「枠から人へ」はもう古い?動画広告がスキップされてしまうワケ
MarkeZine(以下、MZ):オムニバスさんは2008年創業ということで、アドテクノロジー(以下、アドテク)の発展・浸透の様子を見てこられたと思います。そういった背景の中で、近年注目が集まっている動画広告市場の状況をどう捉えていらっしゃいますか。
山本:創業した当時、アドテクは黎明期でした。当時は「枠から人へ」がデジタル広告領域のキーワードで、今でいう「ターゲティング広告」が流行りだしていた。私も色んな場所でこのキーワードを主張していましたね。でも近年、この「枠から人へ」の負の側面が現れ始めました。
たとえばあるサイトを見ている時、そのサイトとまったく関係のない広告が出てきた、というような経験がみなさんあるのではないでしょうか。その理由は「枠から人へ」、つまり過去の行動履歴に基づいて広告が配信されているからですが、その結果、配信されているメディアとは関係のない広告が何度も様々なメディアで表示され、ユーザーには違和感が生まれるような状況になってしまいました。
動画広告も類にもれず、ユーザーが見たい動画コンテンツと広告が異なっているのが現状です。たとえば、私は自分のスマホで娘に子供向け動画を見せることがあるのですが、その時に出てくる広告が生命保険のものだったりするわけです。これはスマホの持ち主である私をターゲティングしているからですよね。また動画広告においては、動画コンテンツや記事コンテンツを閲覧しようとしたユーザーに対して邪魔をするような形で広告を露出する配信方法が多く、ユーザーの反感を買っていると言えます。
こうしたケースが多発した結果、ユーザーは動画広告へ不快感を抱くようになりました。データによると、若年層を筆頭に全体平均で75%以上のユーザーが動画広告に対し不快感を抱いています(2018年ジャストシステム調べ)。そして、ユーザーの8割は動画広告をスキップしています(2015年マイボイスコム調べ)。
MZ:最近はスキップできない動画広告もありますよね。
山本:あのフォーマットはあまり良いものではありません。ユーザーは広告の先にある動画を見たいわけですから、スキップできないことにストレスを感じ、場合によってはブランドに対して悪いイメージを抱くようになります。
デジタルの時代となり、ユーザーが力を持つようになりました。そのため、これまでのようなブランドからユーザーへの一方通行の広告は通用しなくなるでしょう。
広告を「コンテンツ化」する
MZ:では、広告主はどのように動画広告を配信すればいいのでしょうか。
山本:「枠から人へ」という流れの中で、過度なターゲティングが進みました。その結果、掲載面(広告枠)が軽視されてしまった。ユーザーに見てもらうためには、広告をコンテンツ化するという視点を持ち、改めて広告枠の価値を見直す必要があると思います。
「VISM(ビズム)」は、広告主の動画をメディアに記事化してもらうことで、広告のコンテンツ化を図ったものです。大きな特徴として、広告主には、記事内容をメディア側の判断に委ねていただくことにしています。もちろん間違った情報や誹謗中傷などは修正しますが、基本的にはメディアがそのメディアに適したコンテンツを配信する、「メディアネイティブ」を大切にしています。
動画×メディアの相乗効果で、思わぬ動画が拡散することも
MZ:メディア側の判断に委ねることには、どのような意図があるのでしょうか。
岩井:各メディアに適した形で記事化されるので、ユーザーが求めるコンテンツが生まれます。動画だけでは見てもらえなかったものも、「動画(広告)・配信メディア(広告枠)、記事の切り口」がぴったり合うと、ユーザーに求められるコンテンツになるのです。
たとえばある企業の動画は、VISMを活用いただいて記事化したところ、シェアが3,000くらい生まれました。内容は農業に関するもので、ドキュメンタリーのような淡々とした動画です。正直なところ、私たちも「この動画をWeb上で見てもらうのは難しいのでは……」と思ってしまったのですが、結果的にかなり拡散したわけです。なぜこのような結果に結びついたのかというと、この動画を記事化してくれたのが朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&M(アンド・エム)」さんだったからです。「&M」さんの主要ユーザーは30~50代の男性で、そういった方々にこの社会性のある動画がぴったりマッチしたんですね。
大事なのは「メディアネイティブ」であること
