参照されたくない情報でも利用を受け入れてもらう方法は?
安西氏は今回の調査で最も興味深かったものとして、「参照される情報の効用値」を挙げた。
この効用値は、企業のお知らせやプロモーションに関わる事柄を「情報の参照元」「個人情報」「行動履歴」「購買履歴」「受け取る内容」「受け取るタイミング」「受け取る方法」「位置情報」のカテゴリーに分け、その中の細かな項目が消費者にポジティブに作用するか、ネガティブに作用するかをそれぞれプラス、マイナスの数値で示したものだ。

この中から、データの参照元、受け取る内容やタイミング、その方法を組み合わせたとき、その効用値を足していき最終的にプラスになれば、そのプロモーションやお知らせが消費者にとってポジティブに作用すると考えられる。
たとえば、「受け取る内容」が「セールなどの催事案内」のとき。単体で効用値は+0.74になるが、参照される情報によって消費者がどう感じるかは変わってくるということだ。

「実店舗での購入履歴」が参照され、「周辺情報を検索しているとき」に「メールにて」受け取る場合、効用値は合計で+1.84となりポジティブに作用する。
一方、「電子決済、QRコード決済の履歴」を参照され、「ボーナス支給や旅行シーズンの前に」、「チャット(スマホ)」で受け取る場合、合計-0.09となりネガティブに働く。
また、効用値の合計が最終的にプラスになれば、消費者に対してポジティブに作用するという考え方からは、「受け取る内容」を軸にした上記の例とは別の可能性も見えてくる。
それは、効用値がマイナスとなる情報を参照していても、プロモーションの内容やタイミング、方法の組み合わせによって合計の効用値がプラスになれば、ポジティブに作用するという可能性だ。つまり、「参照しないでほしい」と思われるデータであっても、結果として受け取れるプロモーションが適切なら好意的に受け入れてもらえる可能性もあるのだ。
中津氏は、多種多様なデータを一人に紐づけることが技術的に可能になったことを踏まえつつ、「組み合わせ方次第、内容次第、タイミング次第という結果が得られたことに、マーケターの仕事の負担は非常に大きくなっていると感じた。企業側としては腕の見せ所だと思う」と述べた。
データは誰のもの? 企業が把握すべき大前提
中津氏はその一方で、プライベート性の高い情報を参照元にされることや、リアルタイムの行動把握に基づく企業の提案に、消費者がネガティブな印象を持つケースが多いことから「程よいお客様との距離感というのが、デジタル上のコミュニケーションにおいても重要になってくる」とも語った。
安西氏は、データはパーミッションを取り、センシティブに扱う必要があると述べたうえで、「最終的に体験が非常に良いものになるのであれば、必ずしもデータの項目ごとに良し悪しを決められることではない」と述べ、「このコミュニケーションには使えるけど、このコミュニケーションには使っていけないというデータもやはり出てくる。いずれにせよ0と1の世界ではない」と説明した。
また安西氏はこの調査全体を通して、「コミュニケーションの方法や届ける内容が顧客体験と強く紐づいていることが改めてわかった」と言う。企業がパーミッションを取って活用するという前提の上で、「きちんとお客様のためにこれらの情報を使ってコミュニケーションしていくという本来の形が改めて見えてきた調査だった」と振り返った。
また中津氏も、「データは一律に取り扱えないものということがよくわかった」と振り返る。「データは、パーミッションをとってお預かりしても、企業の資産ではなく、やはりお客様一人ひとりの資産であることを、マーケティングをする人が肝に銘じなければならない。資産をお借りして、お客様とのコミュニケーション、顧客体験というものをお返ししていくという姿勢が大切だ」と述べた。
これを受け安西氏は、CXM(顧客体験管理)を標榜する立場からデータの管理について、「いつまで使っていいのか、何に使っていいのか、誰がアクセスできるのか、といったことをきちんと管理する必要がある」と述べた。さらに、「あくまでお客様のものであるという意識を持ったうえで、お客様の体験に返すために使うことを前提にCXMを進めていきたい」という意識を表明した。