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SNS起点で生まれるマーケティングトレンド

2019年、シェア拡散された国内施策をランキング化/ ラグビーワールドカップから学ぶ今後のトレンド

テレビCM、タレントパワーに頼らずシェア拡散した施策とは?

 では、テレビCMネタ、タレント起用以外では、どういったものがあるのでしょうか。

 たとえば3位と6位にランクインしている小学館「幼稚園」は、編集部Twitterの付録を紹介しただけの投稿です。この付録が「ありえないクオリティ」「大人も欲しくなるレベル」として話題となり高いエンゲージメントを記録しています。

 5位の花王「エッセンシャル」はWebメディア「オモコロ編集部」による記事広告「即買いコーディネート選手権」がエンゲージメントされました。店員に声をかけられる前に服を買ってコーディネートするというシンプルな企画ですが、「店員に声をかけられることへの苦手意識」に対する共感と、笑いを呼んで大きなエンゲージメントを獲得しています。比例してPVも伸びていると考えられます。

 商品の紹介は取ってつけたように最後にさらりと入れているだけなのですが、とにかく多くの人にリーチしているでしょうから、認知効果は大きかったのではないでしょうか。

花王のオモコロ記事広告より引用:https://omocoro.jp/kiji/176995

 9位、10位にランクインしているのは、Oisixと「クレヨンしんちゃん」がコラボレーションした駅構内の交通広告です。「クレヨンしんちゃん」の野原家が住む街、埼玉県の春日部駅のみに1週間限定で掲載したものになっています。

 Oisix公式Twitter上でのプレゼントキャンペーンもありましたが、メインの交通広告でここまでのエンゲージメントを生んでいる例は過去にもなかなかありません。生活者の反応は、家族に感謝し家族を大切に思う気持ちを綴った広告コピーへの共感です。

 また、このキャンペーンが上手かったのは、シリーズ化して世の中ごとのタイミングに足並みを揃えていたところ。第1弾は母の日に「野原みさえ」さん宛、第2弾は父の日に「野原ひろし」さん宛にメッセージを綴りました。そして第3弾は夏休みが終わる直前に「しんちゃん」目線で母への感謝を綴るというタイミングが絶妙でした。

 世の中ごとにタイミングを合わせることで、生活者が今まさに感じていることとの距離感が近くなり共感を得られやすくなったのです。

Oisix ECサイトより引用

かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。

いいパパって、なんだろう。拝啓 野原ひろし様

 このように、高いエンゲージメントを獲得する広告・PR施策のフォーマットは多様化してきています。共通項は、いずれもTwitterが軸となるケースが多いことです。世代を問わず定着してきたTwitterという世界において、ネタ元となるコンテンツのフォーマットが何であろうと、タイムラインに流れてくる際は動画、画像、テキストのいずれかの形式です。

 大規模な広告出稿があれば着火点は増やせるものの、それだけでエンゲージメントはしません。大事なのはコンテンツ接触した人に対して、そのコンテンツに反応したい・コメントしたい・広げたいと感じてもらう=「共感」してもらうこと。

 Twitter上で初期の情報接触をする機会が増えている現代において、「どうしたら共感・エンゲージメントしてもらえるか?」を追求し、人を介した質の高い2次リーチを広げようとする視点はますます重要度を増しています。

今後の鍵は「親近感」と「即時性」

 ランキングの2位、7位に単発のツイートが入っていることからもわかる通り、ラグビーワールドカップのソーシャルメディアを使ったPR戦略は非常に効果的でした。ワールドカップイヤーに「にわか」ファンを急速に増やすためにも、ソーシャルメディアを重視していたのでしょう。

 その中枢に位置していたのが発信源となるラグビーワールドカップのTwitter公式アカウントです。ラグビー経験者やコアファンしか付いていけない閉じた内容に偏らないよう、「にわか」ファンが反応しやすい文脈での発信に努めていたのがわかります。

 日本代表の躍進とソーシャルメディアを使ったPR戦略が相まったことで、「にわか」ファンを優良な「にわか」ファンに引き上げることに成功したと言えます。

 筆者の考えるキーワードは「親近感」と「即時性」です。ベスト10にランクインしている事例も交えて紹介します。

 まず「親近感」。たとえば、2位に入っている投稿は、台風の影響で試合が中止となったカナダ代表が開催地の岩手県・釜石にそのまま残りボランティア活動を行ったというもの。これが感動・感謝を呼び、高いエンゲージメントを記録しました。

 他にも、悪質なタックルをしてしまった相手選手に試合後、謝罪し仲直りするといったノーサイドの精神を体現する様子や、サポーター同士でジャージーの交換をするシーンなど、人間らしさ・ラグビーに関わる人の温かみをリアルに切り取った投稿を多数行っています。こういった選手たちに共感できる内容の数々が「親近感」を与えています。

 もし、ラグビーの専門用語を交えたマニアックな発信ばかりだった場合、「にわか」ファンたちは置いてきぼりにされていたでしょう。こういった発信の数々が、テレビ越しに見るラグビー選手の試合中の顔に限らず、人としての「親近感」を与えることに一役買っています。

 もう一つは「即時性」。試合後の選手・会場・サポーターの様子まで含め、膨大な量の投稿が驚くべきスピードで即時アップされ続けている点です。この「即時性」がテレビで試合を見ながら同時にスマホでTwitterを見るという、視聴行動をする人々にタイムリーに届くことになります。

 公式アカウントはどこよりも早く、誰よりも詳しい現場の様子をレポートしてくれるというイメージが定着すると、公式アカウントの情報をRTして試合の感想を発信しようと思っている人々にとって、フォローする理由作りにもつながっていきます。

 公式アカウントを中心とした「親近感」あるコミュニティのフォロワーは、優良な情報拡散の味方となっていきます。たとえば、距離感の近い会社の仲間や付き合いの深い友達がSNS上で何らか告知をした場合、無条件で「いいね!」するような感覚です。

 前述の通り、元ネタのフォーマットに左右されずTwitterで情報が広がっていきやすい現代の情報環境を踏まえると、公式アカウントが「親近感」あるコミュニティのフォロワーを構築できているかどうかは今後の情報発信において非常に大きな差となってきます。

 ラグビーワールドカップは今大会の成功だけでなく、今後の情報流通ネットワークの土台作りとしても大きな資産を得たのではないでしょうか。

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プレゼントキャンペーンもランキング化、見えたトレンドは?

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この記事の著者

森竹 アル(モリタケ アル)

 スパイスボックス 取締役副社長 事業統括責任者。2006年にスパイスボックス入社。プロデューサーとして大手自動車メーカー、食品メーカー、ゲーム会社等のデジタルマーケティングを支援。2013年、プロデュース局局長就任。すべてのクライアントワークを統括。2016年以降は、ソーシャルメディアを中心に「共感」と「話題」を...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/24 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32588

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