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LINEで実現するマーケティング視点を持った本質的なDXとは【江端×高木×石原鼎談】

 奇しくもコロナ禍によって、日本企業の多くがDXの重要性に気付き、本腰を入れ始めている。だが、DXというワードが急速に広がったため、「DX=デジタル化」という誤解も生じている。本稿では、書籍『マーケティング視点のDX』にてマーケターがDXを担うべきだと説く江端浩人氏をゲストに、個社のみならず業界全体のDXを支援するLINEの高木祥吾氏とデジタルホールディングスの石原靖士氏を交え、DXの理想的なあり方と実践について議論した。

大企業もSMBも、会社全体の事業方針としてDX推進が急務

 
(中央)江端浩人事務所 代表/エバーパークLLC 代表/iU 情報経営イノベーション専門職大学 教授 江端浩人氏
(左上)LINE マーケティングソリューションカンパニー 広告事業本部 プラットフォーム事業開発室 室長 高木祥吾氏
(右上)デジタルホールディングス(旧・オプトホールディング) グループ執行役員 テック&ソリューション担当/LINE Frontliner 石原靖士氏

MarkeZine編集部(以下、MZ):昨年は、日本企業のDXには節目の年になりました。MarkeZineが実施した『マーケティング最新動向調査 2021』によると、売上高1,000億円以上の大企業で6割以上、中小を含めても4割超の企業が、会社全体の事業方針としてDX推進を掲げています。こうした状況を、どのようにご覧になりますか?

江端: 2020年は政府でデジタル庁の設置が決まり、中小企業を含めて在宅勤務が広がって、多くの方にとってDXが身近なものになりました。ただ、相談として多いのは「必要性はわかったが何から手をつければいいのか」という内容です。いまだにデータをデジタル化できていなかったり、チャットなどのコラボレーションツールを使っていなかったりする企業が多い実状です。

高木:LINEではコロナ禍以前より、APIのオープン化などを通して企業のDXを支援してきましたが、特に変化があったのはSMBのマーケットです。近年、料金体系の変更や機能統合によってLINE公式アカウントをSMBでも使いやすくし、また2020年にローンチしたLINEマーケットプレイスLINEミニアプリ(下記参照)など、LINEをさらに便利で手軽に活用いただけるサービス提供を開始しました。我々としても、SMB、特にオフラインの店舗を持たれている企業と距離が近づいた印象があります。

LINEマーケットプレイス:LINE公式アカウントに、チャットボットや予約システムなどのサービスを有料で簡単に実装できるプラットフォーム。

LINEミニアプリ:ユーザーの様々なニーズに応えるサービスを、LINE上で提供できるウェブアプリケーション。

高木:一方、企業体質や組織体制の面でなかなか変革が進まなかった、いわゆるレガシー産業にも変化の兆しが出てきたことに注目しています。DXへの意欲が高まっているところに、石原さんがデジタルホールディングス内で立ち上げたLINE Innovation Center(下記参照)がパートナーとして並走するなど、支援体制を一層強化されています。

LINE Innovation Center:デジタルホールディングスグループのオプトが、2020年4月に設立した、LINEを活用して各業界のDXを推進するオープンイノベーション組織。

急速に高まる、DX推進におけるマーケターへの期待

MZ:石原さんは、LINE活用の豊富な知識と経験を有する認定講師「LINE Frontliner」のお一人です。個社だけでなく、業界全体のDXを支援されていますが、直近の変化をどう見ていますか?

石原:私も江端さんの著書にあるように、DX推進におけるマーケターへの期待が非常に高まっていると感じています。たとえば、集客の効率化に留まらず、ユーザー体験を中心とした自社サービスの再定義まで求められることがありますが、それにはデータベース構築やシステム開発もスコープに入ります。マーケターはDXの実行に際して開発知識やITスキルは十分ではないので、描いた展望をどこまで具体化できるかも課題です。

 LINE Innovation Centerでは産業や業界全体に普及するプラットフォーム作りに挑戦しています。特に規制産業は、様々な利害関係者との調整が必要なので、その業界に精通した企業と手を組みながら進めています。一番大事なのは、納品やサービスリリースはあくまでスタートだということです。時代の変化は早く、システムも業務のあるべき姿に合わせて常に進化する生き物だと思っています。我々は、こうしたプロダクト開発に大きく先行投資し、最終的に利益配分を頂くスキームに挑戦しています。

MZ:納品をゴールではなくスタートにするというのは、ユーザーデータを取得してPDCAを回して改善していくことを考えると、実に本質的ですね。

 江端さんが昨年上梓された『マーケティング視点のDX』は、DXは生活者の心理を捉えられるマーケターの仕事だという前提で執筆されています。企業はどういう視点を持って、DXを推進するべきでしょうか?

