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肌撮影率20%向上!ART DMPで実現したドコモのヘルスケアアプリ「FACE LOG」のグロース

 データを蓄積・活用することで価値が生まれていくアプリにおいて、継続利用者のボリュームは重要な要素の一つだ。NTTドコモのヘルスケアアプリ「FACE LOG」は、D2C RのプライベートDMP「ART DMP」を使って離脱ユーザーにリテンション広告を配信し、肌撮影率を約20%向上。現在は、継続率の高い人に似たユーザーへの拡張配信も実施し、質の高いユーザー獲得につなげているという。担当者3名に取り組みの背景とその狙い、成果について取材した。

肌や美容をきっかけに健康増進を目指す「FACE LOG」

――今回は、「FACE LOG」アプリを担当されているNTTドコモの杉井さん、また同アプリのリテンション施策で活用した「ART DMP」を提供するD2C Rの星野さん、鈴木さんにお話をうかがいます。まず杉井さん、アプリの概要を教えてください。

杉井:「FACE LOG」は2019年6月にiOSでリリースした、若年層をターゲットとするヘルスケアアプリです。スマホのカメラで肌を撮影すると、肌年齢や毛穴など6つの項目を解析します。併せて肌への効果が期待できる生活習慣を提案して、実際に行動した後の変化をわかりやすく提示しています。アプリの利用が習慣になるように、ストレッチやツボ押しといった健康増進につながる行動の促進プログラムを設けたりもしています。

――御社は数年前から、ヘルスケア領域に力を入れていますよね。

杉井:はい、当社は企業理念に「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」と掲げていまして、それを目指す上では、コミュニケーションを取る主体である生活者の皆さんが健康であることが大前提です。加えて、5G時代を見据えると映像通信が格段に容易になり、遠隔医療などの切り口でも当社が支援できる余地があります。そこで数年前からヘルスケア領域に注力して、歩数がdポイントになる「dヘルスケア」や、「おくすり手帳Link」「母子健康手帳アプリ」などのサービスを展開してきました。

 その中で、若年層をターゲットとするサービスがなかったので、「FACE LOG」開発に至りました。肌状態を良くすることが目的というよりは、肌や美容をきっかけに健康増進へとつなげることを意識しています

NTTドコモ スマートライフ推進部 ヘルスケア事業 ヘルスケアビジネス担当 杉井粋乃氏
NTTドコモ スマートライフ推進部 ヘルスケア事業 ヘルスケアビジネス担当 杉井粋乃氏

「肌撮影の方法が伝わっていないのでは」という課題

――リリース時の反響と、その後に見えてきた課題をうかがえますか?

杉井:昨年リリース時の反響は大きく、App Storeのヘルスケア&フィットネス領域でランキング1位を獲得しました。それ以降も広告とオーガニックの両面で新規獲得には手応えがあった一方で、継続率は想定よりも低い状況でした。そこでD2C RさんのART DMPを活用して、リテンション施策に着手したんです。

 ユーザーに長期的に利用・記録してもらうことで、より高い価値を提供できるアプリなので、継続率は重要な要素です。アプリの特徴上、インストール時に肌撮影とdアカウントの初回ログインを促すのですが、それを経て2回目、3回目撮影に進んで習慣化してもらいたいと考えました。

――ではD2C Rの星野さん、ART DMPの特徴と、ユーザー分析をしてみてわかったことを教えてください。

星野:ART DMPは導入企業のエンドユーザーのアプリの利用データを蓄積・分析できるプライベートDMPで、当社はそこで発見した課題に対して効果的な広告クリエイティブを制作し、主要なプラットフォームへの配信までを一気通貫で支援しています。

 つまり、ART DMPを用いて広告配信することで、「ユーザーの課題に合わせた適切なコミュニケーション」をとることが可能となります。

D2C R メディア本部 データマーケティングチーム 星野いずみ氏
D2C R メディア本部 データマーケティングチーム 星野いずみ氏

 私は主にART DMPでリテンション施策のプランニングをしているのですが、「FACE LOG」のユーザーデータをART DMPに蓄積して利用状況を見てみると、50%以上の方がインストール当日に肌撮影するものの、翌日以降の撮影率はまだまだ改善できそうな状況でした。そこで定性インタビューなども交えてユーザーの心理を分析したところ、「肌撮影の方法が十分に理解されていないのでは」という仮説が浮かび上がりました。

ユーザーの緻密な心理分析から仮説を抽出

――FACE LOGでの肌撮影には、何か特別な技術が必要なのでしょうか?

杉井:いえ、撮影自体はアプリを起動してカメラを向ければ自動で撮影されるので、かなり簡単です。ただ、インカメラで撮る自撮りと違い、より精度の高い解析を実現するために背面カメラを使います。撮影方法はアプリストアでも、アプリ内チュートリアルでも解説しているのですが、自分自身を撮影する=インカメラを使うという認識が根強いことから、撮影の際に躓かれてしまうユーザー様も多かったのかもしれません。

――なるほど。定性調査も行ったとのことですが、ユーザーからは、たとえばどのような意見があったのでしょうか?

