販促とは一線を画したショッパーマーケティング
現在、私はオンラインとオフラインのチャネルを行き来するお客様の行動を学術的に研究しています。関連文献を調べていたところ、発見したのが「ショッパーマーケティング」という考え方です。ショッパーマーケティングとは、米GMA(Grocery Manufactures Association)により、次のように定義されています。
「ショッパーの行動の深い理解に基づき開発され、ブランドエクイティを構築し、ショッパーを引き付け、購買決定に導くために計画されたすべてのマーケティング指針からなる活動である」
この定義が示すのはショッパー(商品を買う人)とユーザー(商品を使う人)の区別を明確にすることの重要性です。そんなことはわかっていると思うかもしれませんが、デジタル専業のマーケターは往々にして曖昧にしたまま施策を展開することが多いのです。
たとえば「30代の女性が隔週でカレーを3つ買っている」ことがデータから把握できたとしましょう。そのカレーはその女性が一人で消費しているものではなく、家族のためにまとめ買いをしているのかもしれません。この場合、メーカーのマーケターは、ショッパーである女性をターゲットと考えていいのでしょうか。もしかすると、むしろ考慮すべきなのはユーザーである家族の嗜好かもしれません。
今までもP&Gやコカ・コーラのように、ショッパーとユーザーを区別した上で、店頭での出会いにフォーカスしたマーケティングを展開するメーカーは存在していました。しかし、その試みを徹底するには、資本の制約や小売との思惑の違いが足かせになり、やってみても実験の域を超えることができない状況にあったのです。
ところがAmazon Goやトライアルの取り組みは、超大手消費財メーカーの独壇場であったショッパーマーケティングを民主化し、デジタル化によって「24時間×365日」実行できる環境を整備したといえるでしょう。
マーケター、特にデジタル専業でやってきた方に検証してほしいのは、デジタルにおけるお客様とのつながりが大事といいながら、ショッパーとユーザーを混同して施策を展開していないかです。
本来、購買意欲を高めているお客様とつながるためのマーケティングと、ブランディング目的でアウェアネスを取るためのマーケティングは違います。メーカーなのにショッパーに、小売なのにユーザーにだけ焦点を当てたコミュニケーションをしていませんか。実務家ほど、焦点を曖昧にしたまま施策を展開するケースが多いと感じます。
トライアルがやろうとしていることは、メーカーからリベートをもらい店舗販促を行うことから脱し、データ交換を前提とした対等なジョイントビジネスです。デジタル時代のショッパーマーケティングが従来の店頭販促の枠に収まらないことは当然として、これからはメーカーでも小売でも常にショッパーに焦点を当てたマーケティングが可能になります。
つまり、マーケターとしては、ショッパーとユーザーのどちらとコミュニケーションをするのかを明確にすることができるということです。