“リード創出のみ”をメインの目的にしない。HubSpotがブログで目指す理想
――現在、水落さんが編集長を務めている「HubSpot 日本語ブログ」は、HubSpotのマーケティングにおいてどのような立ち位置にあるのでしょうか。オウンドメディアとしてのミッションを教えてください。
水落:「HubSpot 日本語ブログ」は、HubSpotの会社としてのミッションに貢献することを大きな目的として運営しています。
HubSpotのミッションは、ビジネス成長を目指す人たちを支援する存在になること。そのミッションを達成するひとつの方法として、ブログでは主にHubSpotが提唱するインバウンドの思想(※1)や、これまでに実践して成功してきた手法などをベースに、ビジネスに役立つ有益なコンテンツの提供を行っています。
(※1)インバウンドの思想:相手から価値を受けとる前に、先にこちらから価値を提供し、良好な関係を構築することを目指す思想。
――ミッションに対して、どのようなメディア戦略を立てられているのでしょうか?
水落:HubSpotが提唱している「トピッククラスターモデル」に基づき、SEOを意識したコンテンツづくりを行っています。なぜSEOなのかというと、ビジネスに関する悩みを持つ方の多くは、検索エンジンを使って解決策を探しているからです。もちろんSNSなど他のチャネルで接点を持つことも重要です。ただ、切実に課題解決策を探されている方が一番多いのは検索エンジンなので、重視するべきだと判断しています。
BtoB企業のオウンドメディアは、リードの創出がKPIとなったり、むしろリードのためにオウンドメディアを立ち上げるところも多いですよね。でも、HubSpotでは、必ずしもリードの創出数をメインの目的には置いていないんです。
オウンドメディアは大切なブランド接点のひとつ
――おっしゃるとおり、BtoB企業のオウンドメディアではリード創出数が大きな視標となっていると思いますが、それを先行させない理由はなんでしょうか?
水落:リード創出とは結局のところ、リードとしてカウントされる「個人情報」を入力してもらえるかどうか、ですよね。相手から情報を引き出すことばかりに意識が向くと、結果的にメディアとしては縮小していくと思います。「ここのメディア、やたらと資料ダウンロードを促してくるな」「メルマガ登録への導線が多すぎるな」という印象を持たれてしまうと、自然と読者は離れていきますよね。
そうではなく、相手の課題に応えるコンテンツを提供し、彼らのほうから関心を持ってもらい、接点を持ちたいと思ってもらえるブログを目指す。そうした「インバウンド」な思想でコンテンツ戦略を進めていくと、結果として新規のユーザーと接点を持てる機会が増えることを実感しています。
また、リード創出だけを狙った施策を実施しないのはブログに限った話ではなく、HubSpotではオンラインイベント、広告配信、メディアリレーションズ施策に至るまで、すべてインバウンドの思想に基づいた発信を徹底しています。それが自社のブランディングにもつながるとわかっているからです。
――なぜブランディングにつながるのか、もう少し詳しく教えていただけますか。
水落:ブランディングとは、詰まるところ企業として顧客に提示した約束事をどの接点でも守り続けることだと思います。HubSpotは、カルチャーコードとして「Solve for the customer」を掲げており、「HubSpotの全社員が、顧客の利益を最優先に考えること」を理想とし、企業として守るべき約束事だと考えています。その中でブログが果たすべき役割が、ビジネスに関する課題を持たれている方に、有益なコンテンツやソリューションを提供することなのです。
約束事を守り続けると、「HubSpotはいつも役立つコンテンツを提供している」「HubSpotには自分の課題を解決できる情報がありそうだ」という印象を持ってもらえる。そのような方を一人でも増やしていければ、HubSpotのブランド価値の向上に貢献できると考えています。
HubSpotとしては、リード創出のみを目的とした施策、つまり相手から情報を引き出すことだけを考える施策は「アウトバウンド」だと捉えています。アウトバウンドな施策に手を出した瞬間、相手に戸惑いを与え、ブランドが毀損してしまう可能性があります。ですので、「アウトバウンドな施策になっていないか」を常に社内で丁寧に議論しています。
――年々、製品・サービスを選択する理由としてブランドが大事な要素になっていて、ビジネスにも直結する時代がきていると感じています。
水落:そうですね。特に以前と比べSNSなどでBtoBブランドに対する声を拾えるようになったので、たとえ小さな顧客接点であってもそこでマイナスな印象を与えてしまうと、その積み重ねで悪いブランドイメージがつき、選択肢から外されている場合があります。
「手当たり次第にメールが送られてくる」「一人の営業担当者がしつこく電話してくる」「サポートの対応が冷ややかで要領を得なかった」など、企業側からすると小さな接点だとしても、顧客からするとそれが企業全体に対する印象となります。ちょっとした対応で企業へのイメージがガラッと変わったことは誰でも一度はありますよね。
だからこそ、相手の興味関心を引き寄せるようなインバウンドな思想に基づいた施策を実施し、まずは価値を感じてもらうことに徹するべきと私たちは考えています。
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価値提供に重きを置いた結果、トラフィックやリード数も倍増
――それではサイトのKPIはどのように設定されているのでしょうか?
