マーケターとして実践している調査データ活用法
――MarkeZineは、マーケティング関係者1,000名超の声を集約した調査資料「マーケティング最新動向調査 2021」を1月にリリースしました。今回は、ご購入いただいたセールスフォース・ドットコム(以下、Salesforce)のおふたりに、調査資料の活用や、社内外での情報共有の変化、今後のマーケティングについてうかがいます。
秋津:「マーケティング最新動向調査」を私が活用するようになったのは今年からです。我々の営業担当やSEメンバーに対して、世の中のコンシューマー、ビジネスパーソン、マーケターがこういう状況にあるということを伝えるセールス・イネーブルメントの目的が大きいです。当社には顧客対応を行うメンバーが何百人もいるのですが、なかなか全員がこうした情報を市場からキャッチアップして一定水準の共通認識を持つことは難しいのです。ツールを活用するマーケターが、今どんな課題に直面しているのか、現在のビジネス環境も含めた文脈や、市場のトレンドを社内に共有することをメインの目的として購入しました。
営業メンバーも肌感覚では理解しているのですが、「マーケターにとっての課題トップ3は何か」と聞かれると、なかなか言語化するのが難しい。こういう調査資料があると、多くのお客様が置かれている環境や、ツールを導入したけれど運用面で困っているのか、必要なツールがなくて困っているのかなど、営業が提案する際の「お客様が直面している課題の解像度」を高めるうえでの一助になります。
前田:Salesforceでも「マーケティング最新事情」「セールス最新事情」といった大規模リサーチをグローバルで行っていますが、日本市場に特化して、その中を細分化して見ることができる資料もほしいと思っていました。私は、昨年の「マーケティング最新動向調査 2020」に引き続いて今年も活用しているのですが、MarkeZineの独自調査のほかに、電通や省庁など第三者機関の調査レポートを集約して、消費者や企業の動向をまとめている章があります。これはイネーブルメント目的のほかに、今の日本企業のマーケターがどんなことを考えているのかをきちんと確認する手段として、非常に有効だと思っています。
昨年は、コロナ禍の真っただ中で、自分が思っていることは他の日本企業の人たちと同じなのだろうか、そこを知りたいというのが第一でした。自分の感覚とデータを突き合わせて答え合わせをするものではないですが、チューニングしたいという気持ちです。したがって社内にデータを共有したところ、すぐに営業から「すごくありがたいです」と反応がありました。
秋津:我々は毎年、調査会社からいろいろな調査資料を購入しているのですが、前年と今年という比較の軸でもデータを見ています。今年はコロナのインパクトが非常に大きかったのですが、調査結果を毎年比較していくと、「ちょっとトレンドが変わってきている」ということに気づくのです。去年はこういうトレンドが重視されていたけれど、今年はこうだったとか。調査会社が成長率を少し下方修正してきたなとか。
今の仕事を始めて5年目になりますが、各年でどういう結果が出ているのか、調査会社がどう予測しているのかという推移に注目しています。シングルポイントで今年の状況に向き合うことも必要ですが、どんどん変わっていく状況を正確にとらえていくために、定点観測していく価値はあると思っています。
前田:この調査資料の場合、直接マーケターにリーチして得た調査結果と、MarkeZine編集部がまとめたトレンドレポートの2本立てになっているので、より正確な日本のマーケティングの全体像をとらえることができるようになっています。非常にわかりやすくまとめてあるので、読み物としてとても有益です。なかなか調査レポートとじっくり向き合う時間のない営業メンバーにとっても、キャッチアップしやすい、咀嚼しやすい内容になっていると思います。
「導入率」ではつかめないフェーズやインサイトも知りたい
――今回は、DMP/CDP、MA、CRM、そしてMarketing Suiteの導入率についても、はじめて製品名を示して調査を行いました。このデータについてはどうご覧になりましたか。
