SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

BOOKS(AD)

SaaS時代のビジネスを問い直す『THE MODEL』が得た大きな反響【4/5出版記念イベント開催】

 Marketoを日本に定着させた福田康隆さんの著作『THE MODEL』は、マーケティングと営業の融合だけでなく、SaaS時代の市場戦略や新しいリーダー像にも触れた、これまでにない内容となっています。幅広い読者を獲得している本書の反響について、あらためて福田さんにうかがいました。4月5日には刊行イベントも開催予定ですので、ぜひチェックしてください。

予想を超えて多くの反響が

――『THE MODEL』本書は今年の1月末に刊行してから増刷を重ね、MarkeZine BOOKSとしても今までとは違う広がり方をしているなと感じています。刊行のタイミングもよかったのかもしれません。ちょうどカスタマーサクセスやインサイドセールスへの注目が高まり、特にBtoBの領域でマーケティングと営業を融合させていこうとする風潮が盛り上がってきている時期でした。

福田:そうですね、刊行が1年早ければ反響の大きさは違った気がします。「THE MODEL」という言葉や考え方はまだまだ世の中に浸透しているわけではありません。ですが、この1、2年でBtoBのスタートアップが注目されるようになり、投資意欲が高まっています。すでにこうした考え方を取り入れて実践している企業も増えつつあったのでしょう。そういう下地のあるところに本書が登場した。これが1年早くても遅くても、こうはならなかったかもしれません。

アドビ システムズ専務執行役員 マルケト事業統括 福田康隆氏
アドビ 専務執行役員 マルケト事業統括 福田康隆氏

――発売されてから、福田さんのもとにはどんな感想が届いていますか?

福田:「THE MODEL」という言葉自体はじめて聞いたという方、なんとなく知っていた方、すでに自社のビジネスで実践している方、そうした様々なフェーズにある人たちがそれぞれに読んでくださっていると感じています。

 企画段階で、なるべく多くの方にとって役立つ本にしようと思っていたものの、このテーマ、切り口が、どれくらいの方に理解していただけるのかは不安がありました。BtoBやSaaSに携わる方はもちろんですがそれを超えて広がっていってほしいと思い、汎用性、再現性のある内容を書こうと努めました。結果としてはIT業界はもちろん、それ以外の意外な業界の方からも反響があり、お会いしたことがない方からも「ぜひ感想を伝えたくて」とメールやfacebookでメッセージをいただきました。思った以上に読まれていて、驚きと嬉しさが入り混じっているというのが率直な感想です。

 電子書籍版では、何人がどの文章に線を引いたかがわかりますよね。それを見ていくと、第5章「分業の副作用」の「人間はグループに分けられたとたんに敵対しやすい生き物であるということ」という部分に注目が集まっていました。解説されているプロセスを自分たちに当てはめて活用するノウハウ本として読まれると想定していたので、こうした人や組織に焦点を当てた部分に多く共感いただけたのは予想外でしたし、嬉しかったですね。

精緻なプロセスにも「ゆるみ」が必要

――本書のサブタイトルにある「マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの分業プロセス」については第3部で詳細に解説されています。

福田:この章で説明しているプロセスは万能ではありません。一般的なSaaSのビジネスで行われているプロセスをもとに解説していますが、同じSaaSの中でも製品特性や顧客層によってやり方は変わります。ただ、最大公約数的なものにとどめてしまうと、内容が浅いものになってしまうので、特定のものでも深掘りして、読者がそれを自社にどう当てはめるかの参考にしてもらえればという狙いがありました。実際、自社のビジネスに合うようプロセスを最適化しているという声や、読書会を開いたり、自社のフレームワークの参考にしていると言ってくれる方もいます。

