ファーストパーティデータ活用における課題
ファーストパーティデータの重要性が明確である反面、解決すべき課題があるのも事実である、と横大路氏は語る。
「広域のターゲティングをしてオプトインしてくれた消費者のデータは、自社データベースに登録され、新たなアクションの度にデータが蓄積されていきます」(横大路氏)
ただし、前述のインフォームド・コンセプト・マネジメントのように、消費者は安易にオプトインへの許可を出すことは少ない。実際に得られるデータは、アクセス全体の内ほんの一握りとなる。
オプトインしていない大半の顧客からデータを得るためには、どうすべきかを考える必要があるのだそうだ。では顧客がオプトインを許可する、つまり個人情報を企業へ渡してもよい、と感じるのはどのような状況だろうか。
「まず顧客自身にとって有益な情報や、何らかのメリットを得られることが前提です。ただし、それだけで必ずしも欲しい情報を提供してくれるとは限りません。一方でそのブランドに対して一定の好意を抱く顧客は、オプトインを許可する可能性が高いといえます。より多くのオプトインを得るためには、ブランドを好きになってもらう、ファンを増やすための仕組みづくりが必要不可欠です」(横大路氏)
データ規制後に不可欠なブランドスータビリティ
横大路氏によれば、自社ブランドのファン獲得には、ブランディングに関わるアクションを如何にコントロールするかが重要だという。
たとえば、タイミングの悪い広告によってブランドイメージを毀損してしまうケースだ。自動車のリコール記事に新車種の広告が表示される、食品健康被害の記事に同じ企業の広告が出てしまうなどのケースが、過去の失敗事例として挙げられた。
上記のようなリスクを排除しつつ、ターゲットに寄り添いながら好感度を高める手法が、ブランド・セーフティだ。
従来のブランド・セーフティでは、決められたセグメントでの対応が一般的だったが、同じ業界の企業であっても、打ち出したいメッセージやブランディング上避けたいリスクが同じとは限らない。
そこで、一段階上のアプローチとして、ブランドスータビリティ(brand suitability:ブランドとの適合)が重要となる。個々の企業向けにカスタマイズされた手法を構築することで、より精緻なマーケティングが可能となるそうだ。
「リコールの例では、不適切な場面で広告を表示させない点に触れました。一方、オプトインの幅を広げるという意味では、適切なタイミングで機会損失なく、広告を表示させる戦略も重要です」(横大路氏)
なおブランドスータビリティには、さらにもう一段上の領域があるという。人間の脳の処理能力を超えた範囲を機械学習やAI技術によってカバーし、トレンドの進化に合わせてターゲティングをカスタマイズする手法で、現時点ですでに利用可能な技術となっている。
今後のマーケティング手法について横大路氏は「Cookieレスの時代ならではの新たなマーケティングの手法が確立されてきており、ファーストパーティデータとの併用で、相乗効果を生むことができるようになりました。データ規制の世の中だからこそ、マーケターが持っておくべき選択肢の一つであると考えています」と締めくくった。