MZ:オムニバスさんが動画を見て、「&M」さんに記事化を依頼したのでしょうか。
岩井:いえ、「&M」さんが手を挙げてくれました。VISMは、広告主がVISMというプラットフォーム上に動画素材を登録すると、「これを元に記事化してください」というオファーがメディア側にかかるというシステムです。メディアのリクルーティング活動というものも立ち上げ当時から行っていて、現在約100メディアにこのシステムを使ってもらえる状態になっています。
岩井:広告主側には、動画素材とメディアに記事化してもらうための情報、記事の切り口などをオリエンシートの形で用意してもらいます。「動画で何を伝えたいのか」「動画に対してどういうマインドになってほしいか」という情報を書き込んでもらいます。
メディア側には「そういう狙いを持っているのであれば自社メディアのユーザーと相性が良さそうだ」という判断が働いた時に手を挙げていただく。広告主側からは予算などの情報も事前に提供してもらうため、メディアは「この条件であれば記事化でき、マネタイズにつながる」というのをシステム上で確認することができます。
場合によっては、1つの動画に対していくつかのメディアが手を挙げ、それぞれの切り口で記事にしてくれることもあります。そうすると、記事にバリエーションが生まれる。記事ごとに効果測定が可能なので、どういう届け方がユーザーに届くのかというのを検証することも可能になります。
MZ:いわゆる広告主主導の「タイアップ記事」とは違うということですね。
山本:そのとおりです。メディアが作るコンテンツを許容することが大事なポイントです。これはインフルエンサーマーケティングなども同じだと思いますよ。彼らの表現や発信のスタンスに対して、広告主は意見してはいけない。好きにやっているからフォロワーが沢山いるわけで、そこに介入するというのは良くないことだと思います。
動画の記事化は、ユーザーの視聴態度を大きく変える
MZ:記事化されることで、ユーザーの動画広告に対する反応は変わったのでしょうか。
岩井:動画の再生率や100%視聴率に、かなり違いが出ましたね。動画は、高いものだと8割くらいの再生率になることもあります。これは動画を見る時の視聴態度の違いが非常に大きいと思います。そもそもユーザーはその記事に興味がありアクセスしているので、動画を広告としてではなく、欲しい情報の一部として見ているのです。
記事のシェアを通じて大きな反響に繋がることもあります。たとえば、LIONさんと「クリニカ」という商品のプロモーションでご一緒した際には、記事を読んだ歯科医の方がソーシャル上に書き込んでくれました。さらに、LIONさんに直接「病院の待合室でこの動画を使いたい」という連絡が来るなど、動画広告としては大成功を収めました。
山本:CMと連動したアプローチも非常に効果が高いです。たとえば、当社親会社のクレディセゾンは、セゾンカード・UCカードのApple PayのCMに「東池袋52」というアイドルグループを登場させました。そして、そのCMのメイキング動画を、CMと同時にWeb上でも流し、認知拡大を狙いました。2メディアで記事化したのですが、それぞれ84%、72.8%という動画再生率を出すことができました。
岩井:この記事では、記事オリジナルのメイキング映像だけではなく、一緒に掲載したCMの動画もかなり見られました。従来の動画広告出稿の仕方ではなく、メディアネイティブな取り組みだからこそ、出せた結果だと思います。
広がる動画広告の可能性
MZ:最後に今後の展望をお聞かせください。
山本:動画広告は良い意味でも悪い意味でも訴求力が強く、今後ますます活用の幅が広がっていくはずです。その中で我々は広告主にとっても、メディアにとっても、そしてユーザーにとっても愛される動画広告の配信プラットフォームを作っていきたいと考えています。VISMには「三方良しの新たな動画広告のカルチャーを創造する」というプロダクトビジョンがあるのですが、それをVISMを広げる事で実現させたいです。その先には海外市場も視野に入れていきたいと考えています。
岩井:VISMが活用される中で思うのは、メディア側の記事化の能力がすごいのはもちろん、やはり広告主の動画そのものにも、ものすごくパワーがあるということです。極端な話、動画の内容が良ければそんなに広告を沢山打たなくても、多くの人にシェアされて広がっています。広告主には、VISM活用で得た新しい気付きや知見を、動画制作にも活かしていってほしいです。
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