 先日開催した講演会では「このプロセスを実行しようとすると、営業部門がデータを正しく入力することが必要になると思います。しかし、まさにそこに課題を感じているのですが」という声がありました。実際に多くの企業が同様の課題を抱えていると思います。そもそも営業部門に限らず、正しくデータ入力したり、タスク管理できる人が世の中にどれだけいるでしょうか。商談情報の更新ひとつとっても、徹底させるのがどれだけ大変かを実感しますし、多くの場合、報告内容も担当者の主観が入り、担当営業とマネージャーでは解釈がまるで違うことなど日常茶飯事です。

 本書で解説したプロセスを運用するときは、「そもそもうまくできるとは限らない」という発想が必要です。プロセスを考えて作り込み、その通りに動かそうとすればするほど現場の担当者はストレスが溜まります。プロセスを動かすのは人です。プロセスそのものよりも、プロセスに携わる人たちにどう動いてもらうか、それを考えることのほうが大切だと考えています。

 かっちり決めたプロセスやKPIはきれいではありますが、それだけでは現実には運用は難しい。そこに「緩み」を持たせることが重要です。家具を組み立てるときもネジを締めすぎると壊れてしまいます。多少緩みを持たせながら、少しずつ調整していく。フレームワークや組織を動かすときも、同じだと考えています。

――福田さんご自身は、いつ頃からそれを意識されるようになったのでしょうか。

福田:マネジメントを経験するようになってからだと思います。インサイドセールスやフィールドセールスなど複数部門を見ていると、組織のつなぎ目で起きていることも見えるようになります。人の感情も重要な要素で、人間は機械ではない。プロセスやルールを無理に当てはめようとするやり方は決してうまくいかないという事を経験から学んだと思います。

本書をきっかけに問い直すことで、大きな可能性が見つかる

――多くの読者が共感しているのは、福田さんご自身が多くの課題や困難を解決しようと試行錯誤を繰り返し、奮闘されてきたからではないでしょうか。

福田:そうですね。第1部では、あえてストーリー仕立てで自分の体験を紹介することにしたのですが、皆さんの感想を拝見すると、仕事のやり方だけではなく、キャリアも含めて「自分もいろんなことに取り組みながらも迷っている」という感想が非常に多かった。

 私自身も未経験のところからスタートし、試行錯誤しました。洗練されたプロセスと見られがちな「THE MODEL」のようなプロセスも最初からそうだったわけではないということを理解してもらえればと思います。新しいものを作り上げる過程でキャリアも成長していく。もちろん、本書では言及しなかった大変だったこと、苦労したことは山のようにあります(笑)。

――そういう時期を福田さんはどのように乗り切ったのですか?

福田:新しい取り組みがすぐに理解されるとは限りません。自分がやっていることを信じながらも、結果が出なければ批判を甘んじて受けるしかない。とにかく結果で証明するしかないと思って仕事をしていましたね。

――本書を読んで自社でも実践しようと考えている方は多いと思います。何かアドバイスはありますか?

福田:本書の反響を通して、まだ営業が「足で稼ぐこと」が中心にあり、営業担当者が抱えているいくつもの役割をどのように効率的に機能させていくかという発想に至っていない現状があるように感じました。もし皆さんの企業がそうした状況であるなら、逆に大きな成長の可能性があると思います。

 会社によっては1社に1人の営業担当がついて商談、販売、サポート、あるいはそもそもリード獲得まで何でもこなすことが前提となっている場合もあるでしょう。ですが、顧客が求めることは様々で、1人の営業担当がすべて完璧にこなすのは現実的ではありません。自社の組織から考えるのではなく、顧客からどういう役割を求められているのかを理解し、それを誰が担当するのがよいのかを顧客視点で考えてみてもらいたいですね。そうすれば自社に必要なプロセスが見えてくると思います。

 本書では主に第2部「分業から共業へ」でそうした内容をまとめているので、組織のあり方から見直すきっかけにしていただければと思います。今までこうやってきた、という理由のない伝統に疑問を投げかけ、脱却していくことがポイントです。

