「自撮りは苦手?」変化するInstagramのユーザー層
――前編では、「カーネルカメラ」の企画概要と日本KFCさんのInstagramマーケティング戦略をご紹介いただきました。後編は、企画の際に重視したポイントから教えてください。
インタビューにお答えいただいた方
日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社 平野まりな氏
博報堂 吉原優氏 ※日本KFCのデジタル広告、SNS運用を担当
トーチライト 灰田直史氏 ※カーネルカメラを制作
Facebook Japan 服部タカユキ氏 ※エージェンシーのクリエイティブ支援
平野:私たちはInstagramを、お客様へ「ありがとう」を伝え、企業とつながっていることを表現する場だと考え、運用しています。今回のカーネルカメラも、日本KFCが50周年記念を迎える年に、新しくておもしろいことに挑戦したい、あらゆる人に使っていただきたいと企画しました。
企画にあたっては、フォロワーのインサイトを最優先に考えるようにしました。「〇〇映え」が流行ったように、Instagramは、若年層がキラキラとした世界観を作っているイメージが強いですよね。しかし、KFCアカウント(@kfc_japan)のフォロワーは、20代から40代と幅広いため「自撮りは苦手」「恥ずかしい」という気持ちがあるのではないかと考えたのです。
平野:まずは、日頃からケンタッキーを応援してくださっているフォロワーの方の気持ちをくみ取りつつ、フォロワー以外の方にも「ケンタッキーがおもしろいことをしている」と楽しんでいただけることを目指しました。
服部:日本のInstagram月間アクティブアカウント数は3,300万を超えており、今では幅広い世代に利用していただいているプラットフォームになりました。また、男女比もほぼ半分くらいになっています。Instagramは、キラキラした特別な写真だけが集まっているだけではなく、様々な人たちが、日常的に利用しているんです。平野さんたちが着目されたユーザーインサイトは素晴らしいですし、他のマーケターの皆様にも商材やターゲット属性問わず Instagramが役立てられる機会があることを理解してもらえたらと思います。
360度カメラでカーネルの像を撮影
――続いては、トーチライトの灰田さんにARエフェクトの制作をうかがいます。どのように進められたのでしょうか。
灰田:ARエフェクトの制作では、平野さんたちが考えた企画を実現する“技術検証”のプロセスに、時間をかけました。特にアウトカメラのカーネルのエフェクト制作は、慎重に進めましたね。日本で50年の歴史を持つブランドのキャラクターですから、チープなARにならないように表現したかったのです。一方で、リアルに作りすぎてもInstagram ARの規定容量をオーバーしてしまう可能性もあり、何度も検証を重ねました。
――思っていた以上に、表現のハードルが高い企画だったのですね。
灰田:はい。CGを使うことなども検討したのですが、今回は、店頭に立っているリアルなカーネル立像をスタジオに持ち込み、360度カメラで撮影する方法を採用しました。実際に撮影し3D化されたカーネルおじさんを確認するときが一番ドキドキしましたが、この部分をクリアした後は、Facebookさんの「Spark AR」を使ってスムーズに制作できました。
吉原:実は「空間にカーネルを置くだけのエフェクトではユーザーは使ってくれないのではないか」「カーネルに動きをつけたほうがおもしろいのではないか」といった議論もありました。そういった、企画の段階で出た様々な疑問やアイデアについて、何度も灰田さんに相談にのってもらいましたよね。
灰田:はい、吉原さんからの相談を受け、動きを入れる制作方法を検証してみました。そのためにはカーネルおじさんの3D化の方法に変更が必要なことや、制作費用も高くなりそうなことをお伝えしました。今回の目的はお客様に楽しんでいただき、ブランドの世界観を伝えること。この元でクリエイティビティと実現性の両方を加味しながら、取り得る方向性を洗い出し、企画を落とし込んでいきました。
“ストーリーズのナッジ理論”に則りAR体験からフォローへつなげる
――では、リリース時の周知施策についても教えてください。今回はストーリーズへの広告出稿も行われたそうですね。
平野:はい。やはりストーリーズは認知が高いですし、「Instagramを日常的に使っている流れの中で、カーネルカメラを知っていただきたい」と考えました。また、フィードからはARエフェクトのURLに直接遷移できないため、ユーザビリティの観点からもストーリーズが良いのではないかと考えました。
広告は、3パターンを用意しました。そのうち2つは、インカメラとアウトカメラそれぞれのエフェクトを、簡単に説明した内容です。もう1つは、カーネル立像を360度カメラで撮影する様子の記録動画を活用し、エフェクト制作の裏側を広告にしました。それぞれのクリエイティブの終わりには、「ここからスワイプしてARをチェック」のような表現を入れ、直接ARエフェクトの画面へユーザーを誘導しました。広告からよりクイックにARエフェクトを楽しんでもらう工夫です。
吉原:ストーリーズ広告の目的は、認知拡大はもちろんのこと、日本KFC様のARエフェクトをどのように楽しめばいいのかということをユーザーの皆さんへお伝えすることでした。InstagramのARエフェクトを使い慣れていない方を想定し、広告クリエイティブの中でより詳しくカーネルカメラの使い方をお伝えすることも意識しました。
服部:今回のストーリーズ広告の活用は、Instagramの特性を掴んでいると思います。ARエフェクトを広告経由で知り、楽しみ、アカウントをフォローする流れを、私たちはナッジ理論に基づいて「ストーリーズのナッジ」と呼んでいるのですが、この流れと完全にマッチしているのです。“おもしろいモノがあるよ”と肘で突くように相手の関心を呼び起こし、行動を促すイメージですね。
