テクノロジーで変わる「買い物体験」
MarkeZine編集部(以下、MZ):本セッションでは、AIやIoT、AR/VRなど日々登場・進化している最新技術が、カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)の向上にどう寄与していくのか、みなさまと共に考えていきたいと思います。
早速ですが、CX向上という観点で、これまでどのような課題があり、それをテクノロジーでどのように解決したかを教えてください。まずパルコの林さんからお願いします。
林:近年、スマートフォンを始めとしたテクノロジーの登場で、「買い物体験」にも変化が起きています。その1つが「スマホで検索しながら行動する」ようになったことです。この変化により、「実店舗」だけではなく、「インターネット上」で接客する機能が必要になってきました。そこで最近では「Web接客」という概念を実現すべく、様々な機能をインターネット上に搭載しています。なかでもキーファクターになるのが、パルコ公式スマホアプリの「POCKET PARCO」です。
MZ:スマホアプリが果たす役割はなんでしょうか?
林:当社はこれまで、「購入」というコンバージョンを指標として取っていたのですが、その前後にある顧客行動や来店モチベーション、購入後の評価などはすべて藪の中で、掴めていないことが課題でした。しかし「POCKET PARCO」を使うことで、そうした行動が一連のログデータとして把握できるようになったのです。
「POCKET PARCO」をリリースして4年になるのですが、昨年ちょっとおもしろいサービスを追加しました。元々、来店時にアプリでチェックインすると、コイン(貯めたコイン数に応じてご優待券を進呈)を付与していたのですが、昨年から店舗内を歩くことでコインが付与される「PARCO WALKING COIN」というサービスを導入しました。これは、店舗内をたくさん歩いてもらうことで、買い回り促進を目指したサービスです。
店舗内の顧客行動を可視化
MZ:成果はいかがでしたか?
林:半年間、アプリユーザーでこのサービスを利用されるお客様と、利用されていないお客様との間でショップ間の買い回りや購入金額を比べました。すると、サービス利用者のほうが買い回りのショップ数が約2倍、一人当たりの購入金額も20〜30%高かったのです。
一方で、「POCKET PARCO」をご利用になられないお客様については、店舗内の行動を理解することができません。そこで2017年にオープンしたPARCO_ya上野では、ショップ内に複数のカメラを導入し、個人が特定されない形で、「どういう属性の方がそれぞれのショップにご来店しているか」を分析できるようにしています。
もう1つの取り組みとしては、池袋PARCOと名古屋PARCOの一部フロアにスマートスピーカーを配置し、店舗内の案内を行うようにしました。こちらは、有人のインフォメーションカウンターでよくお問い合わせをいただく500〜600種類の質問にお答えすることができます。回答データを見ることで、どのようなご質問が多いのかがわかります。たとえばレストラン階であればトイレの場所、入り口付近であればATMの場所など、ある種の傾向があります。つまり店舗内の各地点でのお客様のニーズや、困りごとが何かを理解できるようになったわけです。