初期フェーズで店舗に力を入れた理由
西井:ミニマルは、立ち上げ当初は店舗運営に注力され、2019年からECをスタートされています。最初に店舗に力を入れた理由は?
山下:正直、売上の面を考えると、最初からECをやっておけば良かったと思っています(笑)。
しかし、なぜ最初に店舗に力を入れたのかというと、ブランド・エクイティという目に見えない価値を最上位に置きたかったからです。どのようなお客様が買ってくれて、どの商品が売れ筋で、何が求められているのかということを、直接顔を合わせてリアルな場で知りたかったのです。なので店頭で試食してもらって、どのような反応が来るのかお客様の表情を確かめながら、現場でPDCAを回していきました。

山下:実際、店頭で掴んだニーズから、現在のタグラインやブランドストーリーが生まれています。たとえば、創業1年目は「カカオラボ」と称して、カカオの濃度や苦さをアピールしていたのです。ところがそのようなチョコレートはあまり買ってもらえず、一番売れたのは、カカオが60~70%くらいの高濃度ですが、きちんと甘みのあるものでした。それを見て「お客様はカカオを食べたいのではなく、チョコレートを食べたいんだ」と気づき、コミュニケーションを変えていきました。
現在は、週に3~4日ほど様々な店舗をまたいで来店してくださるコアなファンが100~200人ほどいます。
西井:それはすごいですね。そのような中で、ECを開始したのはなぜでしょうか。
山下:ブランドのフェーズが進化したことが大きいです。最初は店舗の半径10km以内の限られた商圏にいる顧客をターゲットにしていました。ターゲットをかなりセグメントし、東京都内でも屈指の目の肥えた顧客群のいるエリアで商品のブラッシュアップをかけてPDCAをきちんと回すことで、世界で戦えるプロダクトクオリティへと高めることに注力していました。そのフェーズがある意味で終わり、いよいよWeb上で制約なく多くのお客様と接点をもっていくために、ECを始めることにしました。
店舗とECは購買体験が真逆
西井:ECを運営される中で、どんなご苦労がありましたか?
山下:売れ筋商品が店舗と全然違うということですね。店舗では1枚1,000~1,500円の板チョコがたくさん売れましたが、ECではなかなか売れませんでした。
西井:それはなぜでしょうか?
山下:高価格な板チョコが売れた要因は、その香りや味わい深さを実際に体感していただけたことが大きいと思っています。しかし、ECではその価値を届けにくい。どんなに品質の良いものでも、文字で書かれた商品説明だけでその価値を理解してもらうのは難しいのです。
当社のECではじめてヒットした商品は、「チョコレートレアチーズケーキ」でした。このことから、ECでは直感的に「美味しそう」だと感じられるビジュアルや、ネーミングが重要なのだと気づきました。その後もシズル感を重視したスイーツがよく売れています。

山下:そして、店舗とECは購買体験が真逆だったことも大きな気づきです。店舗は板チョコを買ってくださった方が、次にスイーツを買ってくださいます。一方、ECでは最初にスイーツから入って、板チョコを買ってくださるようになります。特にミニマルを食べたことがない方にとってのECの購買体験には、ブランド名やカカオ豆へのこだわりはあまり寄与しておらず、商品の魅力を想起しやすいかどうかが重要だったのです。
ちなみに、半年ほどの期間で区切ると、ECで最初にスイーツから購入してくれたお客様は、その後も2ヵ月に1回は購入してくれるのですが、店舗体験がなく、ECで板チョコから入ったお客様は、1~2回のコンバージョンに留まる傾向があることもわかっています。
西井:最初の体験の重要性が伝わりますね。コロナ禍ではECの需要が高まりましたが、ミニマルにはどのような変化がありましたか?
山下:コロナ禍では、より高級な商材が売れるようになりました。ご家庭や自分への「ご褒美スイーツ」としての需要が増えたのだと思います。「チョコレートは人を幸せにする」という本質的な価値に立ち戻ったような気がします。売上のボリュームとしても、350~500%増加しています。
西井:コロナ禍でも素敵な時間を過ごしたい、家にいる時間にお金を投資したいと思う人が増えたわけですね。