――今の営業の仕組みでうまくいっているように思えても、もっといい方法があるかもしれない。そこに疑問を持てるようになる本だとも言えますね。

福田:私自身、「なぜ今こうなっているのか」という疑問を持つことを大切にしています。会社で行われている業務プロセスには「今までそうしてきたから」というだけで実行されていることが山ほどある。そこへ「なぜそうやっているのか」という質問を投げかけると改善点が見えてくることはよくあります。そもそも、世の中は変化をし続けて顧客自身が企業より早いスピードで変化していきます。本書でもマーケティングや営業のやり方が変わった理由として、顧客をとりまくテクノロジーの変化を挙げていますが、そのような視点を忘れずに改善に取り組んでほしいですね。

本書『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』の内容を抜粋して紹介した「顧客の行動が変わり、ビジネスも変わった 『THE MODEL』で語られる新しいプロセスとは」もおすすめです。

頂点を降りて、次の波に乗れるかどうか

――福田さんは本書を書き下ろした今、次に向けてどのようにお考えですか? 

福田:本書で紹介した形のプロセスは、いつどんな時代でも通用するものではなく、どんどん最適な形は変わっていくはずです。今の成功体験にとらわれていると途端に立ち行かなくなります。

 世の中には常に新しい波が起き続けます。今が波の頂点のビジネスはこれから落ちていってしまうわけですが、同時に別の新しい波が下から立ち上がりつつある。ビジネスの世界は一本線の波形ではなく、いくつもの波形が重なって時代が進んでいきます。自分が頂点にいるとき、頂点を降りて下にある次の波に乗れるかどうか。それができる人や企業が新しい時代を作っていくのだと思います。

――絶頂期にあるのに自分から進んで降りるというのは勇気がいることですよね。ただ、日本ではそれができなかった企業が多かったのではという印象があります。企業の時価総額ランキングを見ると、バブルの頃は日本企業が多くを占めていたのに、今やアメリカと中国の企業で占められています。そうした危機感を持つ方も本書を手に取られているようです。

福田:先日、大阪で自社イベントを開催したとき、立命館大学の鳥山正博先生に講演していただいたのですが、例として「長篠の戦い」を紹介されていました。鉄砲が登場するまでの合戦では歩兵や騎馬兵、弓兵が戦力の中心でそれに合わせた陣形が採用されていた。ですが鉄砲が加わるとそれを使いこなせる人材を育てる必要があり、しかも合戦では鉄砲隊が前に出る陣形を新たに作らなければなりません。テクノロジーの活用は人の能力を拡張させるうえで重要ですが、テクノロジーを導入するとオペレーションも必然的に変わらざるをえない。

 そう考えると、たとえばマーケティングオートメーションやカスタマーサクセスといった機能・部署を導入するなら、組織や人員配置まで変更しなければならないことがある。今後も新しいテクノロジーが登場してくる際には、こうした視点が重要になると思います。

――本書の「おわりに」にあった「ツールビルダーとしての人間」の話も興味深かったですが、テクノロジーやツールの導入を根本から考え直す時期に来ているのかもしれませんね。

福田:プロ野球選手がバットの1グラムの違いを気にかけたり、プロゴルファーがクラブの1ミリメートルの違いを調整したりするプロ意識を称賛する人は多い。私も同じです。そしてその姿勢はITツールでも同じではないでしょうか。道具は大切で、こだわるべきものだと私は考えています。

――ありがとうございます。これからも本書がどこまで広がっていくのか、楽しみにしたいと思います。

4月5日に出版記念イベントを開催します!

 『THE MODEL』の出版記念イベント(参加費無料)を4月5日(金)18:30から、渋谷にあるTOKYO BOOK LABにて開催します。第1部は著者である福田康隆氏の基調講演、第2部は50社を超える日本のSaaS/Cloudベンチャーへの投資実績を持つ倉林 陽氏とのパネルディスカッションです。申し込み締切は3月31日(日)まで。皆さまのご参加、お待ちしています!

▼参加申し込みはこちらから!
https://markezine.jp/application/14/

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集部...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2019/03/27 10:39 https://markezine.jp/article/detail/30642