危機の時代、マーケティングの変化と進化とは
11月6日(金)日本時間午前9時に幕を開けたeWMS(ワールド マーケティング サミット オンライン)。スピーカー約80名が、世界100ヵ国以上、60万人を数える視聴者に向けて配信した。
フィリップ・コトラー氏は、1970年代からマーケティングによる社会課題解決を提唱してきた第一人者。講演に先立つビデオメッセージでは「ポストコロナのためのアイデアを発表し、持続性に挑戦していく。これがマーケティングに携わる人の教育、刺激、リーダーシップとなり、世の中の幸福や利益に貢献する。より多くの人のためにより良い世界を実現しよう」と呼びかけた。
コロナ時代のマーケティングとマーケティング5.0
これまでマズローの法則に基づくマーケティング進化を定義してきたコトラー氏。講演の冒頭、「社会を良くするブランドを作り支持する、ブランドアクティビズムが活発化している。マーケティング4.0はまもなく5.0に進化するだろう」と語った(※『Marketing 5.0: Technology for Humanity』が2021年2月に刊行予定)。続いてコトラー氏はコロナ時代のマーケティングを検討するための3つの質問を提示した。
・消費者と企業は新しい状況、ルールにどう反応しているか
・完全な経済復興に向けて各国はどれくらいの速度で動いているか
・資本主義システムとマーケティング活動はパンデミックによりどのような影響を受けるか
最初に示されたのは、新型コロナウイルスの影響を表す統計データだ。死者数は全世界で100万人に達し、そのうち約20%は米国での死者だった。またパンデミックにともなう飢餓、マラリアやエイズなどのワクチン接種の未実施が深刻化している。さらに一時期は改善していた貧困や教育の疎外が再び増加するなど、「数字では計り知れない『寂しさ』『悲しみ』の社会コストが増大している」と警告した。
国家、企業、個人の対応:明らかになる脆さ
コトラー氏は次に、国家から企業、個人まで様々なレベルにおける新型コロナウイルス対応を俯瞰した。まず企業の対応については、休暇や解雇による人員削減、割引やプロモーションによる値下げが見られた。コトラー氏は広告・マーケティングの削減にも触れたが、「私だったらメッセージは変えても、マーケティング予算は変えなかっただろう」と述べた。他にも、発注のキャンセル、対銀行・公共料金・サプライヤーへの支払い遅延による資金繰りといった、経営課題が浮き彫りになっている。
一方、消費者には、食料品や医療品の買いだめ、次に節約による大幅な消費減、店舗購入の激減とオンライン購入の激増といった行動の変化が見られた。また、政府の対応は人命と経済のどちらを優先するか、または中庸を選ぶか、各国により対応が分かれていた。
コトラー氏が特に強調したのは、パンデミックが露呈させた「脆さ」について。医療体制の不備や、グローバルなサプライチェーン依存による自国・地場の供給網の弱体化、貧困層のための「セーフティネット」の欠如、現預金が必要な層への銀行融資の機能不全も課題視されている。そして政府におけるリーダーシップ、人員配置、テクノロジー活用も不足している。