デジタル起点のサービスを拡充させていったJリーグ
モデレーターを務めた平地氏は同セッションの冒頭で、「スポーツビジネスは特別なものではなく、考え方は他のビジネスと変わらない」と主張した。30以上のプロクラブ、5つのリーグにおいてデジタル支援を行う平地氏によれば、スポーツ界はデジタル化が遅れていると思われがちだが、実はスポーツ界におけるデジタルトランスフォーメーションはかなり進んできているという。
続けて笹田氏は、Jリーグが2016年に着手したデジタル戦略を紹介した。Jリーグでは顧客データの整備を課題に、データ統合のための共通データベースを開発。そして、翌年2017年秋には川崎フロンターレとガンバ大阪をパイロットクラブとし、クラブの意見を反映させたデータベースを全クラブで運用できるようにした。
これによって、従来のサービスごとに存在していた顧客IDを「JリーグID」という共通のIDサービスで統一し、顧客の利便性向上を実現する様々なサービスを拡充させていった。
「デジタルトランスフォーメーションにおいては、多くの場合、既存データの統合に終始してしまいがちです。ところがJリーグでは、お客様の利便性やメリットを前面に押し出したサービスの開発に重きを置きました。これが、比較的Jリーグのデジタル戦略がスムーズに進められた理由だと思っています」(笹田氏)
リーグ、顧客、パートナー企業の「三方よし」を実現
「Jリーグチケット」「オンラインストア」「公式アプリ」「スタジアムWi-Fi」といったサービスを複数展開し、共通のIDで利用可能にしたJリーグ。笹田氏は、数年間で急速に体制を整えられた背景として、顧客の体験向上だけでなく、クラブやパートナー企業に対しても価値を提供できていることを挙げた。
「お客様からすると、IDを登録することで利用できるサービスが増えるという利点があります。また、クラブは統合的なサービスがチケット以外の領域で展開できるようになる。さらに、こうしたサービスをパートナー企業様と協業で提供することで、『三方よし』の状況を作ったのが良かったと考えています」(笹田氏)
JリーグはオープンIDを採用することで、NTTドコモや楽天、ヤフーといったパートナー企業のIDとも連携。これによって、たとえば「Jリーグチケットで購入すると『パートナー企業の共通ポイント』も貯まる」といったエコシステムを構築し、Jリーグとパートナー企業との相互送客を実現していった。