水落:リード創出をメインにしていないというと、数字を追っていないように思われるかもしれないですが、そんなことはありません。コンテンツが読者に響く・役立つ内容になっているかはブログの存在意義に関わるので、数字は非常に細かく見ています。
主なKPIは「リード創出数」と「検索エンジン経由のトラフィック」。結果的には他のオウンドメディアと同じような指標ではあります。先ほどもお話しした通り、今は課題解決策の切実度が相対的に高いと思われる方に解決策を提供できるよう、検索エンジン経由のトラフィックを重視しています。
また、リード創出数というKPIは先程の話と矛盾して聞こえるかもしれませんが、こちらも読者の満足度を測るための指標として見ています。
HubSpotの場合、ブログ上のCTAは“営業担当者への問い合わせ”や“製品カタログ”など、購入に直結するようなコンテンツではなく、ブログ記事の内容に関連するより詳細なダウンロードコンテンツ(ebookやテンプレート、HubSpotの無料ツール内の関連機能への導線など)を設置しています。製品を売り込むのではなく、あくまで読者が求めている情報を提供し、課題解決に役立てていけることを主眼に置いているからです。
ブログ記事を読んだ方に、HubSpot上でもっと詳しい情報を知りたいと思っていただけたか(=ブログ内容に納得いただけたか、満足いただけたか)を確認する指標として、リード数を追っているのです。
――それぞれ、直近の成果について教えてください。
水落:数値は月次で確認しているのですが、2020年1月から1年間で検索経由のトラフィックは2倍、ブログ経由で醸成したリード数は3倍になりました。
今年も引き続き順調に伸長していて、トラフィックに関しては2020年のように上下することなく右肩上がりで上昇中です。リード創出数も2020年後半から回復していて、その頃と比べ平均して1.5~2倍の水準で推移しています。
――一時期、トラフィックの数値が落ち込んだ原因は分析されていますか?
水落:2020年5月にGoogleのアルゴリズム更新があり、色々なメディアが影響を受けました。「HubSpot 日本語ブログ」も例に漏れず、数値が落ちてしまいました。
落ちてしまった原因は厳密には特定できないのですが、Googleの目指す姿はわかります。Googleは検索エンジンを立ち上げた当初からずっと「ユーザーにとってより良いコンテンツを提供すること」を理念に仕組みを構築しています。そして、HubSpotも目指すところは同じです。結局、良いコンテンツの提供に徹するという、これまでの方針を一層強化しようという結論に至りました。
実際に何をやったかというと、既存記事の中で、読者に価値提供できていないコンテンツがないかを確認し、記事によっては非公開もしくはリライト対応して、価値提供できるコンテンツだけがある状態に整備しました。
――価値提供できているかどうかは、どのように判断したのでしょうか。
水落:記事ごとのトラフィック・リード醸成数と、記事の内容ですね。たとえば、流入がほとんどなく、内容も薄いものは非公開に、流入が一定数あり、情報を更新すれば読者に価値提供できる記事にできると判断したものはリライトするというように、900近くあった記事を精査し、更新しました。もちろん、既存記事の整備だけでなく、新規記事の作成・公開も並行して行いました。新しい記事が定期的に更新されているのも、読者から価値を感じてもらえる大事な要素ですしね。
既存記事の整備作業に3~4ヵ月ほどかかりましたが、終えたのちは功を奏したのか上昇トレンドに戻すことができました。
網羅的なコンテンツ提供が鍵
――その後も成果を上げ続けていますが、その要因はどこにあるとお考えですか?