SNSやメディアへ話題が広がる効果も
――Instagram以外の露出やPRは、行いましたか。
平野:来店につながる、カーネルカメラを使ったキャンペーンを考えていました。カーネル立像のエフェクトと商品を一緒に撮影して投稿すると、プレゼントが当たる内容を設計していましたが、コロナの影響もあり、参加型のキャンペーンは見送っています。
その一方で、他のSNSへの波及効果を狙うようにしました。たとえばTwitterに「この写真はどうやって撮影したのでしょう?」というテキストとともに、アウトカメラのエフェクトと商品を一緒に撮影した写真を投稿してみたのです。すると様々な予想が出てきて盛り上がり、「精巧なフィギュアなのでは?」の声もありました。その後「実はInstagramのARエフェクトです」と種明かしをして、使い方のプロセスも発信したところ、その日のカーネルカメラの利用数が上がっていました。
吉原: ユーザーによる投稿を見ると「カーネルが変なところにいる!」「ケンタッキーを食べていたらカーネルに邪魔された」のように、「ものボケ」をしてくれている様子がうかがえました。想定していた通り、皆さん思い思いの方法で楽しんでくださっているようです。
平野:さらに、多くのメディアでも取り上げられ、幅広い層にカーネルカメラを知っていただけたので、とても良かったと思います。
フォロワー増加数が通常時の4倍になった時期も
――今回はどのようなKPIを設計されていたのでしょうか。
平野:KPIは、公式Instagramのフォロワー数とカメラを使った人数です。カーネルカメラのリリース後は、通常時の平均フォロワー増加数よりも、4倍伸びた時期がありました。
吉原:ARエフェクトの画面に直接誘導する広告の配信は、私たちとしても初めてのチャレンジでした。フォロワーを集める目的で広告を配信していないにもかかわらず、ユーザーがARエフェクトを使った結果として公式Instagramもフォローしてくれたという点は、とてもおもしろい知見であると思っています。
――KPIに、エフェクトを撮影した写真の投稿数が含まれないのは意外です。何か理由があるのでしょうか。
平野:そうなんです。カーネルカメラの企画設計でもお話しましたが、やはり自分の写真の投稿に、抵抗をお持ちの方も多いですし、フィードにいつもと違う投稿をしたくないと考える方もいらっしゃいます。ですから、投稿数はKPIに設計していません。実際に、Instagram内を #カーネルカメラで検索しても、あまり写真は出てこないのです。しかしカメラの利用数をみると、皆さんのカメラロールにカーネルとの写真がある状態を作れているのではないかと思います。
ファンと企業の新しいコミュニケーションを生むARエフェクト
――最後に、今後の展望をお聞かせください。Instagram やARエフェクトでどのようなことにチャレンジしていきたいですか。
平野:カーネルカメラの成功は、しっかりとコミュニケーションが取れるチームがあったからこそだと思います。吉原さん、灰田さんをはじめとした皆さんが、ケンタッキーのブランディングのポイントを深く理解してくださったことで、ユニークなエフェクトが完成しました。今回はコロナ禍で実施を見送りましたが、カメラを使った投稿キャンペーンでお客様からどのような反応をいただけるのか、ぜひチャレンジしてみたいですね。
Instagramのアカウントについては、まず現状のフォロワーを大切に運用を続けていきます。そして若年層のフォロワーのボリュームをもう少し増やせるよう、KFCを身近に感じてもらえるコミュニケーションをしていきたいですね。
最後にブランドとしては、引き続きアプリやSNSを活用し、ハレの日のごちそうだけではなく、普段の暮らしの中でケンタッキーを選んでいただけるような訴求を行いたいと思います。
灰田:企業にとって、SNSアカウントを通じたユーザーとのコミュニケーションはますます重要になっています。このような中で、ARはアカウントを活性化する効果的な施策のひとつとなり得るでしょうし、画像や動画と同じように当たり前のクリエイティブ表現になっていくのでは、とカーネルカメラの制作を通して感じました。
今回のプロジェクトを受け、弊社ではAR制作チームを結成しました。今後も進化するSpark AR のポテンシャルをすべて活用していきたいと思います。また、博報堂DYグループ内でも協働し、プロモーションまでを含め、企業のAR活用を支援する体制を整えています。
吉原:Instagram ARエフェクトは、お客様が能動的にブランドと関わりをもってくださる、新しい広告ツールの形だと思っています。このツールによって、お客様には楽しい体験をしていただけるだけでなく、その体験を通して企業とコミュニケーションをとっていただくことも可能となります。そんな、お客様と企業が一緒にブランドを創り上げていくためのツールの一つとして、今後もARエフェクトのご提案を進めていきたいと考えています。
服部:カーネルカメラは、生活者のインサイトや行動の深い理解に基づいていて、そしてSpark ARやInstagramの提供価値や機能を有効に活用しているキャンペーンだと感じました。今回のような我々が想像していた以上の素晴らしい取組を今後もマーケティング業界に拡げていけるよう、使い方のヒントもご案内できるように取り組んでまいります。
InstagramではARを活用した広告プロダクトなど新しい機能の開発も進めており、これからもできることがもっと増えていくプロダクトです。ぜひ「大切な人や大好きなことと、あなたを近づける」コミュニケーションプラットフォームを、企業のマーケティングに活用いただきたいと思います。
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