星野:初回に撮影をしたけれど次に進まなかったユーザーや撮影に成功していないユーザーからは、「最初の撮影に手間取った」という声が複数聞かれていました。このネックになっている課題を解消すると同時に、継続的に利用するとどのようなメリットがあるかをもっと訴求すれば、継続利用に結び付くのではと考えました。

――では、実際に配信したターゲットとクリエイティブについてうかがえますか?

星野:ターゲットは「インストール後、まだ一回も撮影をしていない人」とし、そこから動画広告を配信するユーザー群と、配信しないユーザー群をランダムに抽出して、Facebookと、Instagramのタイムラインとストーリーズで配信しました。

FACE LOGで上手に撮影する方法編

 クリエイティブは3種類で、前述の「肌撮影の方法が十分に理解されていないのでは」という仮説を基に制作した、撮影方法のステップをイラストのアニメーションで紹介する動画のほか、肌チェックの大切さにフォーカスした動画、使用シーンを紹介した動画を制作しました。

広告を配信したターゲットは肌撮影率20%増

――リテンション広告を配信した結果は、どうでしたか?

星野:配信したユーザー群は、対照群と比較してその後の肌撮影率が20%向上しました。3種類のクリエイティブは、肌撮影率という観点ではそこまで差がありませんでしたが、クリック率がいちばん高かったのはやはり撮影方法を解説する動画でした。撮影方法が十分に伝わっていないのでは、という仮説が正しかったこと、またそれをしっかり解決できる内容になっていたことで、高い効果が得られたのだろうと思います。

鈴木:肌撮影をまだできていない人を対象に、「なぜ撮影していないのか?」というボトルネックの分析をしっかり行えたので、最適なコミュニケーション設計とクリエイティブ制作ができ、手応えがありましたね。

D2C R 営業本部 鈴木耕平氏
D2C R 営業本部 鈴木耕平氏

――仮説の精度が高かったから、続くプロセスでも方針がぶれずに高い効果が上げられたということですね。

鈴木:そうですね。この施策で得られた知見を踏まえて、たとえば「肌撮影をしたことがあるが離れてしまった人」に対してなど、今はもう少し違うセグメントを切り出して広告を最適化し、配信している最中です。

オーディエンス拡張配信で質の高い新規を獲得

――次なる取り組みも進められているのですね。セグメント違いのリテンション施策のほかには?

鈴木:リテンションと並行して注力しているのが、拡張配信による新規獲得です。ART DMPはリテンションだけでなく、新規獲得も得意としていて、オーディエンス拡張に基づく配信もこれまでの実績でかなり精度高く行えるようにブラッシュアップしています。

 先ほど杉井さんが言われたように、「FACE LOG」は元々一定の新規流入がある状態でしたが、既に長く続けてくれているユーザー分析をベースにした拡張配信の場合、獲得してからの継続率に差が出ます。属性などで区切って広く配信するよりも、続けてくれる人に似ているターゲットに配信するほうが、獲得してから高い継続が見込めます

――新規獲得の配信の時点で、質の高いユーザーを狙えるということですよね。

鈴木:はい。リテンションで効果が上がると、ART DMPに良質なユーザーのデータが蓄積でき、その分析も深められて新規獲得にも生かせる……というサイクルがうまく回るように今取り組んでいるところです。

杉井:リテンションと新規を別個の施策ではなく、包括的に考えて両輪で回していくことで、長い目で見て成果を最大化できるのだなと実感しました。

DMPを中心にPDCAを回して、ユーザーの量と質を追求

――とてもうまくグロースできているようにお見受けしますが、現在の課題は?

杉井:前述のように、ユーザーの質という点では手応えがあるのですが、とはいえ現時点で大きな母数があるアプリではないので、拡張配信のようにセグメントしていくと獲得件数のボリュームを追えないのが課題ですね。ユーザーの量という点では、やはり広くターゲティングした配信での獲得のほうが多いので、量と質の両方を担保するのが次の課題です。

――では、今後の展望をうかがえますか?

鈴木:まさに杉井さんが指摘された、ユーザーの量と質の両方を追求することですね。一定のボリュームを満たしつつ、そのユーザーの継続率も高いという状況をどう実現できるか、ART DMP内でPDCAを回しながら取り組んでいます。また、ART DMPは今回のような非ゲーム系アプリ、ゲーム系アプリを問わず様々な業界の企業に活用いただけるので、引き続き好例を挙げていきたいです。

星野:リテンションを担当している私としては、休眠ユーザーの心理やボトルネックも状況によって多様だと思うので、もっと掘り下げて効果の高い施策につなげていきたいです。同時に、精緻なユーザー分析から広告クリエイティブまでを一貫して担えるのは当社の強みなので、より多くの企業をご支援できればと思います。

杉井:「FACE LOG」は、今回の一連のノウハウを投入して、より多くのユーザーの方に使っていただいて価値を還元していきます。またドコモとしては、他のヘルスケアアプリや今後予定している企業健康診断のデータなどとも連携して、企業や医療機関などとも分析・活用できるように構想しているので、「FACE LOG」もその一助にしていきたいですね。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/02/20 10:00 https://markezine.jp/article/detail/32808