水落:やはり、HubSpotが編み出した「トピッククラスターモデル」をストイックに実施できる環境を整えつつ、公開本数を増やしていった結果ではないかと分析しています。
HubSpotのトピッククラスターモデルでは、まずは1つ「トピック」を選定して親記事(ピラーコンテンツ)を作成します。次にそのトピックについて検索されている方たちの興味関心をリサーチし、それぞれの関心に沿って子記事(クラスターコンテンツ)を作成して、親記事に内部リンクを集約します。
たとえば、「アクセス解析」というトピックを設定するとします。アクセス解析について知りたい方が検索しているキーワードをリサーチし「アクセス解析 ツール」「アクセス解析 ライバルサイト」などのキーワードを洗い出し、検索ユーザーのニーズを網羅した親記事と、個別のニーズにピンポイントで応える関連記事を作成します。親記事を中心に内部リンクを設置し、クラスターを形成することで、どの記事に流入しても、他の関連記事に飛びやすくする、つまり、検索ユーザーが知りたい情報を網羅的に提供し、まとめて見られる状態にするのです。
ポイントは、キーワードベースではなく「トピック」をベースにクラスターを形成する点です。従来のSEOだとキーワードに縛られていたと思うのですが、トピッククラスターの場合は検索ユーザーのニーズをベースに考えます。「アクセス解析」というトピックの場合、従来のSEOであれば「アクセス解析 無料」など親になるキーワードを軸に関連キーワードを洗い出していくと思いますが、トピッククラスターの場合は「直帰率」や「滞在時間」など、アクセス解析について調べているユーザーが検索しているかどうかをベースに設計しています。ユーザーが持つ課題に対し、網羅的に応えられるコンテンツを提供できるというわけです。
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成果に結びつく「トピック選定」3つの条件
――「トピッククラスター戦略」に基づき、読み手に価値を提供できるコンテンツを網羅的に提供していったことが成果につながったのですね。ではそのトピックはどのように選ばれているのでしょうか。
水落:カスタマーサクセスチームに協力をあおいで顧客にヒアリングしたり、営業担当に見込み客の商談の内容を聞いたりと、顧客と見込み客双方の課題をヒアリングして決めるようにしています。
見込み客の方々は自社の課題が明確になっていない場合も多いです。そのため見込み客には現在何に悩み、どのようなトピックについて調べているのかを聞いていくことで潜在的なニーズを探り、どのようなアプローチをするべきかのヒントを探っていきます。
一方、自社の課題を明確に認識し、その解決策としてHubSpotを導入している顧客には、導入前にかかえていた課題や、なぜHubSpotに決めたのかを聞いていくことで、同じような状況に置かれている潜在顧客に提示する解決策のヒントを探っていきます。
――ヒアリングによって選んだトピックにはどんなものがあるのでしょうか?
水落:たとえば、昨年はコロナの影響でオンラインシフトせざるを得ない企業がかなり増え、同時にオンライン会議ツールとしてZoomが話題になりましたよね。実際、お客様からも「Zoomの使い方を知りたい」との声を多くいただいていました。
必ずしもHubSpotのビジネスに直結するトピックではないのですが、コロナ禍以前から当社ではZoomを活用していたので、その知見が役立てられ、さらにビジネスを支援するというブログのミッションにも沿っていることから「Zoom」トピックを選定。ダウンロードの方法から使い方、ウェビナー機能の違いなどをシンプルに紹介する記事をアップしていきました。
また別の例では、「インサイドセールス」の立ち上げに悩んでいる声と、それに対しHubSpotが有効だという声を得たことからアイデアをもらい、インサイドセールスをトピックに選定しました。一口にインサイドセールスと言っても、そもそもインサイドセールスについてよく分かっていない方もいれば、インサイドセールスの組織立ち上げの手順で迷われている方、自社に適したツールを探している方など様々ですので、各フェーズの課題解決に役立つノウハウを、自社他社のものに関係なく役立つツールとあわせて紹介をしたこともあります。
――「顧客・見込み客の課題」をヒアリングし、それを解決できるトピックを選定していくのですね。
水落:「1、HubSpotの見込み客・顧客へのヒアリング」に加えて「2、自社が強みを発揮できる場所」「3、市場のトレンド」、この3つの条件が揃うトピックを選ぶようにしています。
3つすべて大切ですが、最も大事なのは見込み客・顧客へのヒアリングで、トピック選びはここから始めるべきと考えています。オウンドメディアを運営する上でネタの枯渇に悩むのはよく聞く話ですが、お客様に話を聞きにいけば、その心配が杞憂なほどネタは沢山出ますし、上記3つの条件を満たす内容が出てきやすいんですよね。
やりがちなのは、市場トレンドからトピックを考えることだと思いますが、それだと他社と同じような内容になってしまう可能性が高い。自社の強みを生かせるエリアから外れてしまう場合もあります。そのようなリスクを回避するためにも、まずはお客様に話を聞くことからはじめるといいと思います。
お客様の声から求められている情報の見当をつけ企画するやり方は、オウンドメディアに限らず、どのチャネルにも通じるやり方です。
オウンドメディアは目的ではなく手段
――最後に、オウンドメディア活用に今後取り組みたいと考えられている方々に向けてメッセージをお願いします。
水落:これからオウンドメディアの立ち上げを考えている企業についてアドバイスを送るとしたら、本当に手段としてオウンドメディアなのかを疑うところから始めることをお勧めします。
そしてどういうチャネルを選定したとしても、それがお客様のためになっているのか、利己的な施策になっていないかは都度社内で話し合って確認しておくべきでしょう。
私たちはインバウンドの思想をベースに施策を展開していますが、いまだに広告クリエイティブひとつとっても、それがインバウンドなのか社内で議論をしています。正解はないので模索しながら、自分たちのお客様にとって必要なコンテンツを届けていければと思っています。
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