江端:大事なのは、ビジネス全体を見通すことだと思います。ユーザーはもちろん、パートナー企業とのWin-Winの関係をどう作るか。そこで、ユーザーニーズを最もよく把握するマーケターが各所の調整役となって、アジャイルかつオープンな仕組みを成立させることが、すなわちDXの推進につながるのだと思います。その役割を社内のマーケター、または外部パートナーが担うかなど、施策の座組も重要になりますね。社内一丸となってDXを推進するために、旗振り役としてマーケターが果たす役割は大きいですし、専門的なスキルを持つ外部パートナーの力を借りることで、スピード感を持ってDX実現に取り組めるでしょう。

課題の把握と仮説設定にマーケターの能力が生きる

MZ:江端さんの著書では「DX2.0の4Pモデル」というフレームワークが紹介されていました。こちらの紹介とともに、このフレームワークにのっとってDXを推進する際、マーケターならどういった視点や能力が生きるのか、解説いただけますでしょうか?

出典:『マーケティング視点のDX』 江端浩人 著、日経BP、2020年10月

江端:まずは「Problem」、問題を把握する部分では、ユーザーの声や世の中の潮流はもちろん、現在の自社サービスに足りない点を踏まえて長期的な仮説を立てることが求められます。まず、この仮説設定にマーケターの力は不可欠です。

 「Prediction」も同じですね。ユーザーのライフスタイルがどう変わるのかを見通せないと、どのような方向性でビジネスを変革すべきか考えるのは難しい。ただ、描いた展望が果たして技術的に実現できるのかは、専門知識を持つ情報システム部門などと協議しながら進める必要があります。

 「Process」は、DX推進のためにすべきことが決まれば情報システム部門の方々のほうが得意でしょう。しかし、プロセスの正しい計画と実行も、元々マーケターにも必要な要件です。

 最後の「People」では、部門が異なれば共通言語が必要ですし、その上でそれぞれのケーパビリティを生かしていくことがポイントになります。全体をうまく巻き込んでいくことも、本来マーケターに求められる能力です。

MZ:マーケターはユーザーニーズをよく把握し、本質的な課題は何かを考えることができるから、DX2.0の推進において中心的な役割を担えるということですね。マーケターの力量もそれぞれかと思いますが、SMBがDXに取り組む際に意識すべきことはありますか?

江端:ひとつは、私の本で紹介した「DX診断」が役に立つと思います。また、できることからアクションしていくのも大事です。たとえば、新しいアプリやサービスを意識的に使ってみる、いまだに紙ベースの会議をしているなら会議室にスクリーンを入れて、リアルタイムの情報をもとに議論するなどしてもいいでしょう。

「まったく新しいサービスを生む」発想で考える

MZ:では、マーケティング視点でDXを捉え、実際にビジネスを変革している事例を教えていただけますか?

高木:アイウェアブランドのJINSさんは、LINE公式アカウント上でユーザーメリットのあるサービスを複数提供しています。同社のアカウントでは、店舗での待ち時間をお知らせしたり、コンタクトレンズの自販機「Touch & Collect」で1dayコンタクトレンズを購入できるようにしたりしています(関連リンク参照)。

 こうした活動は、目先のKPIを追うのではなく「ユーザーの利便性向上に寄与するまったく新しいサービスを生む」という発想がないと生まれません。ちなみにJINSさんではこうしたDX推進を特別な部門ではなく、マーケティングを担うCX戦略本部という部門が担当されています。

 
JINSは、自社のLINE公式アカウント上から「Touch & Collect」を利用できるサービスを提供中

石原:マーケターの貴重な手腕のひとつは、「問いを立てる力」です。世の中に問題解決を謳うデジタルソリューションは山ほどありますが、現場が喜び、歓迎を持って利用されることは稀です。そこで、マーケターは現場に入り込み、生々しく現実を理解し、「誰のどんな課題から解決するのか?」という問いを立てる力が大事です。私から紹介する薬局業界のDX事例がまさにそれです。

