適切なCookie対応は、広告効果を改善するチャンスに
コンバージョンAPI(以下、CAPI)は、Facebook社によるCookieレス時代に対応した広告計測・最適化ソリューション。本記事ではセゾン自動車火災保険における導入の様子から、そのコンセプトと導入のポイントをお伝えします。
取材にお答えいただく方
セゾン自動車火災保険 黒川美帆氏
電通デジタル 三谷壮平氏(CAPIの導入を支援)
Facebook Japan 田中慎一郎氏
――はじめにセゾン自動車火災保険の黒川さんから、事業の概要とCookie規制への対応、CAPI導入の背景についてお話しいただけますでしょうか。
黒川:当社がメインで扱っている「おとなの自動車保険」は、通販型の自動車保険です。代理店型とは異なり店舗を持たず、お客様の入り口はオンラインがメインのため、デジタル広告を重点的に活用してきました。Instagram/Facebook広告もその一つです。
デジタル広告のメリットは細やかなターゲティングが可能な点でしたが、Cookie規制によってユーザーの行動が見えにくくなると、それは難しくなります。商品へのニーズが高まるタイミングを読むのも困難になるので、効果的な広告配信がしにくくなるだろうと懸念していました。
そのため2年ほど前から規制に対する施策はいくつか実施してきましたが、Cookieを利用した配信と比べるとどうしてもパフォーマンスが低く、CPAも高騰してしまったため、どれも本格導入に至ることはありませんでした。有効な打ち手が見つかっていないことに危機感を抱いていたところ、昨年冬頃にCAPIの導入をご提案いただいたんです。
――続いて、Facebookの田中さんから、CAPIについて説明をお願いします。これまでFacebook/Instagram広告には「Facebookピクセル」が使われていましたが、何が異なるのでしょうか。
田中:CAPIはブラウザに依存することなくコンバージョン情報を連携し、広告効果の計測・改善に活用できる機能です。マーケターの皆様には、CAPIの導入により「データの流れが変わる点」「データのコントロール性が高まる点」に注目していただきたいです。
これまで当社が広告配信に利用するデータというのは、広告主のWebサイトに埋め込まれたタグ、いわゆるFacebookピクセルがブラウザ上で作動することで、広告プラットフォームに連携される仕組みでした。そのため、この先Cookie規制強化でデータが送られなくなると、連携が上手くいかなくなる恐れがあります。
その問題を解消するために、CAPIは広告主のサーバーに蓄積された行動ログなどのデータを、直接Facebookサーバーへと連携できるようになっています。「サーバー to サーバー」でデータをやり取りできるというわけです。
――なるほど。ブラウザを介さないため、Cookie規制の影響を受けないのですね。
田中:はい。さらにFacebookピクセルと比較すると、CAPIはデータのコントロール性に優れています。広告主や代理店側でサーバーに送るデータの種類やタイミングなどをデザインできるので、データの取り扱いに関して透明性を持たせられる。このことはプライバシー保護への意識が高まる昨今において、重要なポイントだと思っています。
広告業界におけるCookie規制は、大抵の場合リスクという認識でしょうが、その一方でプライバシーとパーソナライズ広告を両立する仕組み確立のチャンスでもあると考えています。また広告代理店にとっては、変化を主導することができればビジネス機会を得られるかもしれません。そうした背景もあって、Facebook社ではCAPIの開発を推進してきました。
「データ送付の自由度」が実装のポイント
――では、CAPIの実装の様子を教えてください。
黒川:実装にあたっては、データの取得場所が変わる点や、セキュリティや個人情報の取り扱いについて問題がないかどうかを、コンプライアンス部門に相談しながら進めていきました。電通デジタルさんにサポートいただいていましたので、実装にあたって当社で行った作業はサーバー上のタグ設置など、限定的なものでした。導入まで2ヵ月程度で、非常にスムーズに完了した印象です。
――電通デジタルの三谷さんは、どのようなサポートを提供されたのでしょうか。
三谷:主にどのデータをどのように取得し、送付するかの設計を行いました。送付できるデータ自体は、受け口となるCAPI側で定義されている“規定演技”ですが、そのデータをどのような技術で取得するかは実装者、つまり広告主に任された“自由演技”になっています。
取得には様々な方法があり、場合によっては「手間を掛けて実装したのに、従来のピクセルタグと取得できる情報がほとんど何も変わらず、パフォーマンスに良い影響が出てこない」というケースもあります。そうならないために我々は、持続可能性の高い取得方法の研究も行いました。
セゾン自動車火災保険さんのケースでは、サーバーに送るデータはアクセスログとフォーム入力情報に大きく分かれていたのですが、後者は個人情報にあたるため使用せず、今までピクセルタグで取得していたデータのみを送る選択をしました。具体的には、既に導入されていたGoogleタグマネージャーに設置したタグから得た情報を、クラウド環境上で処理し、サーバー側のログとしてアクセスログを集めるようにしたのですが、既存ツールを用いることでタグの設計を大きく変えることなく完結できました。
――個々のビジネスに合わせた対応が必要なのですね。
