オフラインデータへの高まる期待
矢野経済研究所は、2016年は57億7,000万円だったDMPサービス市場が、2017年には前年度比27.2%増の73億3,700万円に到達すると発表した。多くのマーケターが感じているように、DMP市場は右肩上がりに成長している。
そんな中、昨今特に注目されているのが“オフラインの行動データ”だ。MarkeZine Day 2018 Autumnに登壇した凸版印刷の森谷氏は、「オンラインのデータだけでなくオフラインのデータをどう掛け合わせるかが、最近のトレンドになっています。これは、ネットとリアルでシームレスな顧客体験を提供するために不可欠だからです」と、オフラインデータに寄せられる期待に言及する。
現状としては、ECの購買履歴や閲覧履歴、検索履歴などオンライン上の行動データが活用されることが多く、オフライン行動データの活用はまだ少ない。とはいえ、消費者はオンラインとオフラインを行き来しながら経済活動をしており、その境目をなくすために両方のデータを掛け合わせることは必須であろう。
つまり、リアルにこそ、貴重なオフラインデータが眠っているというわけだ。こうした背景のもと凸版印刷は、オフラインの行動データを扱う2つのDMP「Shufoo! DMP」と「Mapion DMP」を展開している。
リアルでの「消費活動」と「移動」をデータで可視化
「Shufoo!」は、凸版印刷が提供する電子チラシサービスだ。アプリユーザーは自分が買い物をするエリアを設定すると、そのエリアの電子チラシを受け取ることができる。メインのユーザー層は30~40代の主婦層で、月間UUは1,100万、月間PV数は3.8億にも上る。
この「Shufoo!」の利用ログを蓄積して、凸版印刷は「Shufoo! DMP」を提供している。今年9月からは「Shufoo!」上でレシート情報の取得も開始しており、“購買者がどのチラシを見比べて、実際にどの店舗で何を購入したのか”までを追うことが可能に。これまでユーザーのプロファイル情報とオフラインの購買行動の融合は難しいとされてきたが、「Shufoo! DMP」ではこれを実現できるようになる。
もう一つの「マピオン」は、月間利用者数1,200万人を誇る地図サービスだ。旅行や出張、娯楽など様々な目的で利用されている。凸版印刷は、マピオンでも利用ログデータを蓄積しており、そのデータからは“近い将来、特定エリアに訪れる人”を推測することができる。
ちなみに、「マピオン」ユーザーの検索場所に対する興味関心は様々だ。そこで、「Mapion DMP」では、学校や習い事、公共施設、官公庁、グルメ、エンターテインメント、ビジネスなど18の大きなカテゴリーと300の小さなカテゴリーを設定し、ユーザーの直近の興味関心を可視化している。
「Shufoo!」と「マピオン」という2つのサービスの利用ログデータを活用することで、たとえば、「誰がどんな情報を見て、どの店舗で何を購入しているのか」「誰が何に興味関心をもっていて、近い将来どの地域を訪れるのか」というオフラインの行動を捉えることができるのだ。
サントリー酒類では、広告接触者のうち8.3%の来店を確認!
では、オンライン×オフラインの行動データを活用することで、どのような効果が生まれるのか。本セッションでは、フリークアウトが運営する位置情報ターゲティング広告プラットフォーム「ASE」と「Shufoo!」を組み合わせたソリューション事例が共有された。
「ASE」は、延べ4,000万超のエリア設定による位置情報ターゲティング機能と、LINEを含む2,700億インプレッションの広告在庫を有する広告配信プラットフォームだ。凸版印刷とフリークアウトは、今年7月「Shufoo!」と「ASE」の連携を実施。これにより「購買意欲が高く、特定のエリアにいるターゲットに来店を促す広告を配信し、その結果どのくらい送客につながったか」を可視化するソリューションを開発した。
このソリューションの実証実験に参加したサントリー酒類は、「Shufoo! DMP」でのセグメンテーションと「ASE」での位置情報ターゲティングを組み合わせ、タイアップ先の流通チェーン店舗への送客を目的に広告を配信。その結果、広告接触者の8.3%が該当の店舗に来店したという成果を確認できたという。
この結果について廣瀬氏は、「Shufoo!で購買意欲の高いターゲットを抽出していたから、より高い成果を出すことができたのだと考えています」と見解を示す。
精緻なセグメンテーションか、リーチのボリュームか。
このように、広告やコミュニケーションの効果向上には、複数のカテゴリーのデータを組み合わせた精緻なターゲティングが重要である。
しかし一方で、「オンラインとオフラインの行動データの掛け合わせは歓迎するが、データが膨大になりすぎて、活用しきれるか不安という声も聞かれます」と森谷氏。
確かに、セグメントを細分化しすぎることに対し「限界があるのでは」という指摘もある。さらに森谷氏は、「セグメントを詳細にすればするほど効果が大きくなるかというと、あながちそうとも言い切れません」と語る。オンラインもオフラインも含めて精緻なターゲティングを行うと、リーチ範囲が狭くなり、収益へのインパクトが低下する場合もあるからだ。
「パーソナル特性でセグメント化を進める際、その効率化には限界があり、かつリーチボリュームは小さくなってしまいます。よって、別の切り口でセグメント化を図ることが必要です」(森谷氏)
「楽天GORA」は気象データを掛け合わせた施策を展開!
そこで、注目したいのが気象などの環境データだ。NTTデータグループのハレックスは、ピンポイントの気象状況を高頻度で予測し、そのデータを企業に提供している。続いて檀上に上がったハレックスの藤田氏は、企業がどのように気象データを活用しているのかを説明した。
天候が不安定なとき、ゴルフ場ではどうしてもキャンセルが増えてしまう。ゴルフ場予約サービスを提供する「楽天GORA」は、キャンセル抑止に向け、ハレックスの気象データを基に、各地域の1時間ごとの天気を表示。一般的な天気予報とは異なり、ピンポイントでかつ最新の情報を表示することで、キャンセル抑止に役立てているそうだ。
また、ある飲食店はハレックスの気象データを活用して、その日の気温や天候に応じ「猛暑日クーポン」「雨の日クーポン」などをリアルタイムで配信している。飲食業界では、「雨が降ると、来店者数がが減少する」と言われており、気象要因で売り上げが左右されがちだ。そんな中、リアルタイムな気象データに基づいて来店を促すクーポンを配布することで、来店者数を上げ、売り上げの増減をフラットにできているという。
気象データも取り入れたDMPソリューションの展開へ
凸版印刷の森谷氏も、「ハレックスの気象データを活用して、より詳細なセグメントや分析を実現していきたい」と話す。
「Shufoo!やマピオンで所有しているオフラインの行動データに、気象データや位置情報などの環境データを掛け合わせることで、ボリュームを保持しつつ、より詳細な分析が可能になると考えています」(森谷氏)
実際に、2018年10月末には、気象データやジオデモグラフィックデータなどの環境データをマーケティングに最適な形に変換する「環境データマート」をリリースする予定だ。この「環境データマート」と「Shufoo!」を連携させることで、ユーザーの気象状況に合わせたクリエイティブでの広告配信も可能になる。たとえば、翌日が雨予報なら○○をプッシュ、気温が10℃以下に下がる予報が出たら○○をプッシュという風に、気象データによる高度なターゲティングが実現する。
これまでオンラインの行動データをベースにされていたマーケティング戦略に、買い物や位置情報、環境などのオフラインデータが加わることによる可能性が覗かせ、講演は終了した。