メディア企業における「データ」活用の変化
従来のメディア企業の「データ活用」といえば、「一部のユーザーの顕在化したニーズ」を判断基準にしているケースが大多数でした。たとえば雑誌の読者に向けて「どの特集が一番よかったですか?」といったアンケートをとって次のコンテンツ企画の参考にしたり、テレビの企画では「視聴率」が大きな影響を占めていたりしたことが挙げられます。
しかし、今やスマートフォンの普及や一人当たりが消費する情報量の増加によって、ユーザーの価値観やニーズ、可処分時間は多様化・細分化し続けています。また、ユーザーの行動だけではなく、それにともなうメディアの役割も変化し続けています。コンテンツの配信だけではなく、ニュースを取り扱うポータル化やリッチな広告コンテンツを配信するプラットフォームとして、ユーザーとの対話を取り込んでいく仕組みを取り入れるなど、その変化は様々です。
ユーザーとの関係が複雑になっていく中で、アンケートや視聴率のような「一部のユーザーの顕在化したニーズ」だけではなく、一人ひとりのユーザーの属性や趣味趣向、メディア接触時の瞬間的なニーズ、いわばモーメントを捉え、「多様化するユーザーの潜在的なニーズ」ごとに、One to Oneでコンテンツサービスを配信する動きが出てきています。
このような背景から、昨今メディア業界でも、「データ活用」「テクノロジー利用」「デジタルトランスフォーメーション」などの言葉が一般的になり、よりデータに対する意識が高まっています。
メディア企業が陥りやすい「データ活用」の罠
メディア企業にとってもデータ活用は喫緊の課題となっていますが、そこには大きく2つの罠が待ち受けています。
一つめは「データ整形の罠」です。テクノロジーの進化により、リアルタイムでユーザーの行動データを集計・活用することが以前と比べて低コストで実現できるようになりました。だからこそ「どんな切り口で推測すればいいのか?」「それぞれのデータはどうやって統合していくのか?」など、データの活用法や最終的なアウトプットを意識せずに構築を始めてしまい、気づいてみると、集計が難しい項目の一覧や、目的を達成できないデータ・セットが出来上がってしまうケースが増えています。
二つめは「ロイヤリティユーザーの罠」。One to Oneでのコンテンツサービス配信を可能にするプラットフォームを運用していく上で、重要指標として「ロイヤリティユーザー」がよくあげられます。メディアを盛り上げる一つの施策として「ロイヤリティユーザーを増やしたい」「ロイヤリティユーザーにたくさんきてもらいたい」というケースは多いでしょう。
しかし、現実は「毎日訪問してくれるユーザー」「タイアップ広告を見てくれているユーザー」「コアな記事を読んでくれるユーザー」など多様なロイヤリティユーザーが存在しています。そのため、データとして一つだけの指標を評価し続けるのは難しく、プロジェクトの途中で目的の形骸化が起こってしまいがちです。一つのユーザー像に正解を求めるのではなく、満たすべきビジネス上のゴールから逆算して施策を設計していくことが重要です。