これまでの振り返り
第1回から第3回にかけて、SaaS事業が部分最適に陥ってしまう構造と解決に導くための視点、さらにはその視点を満たす「パーセプションフロー・モデル」(※)に基づく目標設定について解説してきた(※クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏が考案した、マーケティングの全体設計図)。
最終回となる本稿では、そのパーセプションフロー・モデルの構築と運用を通じて、実際にSaaS事業における全体最適を導いているUniposにおける事例を紹介する(同社は、筆者の所属するFringe81の子会社で、同名のSaaS事業を運営する会社)。
本稿はこれまでの連載と打って変わって、高い具体性を持った事例として紹介することを心がけたつもりだ。しかし、可能であれば単なるテクニックの模倣に留まらず、第1回から第3回までの概論と照らし合わせてご覧いただくことで、SaaS事業者の方々が抱える問題を根本解決する一助となれば大変幸いである(過去回はこちら)。
Uniposの事業概要とパーセプションフロー・モデル
ご存じない方も多いと思うので、まずは簡単にUniposの概要や直近の事業状況について紹介したい。サービスについて既にご存知の方は、次ページの「パーセプションフロー・モデルに基づくSalesforce設計」まで読み飛ばしていただいて構わない。
Uniposは、従業員同士がお互いの仕事や貢献に対して、感謝の言葉とともにピアボーナス(R)をWeb上で送りあえるSaaSだ。Uniposの画面上に、従業員が互いに伝えあった感謝・称賛の言葉がフィード形式で流れることで、これまで見えづらかった日々の貢献が可視化される。同時に、単なるプロダクトの提供に留まらず、必要に応じて組織改革プロジェクトを推進するためのサポートまで提供している。
ただこれは第2回の内容に照らし合わせると、単なる「機能」、つまりUniposができることに過ぎない。この「機能」を通じて顧客が得たい「ベネフィット」は何かが重要であることは述べた通りだ。Uniposの場合、貢献の見える化と組織改革サポートという機能によって、「メンバーのモチベーション向上」「部署間の連携強化」「行動指針・バリューの浸透」という3つの組織課題を解決できることが、現在顧客から実感されているベネフィットだという。
また直近の事業状況としては、99%を超える高水準の継続率(※)を保ちながら、YonYでアカウント数を2倍に増加させている(直近のFringe81のIR資料を参照)。
※サービス開始から該当決算までの期間の解約実績と、該当決算時の「アカウント数」をもとに計算される、「月ごと」の継続率を指す。
Uniposが元来高い継続率を維持できていたのは、人間中心設計(Human Centered Design)の方針の下で一貫してプロダクト開発を進めていたこと、また社内でもUniposの活用を通じて活発なコミュニケーションがなされ、組織間の距離が近かったことが挙げられる。
そのような土壌に加えて、パーセプションフロー・モデルに基づく目標設定と顧客管理(※)が組み合わさることで組織の協働がより強く促進され、継続率を維持しながら全体の事業成長を実現できたといえるだろう。
※FY2019 4Q(2019年1月)にモデル構築を行い、FY2020 1Q(2019年4月)より本格運用を開始
下記が実際にUniposで構築したパーセプションフロー・モデルだ。未公開情報も含んでいることからマスキングせざるを得なかったが、第3回で解説したときと同様、その構造に着目していただきたい。解説の通り、行動とパーセプションがセットとして描かれ、パーセプション変化に必要な知覚刺激を設計した後に各チームの施策に落とし込まれている。
Uniposの場合、担当領域を「PR」「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」「プロダクト」と分類しているが、プロダクトも認識変化をもたらす知覚刺激を届ける1つの手段として捉えていることが特徴だ。こういった考え方により、顧客にベネフィットを継続的に提供し、それによってLTVを向上させるための動きを常に各チームから引き出せるようになる。