「データ分析のお作法」を学びデータを実務に活用する
今回紹介する書籍は、『データから真実を読み解くスキル』(日経BP)。著者は、データサイエンティスト・松本健太郎氏です。
松本氏はデコムなどでデジタルマーケティングや消費者インサイトに関わる業務に携わった後、現在は報道機関のJX通信社にてマーケティング全般を担当しています。
デジタル化が加速する中、データと数字から逃げることは不可能です。とりわけ、マーケティングの分野は高度なデータの活用が求められるようになってきました。そんな中、松本氏は「2020年代は間違いなくデータをうまく使えない企業は敗者となってしまう」と言います。一体どのように使っていけばいいのでしょうか?
データ分析の本質は「目の前で起きてる事象の意味を考えること」
データ分析には、高度なデータ分析やビッグデータを闇雲に使うことよりも「何を解決するのか」といった課題志向や、数字以外の定性的なデータから消費者の心理を探究する手法を多く考えてきた松本氏はデータ分析は一種の「謎解き」だと表現しています。その「謎解き」に使った「スキル」が明らかになる20例が収録されています。
データ分析の本質を松本氏は「目の前で起きてる事象の意味を考えること」だと語っています。いくら数字が読めてもそれが何を表しているのかがわからなければ分析とは言えません。数字だけでなく、全体を俯瞰して見て、データに目を配り、時にデータを疑うことこそが「考える」ということです。
データの抜けや漏れ・不整合・そしてデータのゴミなど、様々な不純物に気づき、意味解釈の力をつけることこそ真のデータ分析だと松本氏は続けます。
「事実」を前にして疑問を呈することができるか?
「事実」は時に、誰かが疑問を呈しただけで、もろくも崩れ落ちることがあります。最初の章では「事実」を前に本当に「事実」なのかどうかをチェックする方法を5つの事例とあわせて紹介しています。
その中の第4講では分析に用いるデータの「質」に焦点を当てて解説しています。分析の内容に不要なデータが含まれていると確からしさは低くなってしまいます。その例を有効求人倍率を使って具体的に説明しています。
「人手不足」が言われて久しくなりました。正社員の有効求人倍率は、集計を始めた2004年度以降で最も高い1.13倍を記録。パートタイマーなどを含めた全体の有効求人倍率は、1973年度以来45年ぶりの高水準となる1.62倍を記録しました(数字はいずれも2018年度)。(中略)
有効求人倍率が高いのは(国会の会議で)「景気が回復している証拠の1つ」だと捉えられているようです。……しかし、本当にそうなのでしょうか?
そもそも有効求人倍率とは、全国のハローワークで求職者1人に対し何件の求人数があるかを示すものです。求職者1人に1件以上の求人があるので、仕事を選ばなければ働きたい人は働くことができる環境であることが言えます。
しかし、冷静に見てみるとIT・デジタルの時代においてバブル景気やいざなみ景気を超える仕事、つまり求人があるものなのでしょうか。「事業所・企業統計調査」「経済センサス」によると事業所数は1989年の662万をピークに、2016年には約20%減少し、534万となったと松本氏は指摘します。
そもそも、求人の総数から『温度感』は分かりません。『人手不足だから』という求人も『ハローワークって無料だし、とりあえず出しとこ』という求人も、同じ1件です。(中略)こうした状況をふまえると急上昇する求人件数のすべてを人手不足とみるのは早計に思えます
こうしたことからも必要のない無意味なデータが多く混じることで無意味な結果が返されることがあります。
データ分析は考察・洞察が先。インフラや手法は後。
2010年代はビッグデータやディープラーニングなどの手法に注目されてきました。しかし。それらの「手法」にばかり注目が集まり、考察や洞察はさほど重要視されてきませんでした。その結果、濃厚なインフラと最先端の手法は整っているにも関わらず、考察や洞察が置き去りにされてしまい、データの持つ本来のパワーを使いこなした分析は行われてきませんでした。そのため、データ分析にはまず考察・洞察ができるようになることが重要だと松本氏は主張しています。
本書では様々なニュースからデータ分析の基本的な考え方・洞察する方法をひも解くことができます。マーケターはもちろん、ビジネスにおいて数字を扱う方や経営者には特にお薦めの書籍です。データの重要性がさらに増す今こそ、本書を通してデータ分析に求められる思考とデータの取り扱い方を理解し、改めてデータと向き合ってみるのはいかがでしょうか。