ABMで受注数が2倍に。取り組みでつまずいた点は?
『NewsPicks』をはじめ、複数事業を展開しているユーザベースグループで、「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」「SPEEDA EXPERT RESEARCH」のSaaS事業のマーケティング組織を統括している酒居氏。
1つ目のテーマは、酒居氏がサービス立ち上げ時から参画していた「FORCAS」のマーケティング体制構築について。「FORCAS」はABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の実践を支えるクラウドサービスであり、自らもABMに取り組み着実に導入企業数を伸ばしてきた。ABMとは簡単に言えば、成約確度が高い顧客をターゲットし、それに合わせて情報や組織を再編成し、ターゲットアカウント(企業)を開拓していく戦略であり、リード(人)ベースで進めるこれまでのマーケティングの考え方を逆転させた発想だ。
実は「FORCAS」でも立ち上げ当初からABMを行っていたわけではなく、「始めたこと自体が、失敗からの転機だった」と酒居氏は振り返る。マーケティング&インサイドセールス部門を立ち上げた頃は、製品は開発中で、単体のリードは持っていない状態からのスタートだった。そこではじめに、ホワイトペーパーを作成し配信したところ、一気にリードが増え、目標KPIとしていた商談数を毎月達成できるようになっていったという。
けれども、横にいるフィールドセールス部門は浮かない顔をしていた。商談数が増えて一人当たりの負担は増加しているのに、その労力に見合うような受注率に達していなかったのだ。その結果、お互いに理解し合えずにハレーションが起きてしまった。「この状況を変えてお互いのベクトルを揃えるためには、ABM実践を支援する『FORCAS』を提供する自分たち自身がABMをやるしかないと始めたのがきっかけでした」と酒居氏は明かした。
その時点でマーケティング部門を立ち上げて半年が経っており、ユーザーが増加し定量・定性データが取れるようになったことからも、アプローチすべき企業を選定したターゲットリストを作成し、ABMによるアプローチをかけていった。その過程でも、いくつかの壁にぶつかったそうだ。
最初の関門は、作成したターゲットリストに対する納得感をチームに浸透させることだった。ターゲットリストでは、ターゲットアカウント(顧客となりうる企業)をアプローチの優先順位に合わせて3つの段階「Tier(ティア)」に分類(図1)。それを全社で共有し、一気通貫したリレーションを形成していく。その一方で、リスト外にはアプローチをしないことになり、ターゲットリストの根拠を明確にしなければチームに不安が生まれてしまう。その考えから、「FORCAS」のマーケティング部門では、過去のリードをすべて出して分析を行った。それを見ると、全体平均と比べ最優先の企業群であるTier1、Tier2の商談数や受注数が明らかに高く、Tier外とTier1では、その差は数倍にもなった。この結果をもって、確証を持ってABMを進めることができたのだという。
KPI設計においては、初歩的な落とし穴もあったそうだ。
「はじめマーケティングチームはTier企業のリード数、インサイドセールスはTier企業の商談数、フィールドセールスはTier企業の受注数と決めてやったのですが、マーケは最初の月から目標200%超えで達成して手ごたえを感じたのに、受注数が以前と変わらなかったんです。でも、それもそのはず。1企業=1リードではなく、セミナーで集客した際には1企業に対し2~3人来ることがありますよね。そのことが抜けていたのです」(酒居氏)
しかし様々な課題を乗り越えながらABMを進めたところ受注数は2倍に増え、効果を実感する結果が出せたそうだ。