会員以外のユーザーにも、アプローチしていく
CDPによって顧客IDを軸にして分析可能な状態になったデータは、言い換えればデータ全体を「IDが判明しているログ(会員データ)」と「IDが判明していないログ(非会員データ)」にセグメント(分割)された状態をつくることができます。分析時点でのセグメンテーションの精度が、その後のマーケティング上の施策の打率に影響してくるのは間違いありません。
たとえば会員であれば、これからも長く会員でいつづけてもらうための、いわゆるLTV(ライフタイムバリュー)を引き上げるようなコミュニケーション施策につながります。非会員であれば、会員データと突き合わせて、どのようにアプローチすると会員化してもらいやすいか、といったマーケティング施策につながっていくでしょう。
他にも、残念ながら解約してしまった旧会員のID群に紐付いたログを分析することにより、解約率(チャーンレート)を引き下げたり、あるいは再加入を促すような施策やコンテンツ編成に活かすこともできます。そしてWOWCOMの横関氏は、データ統合が経営に与える影響について述べます。

「これまでもご加入をいただいた翌月や、ご加入後のサンクスコールやアンケート調査など、会員の皆様のインサイトを収集し、サービスに活かす試みは長く実施していました。ただ、現在の体制になる以前はそれらのインサイトが経営層をはじめとした各部門にフィードバックされるまでのリードタイムがどうしても長くなっていました。加えて、アンケートで収集できないデータのほうが多いことが悩みでした。現在はCDPがBIツール/ダッシュボードと連動するようになり、フィードバックから意思決定までのサイクルが非常に短くなっています」(横関氏)
データを軸に、アートをサイエンスと両立させていく
データ統合とBIツール/ダッシュボードによる可視化ができたとしても、そこから得られた知見を施策に活かしていくには、適切なKPI設定が不可欠です。この連載の第1回でも触れましたが、どんなに技術が発展してデータを利用する環境が整ったとしても、組織の目的に合わせたKPIの設定がなければ、アクションに落とし込む段階になって手詰まりが発生し、企業としての意思決定にも影響が出てしまいます。
そしてさらに大事なのは、そのKPIが全社に浸透し、共通の認識に落とし込まれていることです。WOWOWのようなサブスクリプション型のメディアビジネスにとって、アートの領域であるコンテンツを、データの力でサイエンスと両立させていくことが、今後ますます多角化していくチャネル戦略において重要になることは間違いありません。
そのためにも、CDPをはじめとしたデータ運用の基盤は、単なる分析ツールとしてではなく、意思決定の精度と速度を上げ、KPIの達成を支えるための不可欠な役割へと変貌します。
デジタルの最新動向は移り変わりが早く、ユーザーが求めるコンテンツも、視聴環境も常に目まぐるしく変化していきます。そんな中で、自社の戦略と外部環境とを継続的に合わせ、ユーザーに求められるコンテンツを先回りして提供していくことは、今後ますますメディア企業の生命線であり続けるでしょう。CDPを軸にしたデータマネジメントは、一見メディア企業のコア・コンピタンスとは縁遠く見えながらも、実際はその心臓部として機能し続けるに違いありません。
人々の利用するデバイスやメディアはますます断片化し、データの分散化は進んでいきます。その変化に合わせて企業側も持続可能な体制に以降できるよう、データと二人三脚で進めていく体制の構築には終わりはなく、常にアップデートが必要です。最適解は企業ごと、フェーズごと、時代によって移り変わっていきますが、データと真摯に向き合った先に答えがあるということだけは、今後も変わらないでしょう。