秋津:私は製品担当のマーケターとして、市場自体を広げていくミッションと、市場自体の成長を超えていくというミッションがあると思っています。現在の市場において、そのツールの導入率がどの程度なのか、たとえば50%くらいなのであれば、こういうセグメントやターゲットに対して攻められる余地があるだろうというところを、もう少しブレイクダウンして考えていきたい。そのためにも「成熟度」を見たいと思っています。
また、そのツールを個人が主体となって使っているのか、会社の判断で戦略的に使っているのかも知りたいところです。会社や部門が戦略のひとつとしてツールを使っている場合は、担当者が異動しても使い続けていただけますが、個人が主体の場合は、その人がいなくなるとツールや仕組みについてのノウハウごとなくなってしまうケースがあります。質問の仕方は難しいと思うのですが、このあたりがもう少しわかると調査結果としてありがたいです。
前田:もうひとつベンダー視点で言うと、調査結果における回答者の比重はすべて同じ「1」なのですが、回答者の中には、コロナ禍であっても「今こそ攻めるときだ」と思っている方もいると思います。もし、マーケティングへの投資にアグレッシブな人が「今年は投資しない」という判断をしているのであればその理由が知りたいですし、何に対してだったら投資したいと思うのかが気になります。
私たちが行った調査「マーケティング最新事情(第6版)」では、マーケティングパフォーマンスレベルによって高・中・低の3段階に分けていて、それぞれのレベルにいる人たちが、どんなエリアに注目して投資しようとしているのかを分析しています。これによって、調査レポートをご覧いただくお客様は、「自分たちは今、中レベルにいるから、マーケティングのこの部分を実現していこう」というように、ひとつの指標にしていただけると思います。
デジタル化するコミュニケーションとリアルの価値
――「マーケティング最新動向調査 2021」では書籍版とPDF版を販売しています。今回ご購入いただいたのは社内で共有可能なPDF版ですが、在宅勤務によって、社内での情報共有や社外のお客様とのコミュニケーションに変化はありましたか。
秋津:私たちはコロナ以前から在宅勤務を実践しており、いつでもどこでも全員が必要な情報にアクセスできるようにしていますので、購入する調査資料はPDFがメインです。社内共有版なのでPDFは社員が自由に閲覧できるのですが、200ページ以上に及ぶ資料全体を全員が見て情報を利活用することは難しいのが現状です。先日、営業向けにオンライン勉強会を開きました。こちらはそのときの資料です。
要は「この調査資料で、Salesforceの社員が学ぶべきこと、理解すべき市場トレンドは何か」を端的にまとめて、社内に提供し、お客様により良い提案/サポートをするということですね。解像度を低くしすぎてもいけませんが、細かいところは省略して適度な粒度になるように調整しています。勉強会後のアンケートでは、マーケティングオートメーションツールのトレンドだけではなく、マーケターや世の中のトレンドがどうなっているのか、お客様のマーケティング予算がどういうふうに変化するかも含めて端的に理解できたと、ポジティブな意見がありました。
一方、コロナ禍におけるデジタルなコミュニケーションでは、セミナーやお客様への提案など、従来はオフラインが前提だったものが、現在はオンラインが前提になっています。その中で、対面によって可能になるエモーショナルな部分や人間力での関係構築の難しさを感じるケースはあります。オンラインでは、お客様は画面を通じて資料や動画を見ているので、場面転換を入れたり、話をしながら画面を共有して議事録を書いていくようにして、真剣に会議のディスカッションやセミナーに参加いただけるような工夫を以前にもまして大切にしています。
前田:営業メンバーは、お客様に「世の中では一般的にこういう方向に向かっていますよ」ということを伝えるために調査データを活用することが多いので、調査資料を使うときの運用ルールをきっちり伝えたうえで、お客様にも参照していただいています。MarkeZineは非常に多くのマーケターに読まれている媒体だと思うので、お話しする相手の方も信頼度の高いデータとして見ていただいていると思います。
社内のナレッジ共有では、毎年2月に行われるグローバルでのキックオフに変化がありました。昨年はソルトレイクシティで私が担当している製品のキックオフが行われる予定でしたが、コロナの感染拡大もあり、現地に行くことを断念しました。現地では各国にどんなお客様がいて、こんな楽しいユースケースがあったというプレゼンテーションが行われるのですが、日本からではそれらをまとめたスライドをあとから見るにとどまり、最新の情報取得がなかなか難しいと思っていました。
