真のDXはUXから始まる
今回紹介する書籍は、『アフターデジタル2 UXと自由』。著者は、ビービットの藤井保文氏です。
この本はビービットの藤井保文氏と小原和啓氏が共著で出版した『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP社)の、第2弾として書かれたもの。第1弾より実践的でより自社のビジネスに転用できる内容にパワーアップ。藤井氏は、東京大学大学院を卒業後、ビービットに入社。台北や上海支社に勤務したのち、現在は現地の日系クライアントに対しUX志向のDXを支援しています。
ニューノーマル時代に突入し、DXが声高に叫ばれるようになり、各企業も競うかのようにDXの専門組織などを立ち上げ、積極的にDXを推進しています。しかし、藤井氏は真のDXはUXなしに成り立つものではないと語ります。真のDXの目的とはなんなのでしょうか、なぜUXが必要なのでしょうか?
「完全なるオフライン」がない世界がやってくる
コロナ禍を通じて、オフラインだった行動の多くがオンラインに代替されつつあります。その一例として、キャッシュレス決済やフードデリバリーサービスなどが挙げられます。藤井氏はオンラインのサービスがもっと世に浸透していくと、「純粋なオフライン」の状況というものはどんどんと減少していくと言います。
スマホやアプリだけでなく、IoTなどを使い、リアルと融合し、オンラインの接点が増加していくためです。今の日本でのDXはリアルを中心としながらデジタルを活用して付加価値を高めていく、と捉えられていることが大半です。しかし、アフターデジタルの世界においては、リアルがオンラインの中に内包されていきます。藤井氏は「リアルとデジタルの主従関係を、逆にして考えていかなければならない」と同書の中で述べています。
けれども、リアルが重要ではなくなるわけではありません。リアルが得意なこととデジタルが得意なことはまったく異なるからです。感動的な体験や信頼の獲得などはリアルのほうが得意な領域です。リアルな接点は「今までよりも重要な役割を持つが、頻度はレアになる」と考え「オンラインリアル」だと捉えることが重要だと言います。
属性データから行動データの時代へ
アフターデジタルの最も大きな変化が、属性データから行動データへの変化だと藤井氏は言います。顧客を「人」単位で大雑把に捉えていた属性データに対し、行動データでは人を「状況」単位で捉えることができます。すると、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション方法で提供することができます。これはビジネスにおける大きな転換点だといいます。
アフターデジタルでは「どういった状況でどのくらいお金が使われるのか」に注目することが大切です。ユーザーの置かれた状況を把握してそれに対する解決策や便益を提供し、ユーザーとの接点を高頻度に保つことが顧客への価値提供の大前提となってきます。
こういったアフターデジタル社会で成功する企業が共通して持つ思考法が、OMO(Online Merges with Offline)だと言います。オンラインとオフラインを分けるのではなく、一体の「ジャーニー」として捉えるという考え方です。ここでのジャーニーとは、人の行動・思考・感情などを見える化したものを指します。オフラインの体験・サービスが少なくなり始めている環境では、顧客はもはやオンラインかどうかの区別を意識していません。そのとき一番便利な方法を選んでいるだけといえます。だからこそUXが重要になってくるのです。
本書では、人間の状況・行動をベースにデジタル・リアルを区別することなく、デジタル世界にどうリアルを溶け込ませていくのか、というDXの本質がわかる本です。多くの海外の事例やフレームワークを使って体系的に理解できます。
DXを推進していこうと考えている方や、自社のデータ活用に取り組みたい方、新規事業を立ち上げようと考えてる方には特にお薦めの書籍です。DX・UXなどがバズワードになりつつある今だからこそ、本書を通していち早く両ワードの本質を理解し、今後のデジタルとの付き合い方などを見直してみるのはいかがでしょうか。