 先述したLINE Innovation Centerの活動で、薬局業界に直営店とネットワークを持つメディカルシステムネットワークさんと共に、「今の時代にゼロから薬局を作ったらどうなるか?」という問いのもと、薬剤師と患者さんがLINEで直接繋がれるプラットフォーム(電子お薬手帳の代替サービス)の提供を開始しています。

 実証実験の結果、来局した方の3~4割にサービスを利用頂き、薬の待ち時間確認や薬剤師へのお薬に関する悩み相談なども積極的な利用がはじまっています。また、既に他の薬局チェーンの展開も決まっています(関連リンク参照参)。

事例記事:コンタクトレンズ自動販売機「Touch & Collect」で提供するJINSの新たな顧客体験(LINE for Business)

事例記事:DXに悩む経営者必見!LINEではじめる産業のDX #2 (LINE for Business|公式note)

生活に密着したLINEがDXを身近にする

MZ:ユーザーが使い慣れているLINEだからこそ、企業と生活者のサービス接点として十分機能するわけですね。LINE活用の利点について、江端さんはどうお考えですか?

江端:身近なLINEだからこその安心感や信頼感は、大きなポイントですね。“デジタル”とか“アプリをダウンロード”と言われるだけで気後れする人もまだ多いですが、LINEなら心理的な障壁がなく、そもそも直感的に使えるインターフェースなので、どんなサービス展開においても相性がいいと思います。

MZ:確かに、生活者の側が求めるのは利便性の向上であり、“デジタル化”ではないですよね。ただし、企業の側はDXというワードが浸透するほど「デジタル化」を意味する誤った傾向もあるように感じます。

江端:先ほど高木さん、石原さんから紹介されたマーケティング視点のDX事例とは異なり、ただ「既存事業をデジタル化しよう」という発想になりがちなので、その思考転換が必要です。たとえば「現在のコアコンピタンスをもって他業界に進出したい」とか。実際、そうした相談も徐々に増えています。

 「イモトのWi-Fi」を提供するエクスコムグローバル代表の西村誠司氏は、海外旅行が激減した状況下で、新規事業を成功させています。これまで自宅にWi-Fiを届けて回収する仕組みをデジタルで管理していた経験を生かし、「PCR検査の窓口」を担い、現在、売上を伸ばしています。これは既存のアセットを生かした新規事業の好例です。

 DXがデジタル化ではないことと合わせて、特に経営層の方々に理解してほしいのは「DXに終わりがない」という点です。石原さんの「納品がスタート」とおっしゃった話にも通じますが、データを取得しながら常にPDCAを回して改善していける時代なので、DXとは継続する活動だというマインドセットを持つことも、施策の成否を分けるポイントだと思います。

業界全体の最適化とアップデートが進む

石原:DXに終わりがないというのは、同感です。DXが全社的な命題になるほど、経営層の理解がDXのスピードと深度を大きく左右します。支援側の提案を待つだけではなく、ユーザーにとっての“豊かさ”を一緒に探り、新しい仕組みを生み出す意識をもっていただけると、プロジェクトは前進します。

 さらに、“捨てる技術”も重要です。あれこれ広がる構想を全部ロードマップにしてしまうと、クイックな仮説検証ができず、アジャイルに進められなくなる。優先して推進すべきことを見極め、それ以外は潔く捨てられる経営者の下では、DX推進がうまくいくケースも多々あります。

MZ:捨てる技術とは意外ですが、腑に落ちますね。では最後に今後の展望や、MarkeZine読者へのメッセージをいただけますか?

高木:LINEをさらに有効なプラットフォームにしていくと同時に、先ほど石原さんが言われたように、新しい事業や仕組みを企業と共創する姿勢を強めたいと思っています。今後も企業の課題に向き合って、DX推進に向けた体制づくりから並走していきたいです。

石原:私も多くの企業様のDXを支援する中で、LINEのように社会インフラ化したプラットフォームだからこそ、個社ではなく業界全体の最適化とアップデートに取り組めると実感しています。日本企業の力が底上げされるよう、今後もDX支援に尽力したいと思います。

江端:LINEのプラットフォームは様々なサービスを手軽に使えて、マーケターの強い味方になりますね。私も、日本の将来が希望に満ちてくると感じました。マーケターが世の中をしっかり見れば、DX推進のヒントが得られると思うので、ぜひプロジェクトの中心で活躍されることを期待しています。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2021/04/23 10:00 https://markezine.jp/article/detail/35591