地上波、ABEMA、YouTube……テレビ朝日の多彩なコンテンツ展開
MarkeZine編集部(以下、MZ):昨今、テレビ番組がインターネットでも気軽に視聴できるようになり、テレビとデジタルの融合が進んでいます。2015年にAbemaTV(現ABEMA)を共同で立ち上げ、またYouTube「動画、はじめてみました【テレビ朝日公式】」でも様々な企画を多数配信し、テレビの知見を活かしたデジタルでのコンテンツ展開に先進的な印象があります。今、視聴者との接点としてはどんな種類があるのですか?
棚田:まず地上波は、多くの番組を「テレ朝キャッチアップ」として展開しており、自社アプリ「テレ朝動画」や、「TVer」「GYAO!」「アベマdeテレ朝」での見逃し配信を行っています。次にABEMAでのオリジナル番組や、地上波との連動コンテンツがあります。加えて、ご紹介いただいたYouTubeチャンネルでも様々な種類の動画を公開しています。
MZ:今回お越しいただいた三谷さんを筆頭に、アナウンサーの方々も地上波以外のコンテンツに出演されていますよね。三谷さんはYouTubeでダイエット企画に取り組まれ、累計再生回数が1,000万回を突破していると聞きました。体を張っていらっしゃいますね……!
三谷:そうですね(笑)。地上波では報道の「ANNスーパーJチャンネル」やバラエティの「バラバラ大作戦」など、ABEMAでは「アベマ倍速ニュース」「ABEMA的ニュースショー」を担当しながら、YouTubeではダイエット企画を1年ほど続けています。それぞれで自分の役割や、観てくださる方々の感覚も少し違うなと感じていて、最近ではデジタルでの知見や気づきを地上波に活かしていきたいなと、模索しています。
独自の動画広告配信プラットフォームが好調
MZ:ぜひ、そのあたりも後ほど詳しくうかがいたいです。そうした多彩なコンテンツ展開の流れの中、2019年に5社による合弁会社UltraImpression(ウルトラインプレッション)が設立され、その座組の華々しさから業界で話題になりました(参考記事)。テレビ局が動画広告配信プラットフォームを立ち上げた背景を教えてください。
棚田:世の中のデジタル化が進み、テレビ局でも地上波に加えて、自社の見逃し配信アプリやTVerでの番組配信が一般化しました。その商流において、テレビ朝日としてデジタル広告市場も取り込んでいくのは必然だったと思います。地上波放送は自社で設備を有しているので、デジタルの領域でもコンテンツ配信に加えて広告配信プラットフォームを持とうという考えの下、各社の知見をお借りしてUltraImpressionを設立しました。
私自身、テレビ朝日で15年以上にわたってテレビCMの営業に携わる中で、広告する商材に応じてテレビとデジタルを柔軟に組み合わせて使いたい、という広告主のニーズの変化を肌で感じていました。現在UltraImpressionは事業を開始してから2年弱になりますが、テレビとデジタルを横断した最適な提案をできるようになったと思います。
MZ:テレビCMとデジタル上の動画広告を、それぞれどのように捉えて提案されているのですか?
棚田:地上波は、やはり現在でも圧倒的なリーチ力と信頼性を誇るメディアとして、商品認知やブランディングに一定の効果があります。一方デジタル上で配信する動画広告は、番組単位ではなく「人」にターゲティングしている点が、大きく異なると捉えています。
広告配信でもテレビとデジタルのシナジーを発揮
MZ:現在、どういった点が特に広告主に受け入れられていますか? UltraImpressionの動画広告の特徴を教えてください。
棚田:まず、先ほど触れたターゲティングですね。参画する5社のうち、Supershipが取り扱うキャリアデータ(※)を基盤とした正確で膨大なデータを強みに、柔軟なデータセグメント設計による広告配信を実現しています。同時に、我々のコンテンツ接触や第三者データの分析も掛け合わせた趣味趣向によるターゲティングも、広告主に好評です。
※Supershipが取り扱うキャリアデータは、各関連法令を遵守し、適切な情報セキュリティのもと管理・運用しています。また、キャリアデータは全て匿名化されており、個人の氏名、番地を含んだ住所、電話番号、メールアドレスなど、個人の特定につながる情報は含まれません。
2つ目は、テレビ局が制作するコンテンツに配信される、プレミアム在庫としての安全性や信頼性です。広告自体にも考査があるので、他社の広告によるブランド毀損の心配もありません。
そしてテレビとデジタルのシナジーを創出できる点が、他の動画広告ネットワークにない大きな特徴です。調査では、双方の重複接触でCM認知度やブランドリフトに効果が出ています。「テレ朝キャッチアップ」は専念視聴率がぐっと高まるので、テレビで潜在的に触れたCMをはっきり認識する、という流れができています。
MZ:今、デジタルマーケティングではCookieレス対策が大きな課題になっていますが、その点にはどう取り組まれていますか?