三谷:はい。自由度が高くいろいろなやり方ができるからこそ、当社ではその中から一番クライアントさんに負担をかけず、かつ実装することで取得できる情報量が増える“持続可能な形”をご提案するよう心がけています。ちなみに個人情報の利用が必要な場合は、法的な論点整理のコンサティングや同意管理プラットフォームの構築を含めたサポートも提供しています。
規制によるデータ欠落は既に始まっている
――では、導入後の成果について教えてください。
黒川:Facebookピクセルのみを活用したキャンペーンと、CAPIを併用したキャンペーンの結果、2つのパターンを比較したところ、CAPIとピクセルを併用したキャンペーンは、CV件数送付量が16%増加、さらにCPAが14%削減という結果が出ました。
正直なところCookie規制によって困難になる従来の計測の代替手段として、“防御”という思いでCAPIを取り入れた側面が強かったので、かえってパフォーマンスが向上したことは嬉しい誤算でした。
三谷:Cookieが使えなくなるのはまだ先の事と思っていらっしゃる方も多く、CAPIも将来の備えという位置づけで捉えられがちですが、今回の結果は、それが現在進行形で進んでいる話だということを如実に示していると思います。
現時点でこれだけ数値が改善したということは、既に開始されている規制によってイベントの一部が欠損し、広告配信にもその影響が及んでいる可能性が高い。今対策をとるかどうか悩んでいるというのは、例えるならば「既に雨が降り出していて濡れているのに、傘を差すかどうか悩んでいる」状態に近いでしょう。だからこそ、CAPIの対応も急務ではないかと思っています。
CV送付量が増えると、ポジティブな循環が発生する
――Facebook社としては、今回の取り組みの成功要因をどのように分析していますか。
田中:今回の成功要因の一つは、ポジティブフィードバックと呼ばれる良い循環を作れたことにあると思います。当社の広告配信プラットフォームは機械学習が搭載されているので、CV送付量が増えることで、広告品質を予測する精度が高まり、さらによい結果が得られるようになります。
三谷:弊社がご支援した実績としては今年の3月末時点でセゾンさん含め4社ですが、すべての案件でパフォーマンスが10%程度改善しているので、そこからも「雨が降っている影響」の大きさを感じます。また、早くスタートすればそれだけデータも蓄積し、広告配信の効果を高めることにもつながります。
――実装の際の注意点や、スムーズに進めていくポイントはあるのでしょうか。
田中:おっしゃる通り、できるだけ早く手を打つことが重要ですが、CAPIの実装にはある程度の時間がかかることにご留意いただきたいです。今回2ヵ月で実装できたのは、セゾン自動車火災保険さんの社内調整力に加えて、電通デジタルさんの負担をかけない実装が上手く働いたためです。実際にはそれよりも長い時間を要するケースがほとんどなので、導入を検討されている企業の皆様には早めの対応をお願いしているところです。
三谷:Cookie対応全般に言えることですが、導入を進める際は、“接続先起点”の発想に陥らないよう注意が必要です。なぜならFacebook社が提供するプラットフォーム以外でも似たような取り組みが始まったとき、利用するデータ自体はほぼ同じなのに、接続先の媒体ごとに都度情報の収集・整形の基盤を構築していては、二重三重のコストがかかることになるからです。
そこで先に共通基盤を構築し、媒体ごとの多少の差異はクラウド上で各媒体用に整形することで、拡張性の高い実装を実現していくことが大切だと思っています。
CAPIの可能性:ファネル下部の最適化、オフラインデータ活用も
――最後に、皆さんそれぞれの今後の展望を聞かせてください。
黒川:冒頭お話したように、オンラインでマーケット展開している企業としてCookie規制の対策はマストだと理解しながらも、なかなか良い方法が見つからずにいました。
ですが今回CAPIを実装したことで、Cookie規制の影響がどれほど大きいものなのか、それと同時に対策することの重要性とそれによる効果を実感しました。目まぐるしく変化する環境についていくのは大変ですが、情報のアンテナを広げつつ、良い結果が得られそうなものがあれば今後も積極的にトライしていきたいです。
三谷:CAPIを従来のCookieベースの計測で取れていたデータの補完だけでなく、オンライン行動のより深い地点、つまりディーパーファネルの最適化に役立ててもらい、高価値なユーザー獲得に貢献するサポートができたらと考えています。
たとえば最近ですと、見積もりの時点で成約を予測するモデルを作り、そのモデルのスコアに対して最適化をかけることで疑似的に成約を最適化していく取り組みをはじめています。そうした新しいユースケースを見出して、セゾン自動車火災保険さんを含むクライアント様にご提案していけたらと思います。
田中:当社では、プライバシーとパーソナライズ広告は必ずしも対立するものではないと考えています。両者を両立し、利用者と企業に対し価値提供できるよう、様々な取り組みをしていきたいと思っています。今回のような成功事例を外に発信するのも責務のひとつです。同時に環境も変わっていくと思うので、それに合わせて適切なソリューションを開発していくことが重要だと考えています。
CAPIについては、使い方にはまだまだ発展の余地があります。たとえば、CAPIで取り込めるデータの種類は多様で、オフラインデータも含まれます。オフラインの購買データを取り込むことで、オンオフ統合での効果測定も可能になりますので、そうした世界観を見据えて、展開を進めていきたいです。
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