今年は何が起きたかというと、キックオフが完全にオンラインになって、日本にいる私たちだけではなく、世界中の社員、前回はフィジカルでイベントに参加していた米国本社の人たちも含めて、バーチャルでの参加で、ある意味平等になりました。米国のエグゼクティブと、「インクルージョンという意味では良かったかもしれない」という話をしました。今後コロナが収束して、もとの生活に戻っていくときに、海外と日本、東京と地方でどこまでこのインクルーシブネスをきちんと担保できるかは、新たに考えていかなければいけないと思っています。
今後3年間でマーケティングはどう変化するのか
――今回の調査ではコロナ収束後も見据えて、今後3年間のマーケティングの変化についてもたずねています。この点について、おふたりはどのようにお考えですか。
秋津:この1年間、オンラインやデジタルでの活動が推進されたことがあり、デジタルツールを扱っている私たちにとってはある種の追い風でもありました。その一方で、ツールの活用を日常のお客様のビジネスプロセスに落とし込まなければいけないということの重要性をすごく感じた1年でした。
また、オンラインが世の中に浸透した中で、リアルや対面の重要性、人と触れ合う、会うことの重要性や稀少性がよりハイライトされたのではないかと思います。OMOやO2Oという概念がありますが、個人的には対面やディスカッション、オフラインで会える貴重な機会とデジタルを組み合わせながら、何かを検討していただいたり、変革に向かうきっかけを創出するマーケティング活動をしていきたいと思っています。
前田:デジタル化によって「便利になった」「楽になった」と思ったものを、ビジネスパーソンは手放さないのではと思うところがあります。たとえば、これまでは対面での商談がマストだったけど、デジタルになって簡略化されたり、オンラインで購買ができることを逆に「いいな」と感じているビジネスバイヤーもいるのではないでしょうか。
そうなったときに何が大事になるかというと、パーソナライゼーションではないかと思っています。今後、よりデジタルでお客様にアプローチしていく中で、おそらくBtoCだけでなく、BtoBの場面においてもパーソナライゼーションが肝になってくるのではないか、そう考えています。
――前回(2020年)調査では、マーケティング課題の上位は人材や組織面での課題でした。今回マーケティングのデジタル化に関する課題についてたずねたところ、いちばん多かったのは「デジタル化に向けた社内のナレッジが蓄積されていない」で4割超に達していたことに編集部では注目しています。
今回お話をうかがう中で、ナレッジの蓄積・共有という点で、Salesforceではマーケティング部門から営業部門への情報共有が自然に行われていることが印象的でした。
秋津:私たちは製品担当のマーケターとして、市場拡大への注力と同じくらい、当社製品をお客様に合ったかたちで提案できるメンバーを増やすことにも尽力しています。それは当社が提供する製品の複雑性が比較的高いことと同時に、購買判断するお客様の意思決定の難易度が高いことにも起因します。そのためには的確にお客様を導き、お客様とともに検討、構築、運用を進めていくスキルが必要です。それらを適切にハンドリングできる知識をマーケティング担当として営業にインプットする役割を持っています。
――部門間連携のひとつの形としてのイネーブルメントに刺激を受けるマーケターも多いと思います。今回は、調査資料の活用から、デジタル化への対応、貴重なリアルの場面をどう活用していくのかも含めて重要なポイントを議論いただき、ありがとうございました。これからの調査プロジェクトに活かしていきたいと思います。
※写真・資料提供:Salesforce.com
※「マーケティング最新動向調査 2021」のPDFで社内共有が可能なのは「PDF法人内共有版」となります。資料として活用される場合は、利用規約に基づいてご利用ください。
「マーケティング最新動向調査 2021」
1,000名を超えるマーケティング関係者の声を集約し、ツールの導入率・注力施策・予算配分など、日本企業のマーケティングの実態に迫る調査レポート『マーケティング最新動向調査2021』の詳細は、こちらからご覧いただけます。