棚田:Cookieレス対策は、デジタル上のビジネスにおいて非常に重要なファクターだと捉え、Supershipと連携して良い解決策を探っています。ただ、元々我々には良質なコンテンツがあります。その宝物と、リーチしたい人の嗜好をうまくつなげることで、広告効果をお返しできると考えています。今後はその部分により磨きをかけていくつもりです。
YouTubeは15分ずっと“強”のコンテンツ
MZ:三谷さんは、テレビとデジタルをまたいでコンテンツ制作に携わる中で、「視聴」の違いをどう感じられていますか?
三谷:いちばん大きいのは、デジタル上のコンテンツは能動的に選んで、自由度高く視聴できる点だと思います。地上波は、基本的にはそのとき流れている番組から選びますが、膨大にコンテンツが存在するデジタルの世界では、取得する情報を自分で選ぶ主体性が強くなります。また、もちろん録画すれば地上波も同じですが、デジタル上だとそもそも自由に停止したり繰り返し観たり、それぞれの好ましい形での視聴がしやすいですよね。
MZ:そうした点を踏まえて、工夫している点などはありますか?
三谷:たとえばYouTubeのダイエット企画は個人に焦点を当てた企画なので、テレビ番組で進行役を担うときには映らないような自分の見せ方を考えています。また、YouTubeはそもそも15分程度の短いコンテンツが多いので、それに合わせるとテレビの収録とは全然違うつくり方になりますね。1時間のテレビ番組なら、それなりの時間をかけて収録して編集で強弱をつけますが、YouTubeは15分ずっと“強”という感じ。撮る時点で、15分にいかに凝縮できるかが勝負だなと感じています。
また、視聴者に参加していただくことも、大事な観点だと思っています。YouTubeの感想を、私のInstagramにコメントいただいたりしますが、それを次の動画で紹介すると反応していただけたりしますね。
MZ:そんな双方向性が実現するのは、デジタルならではですね。
三谷:そうですね。また「アベマ倍速ニュース」は、冒頭で「視聴者がコメンテーターです」とお伝えし、リアルタイムで書き込まれるコメントを紹介しながらニュースを伝えているんです。YouTubeよりもさらに近い状態で、視聴者と一緒に番組を作っている感覚があります。
デジタルで得た知見を地上波に活かす
MZ:先ほど、デジタルから活かしていきたい点があると言われましたが、これはどういうところですか?
三谷:たとえば、YouTubeで私を知った方が、興味をもっていただいて地上波の番組を観てくださるチャンスを活かせればと思っています。深夜番組の「バラバラ大作戦」は制作のテンションに関して、デジタルでのコンテンツを意識している点があります。これらの番組は実際の尺が15分ほどで、これはデジタルコンテンツに親しんでいる方たちが見やすいと思われる尺だと思っていて、意識してその尺にネタであったりテンションであったりを凝縮しています。出演者さんと私の関係も「出演者とスタッフ」というより、皆で一緒に15分を盛り上げよう、という一体感を意識しています。
YouTubeは視聴者層が若いと言われているので、その領域で経験したことや、いただいたリアクションなどを自分なりに考察してみて、地上波コンテンツでも活かし、多くの方に今度はテレビを楽しんでいただけたらと考えています。
MZ:なるほど。ABEMAも若年層の視聴が多いと思いますが、その点に着目する広告主も多いですか?
棚田:そうですね、現状でテレビとの接点が少ない層にもリーチできる場になっています。
たとえば、ABEMAを含めたデジタルの動画広告の中で、複数のアプローチを提案できるのも我々のプラットフォームの強みです。テレビCMの出稿を視野に入れ、より自社の商材が響くターゲットや有効なクリエイティブを動画広告の配信で探るケースも出てきています。
良いものに触れて気づきや人生の豊かさにつながれば
MZ:広告主にとって、プランニングの判断材料にもなるわけですね。今後、UltraImpressionのビジネスとしては、どのような展望をお持ちですか?
棚田:テレビの視聴スタイルは、どんどん変化しています。スマホでのテレビコンテンツ視聴が一般化し、さらに今はデジタルに接続した「コネクテッドTV(CTV)」が増えて、テレビでデジタルコンテンツを楽しむ人が出てきています。その環境下への広告配信も整備しています。
視聴者に適切な広告をお届けできてこそ、広告主に効果をお返しできます。今後も手法やシステムを磨き、動画広告市場を盛り上げながら、放送と配信、イベントなどテレビ朝日のアセットも活かして広告主の課題を解決したいと考えています。
MZ:先ほど「テレビ局のコンテンツが宝物」という言葉もありましたが、コンテンツのクオリティを大前提に、デジタルとの融合に果敢にチャレンジされている姿が印象的でした。最後に、テレビ朝日としての注力点や、意気込みをうかがえますか?
三谷:今後もテレビとデジタルを横断しながら、それぞれの良さを活かせるいろいろな制作を模索したいです。今、スマホがあるのが当たり前の環境で育った世代が増える一方で、高齢者の方がスマホを持ち始めるなど、“テレビ×デジタル”の共存を楽しんでいただける層が広がっています。その中で、両方の懸け橋になれたらうれしいですね。
棚田:時代に合わせた変化にはしっかり対応しつつ、「良質なコンテンツを届けたい」というメディアの矜持はこれからも変わりません。クリエイティブ力には自負があるので、より多くの方に観ていただき、気づきを得たり人生が豊かになったりするためのアプローチを引き続き考えていきます。