER ACTS)という広告のプロセスを表したものです。上段がデジタル、下段がテレビという区分けになっています。
広告のプロセスにおいて、視聴率は(1)と(2)の部分、すなわちテレビの画面に到達しているかにあたります。上の図ではNielsenになっていますが、日本ではここをビデオリサーチが担っている認識です。
その中で我々がやっている視聴の質は、ポジショニングとしては(3)と(4)の部分ですね。(5)と(6)の部分は、購買が発生したかどうか、店頭に行ったかどうかといった、実際のアクションの領域になります。
先ほどのご質問ですが、テレビにおける(1)と(2)の領域に関しては、世界約80ヵ国において同様の計測技術が使われています。テレビCMがスタートしてから約40年間、ずっと視聴率が業界のスタンダードだったというころからも、その課題意識は万国共通と言えるでしょう。
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